プロローグ「きっかけ」
ある日の深夜、天井から垂れ下がった短い線、その先にある輪状の門を眺めていた。
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僕は学生時代、何の部活もせず、特に変わった趣味や特技を持たず、
ただ周りと同じように「平凡」に生きていた。
少し所謂、陰キャ気味ではあったが、友達がいないわけではなかったし
...それはいいんだ。
授業後は家に帰ってゲームをしたり、アニメを見たり、時々塾に通ったりして「普通」に生きていた。
どこにでもあるような「平凡」な大学を卒業した僕は「普通」の会社に入って
誰もが感じるような不安に直面した。
怖い上司に、慣れない仕事、吐くまでお酒を飲む破目になったり。
苦しかった。が、どうしようもないものではなかった。
周りの同僚は乗り越えていった。
それに自分もどうにかして乗り越えて「普通」に乗り越えていけると直感していた。
ではなにが嫌だったのか。
その答えは分かり切っている。
僕は何の取柄もないのだ。
これは自分を蔑んでいるのではない。
僕だって「普通」の人にできることなら「それなり」にこなせた。
例えば、自炊、洗濯、掃除等当たり前の家事をこなしたり。
宿題や書類を期限までに提出したり。
うざい上司につかまっても適当に話を聞いて逃れたり。
ただ、没頭できるほど素晴らしい趣味があるわけでもないし、
仕事だって生活するためにやっているという感覚だ。
周りの同僚は釣りに没頭したり、それぞれ好みの音楽やスポーツを嗜んだり...
アニメやゲーム好きの友人だって自分とはそれにつぎ込む情熱が違った。
いつの間にか周りとできていた差だった。
仕事だってそうだ。
それに向いている人や、それを楽しんでいる人とは歴然とした大きな違いがあった。
趣味の件のように情熱が違ったり、明らかにデスクワークとかの効率が違ったり。
僕がやっていることは、
僕以外の人間でも同じことができるという不安が拭い切れなかった。
これからどうすればこの不安を払拭できるのかわからなかった。
誰だって不安を感じることはある。自分よりも大きな不安に直面している人もいるだろう。
しかし、そういった人々が必ずしも僕と同じ行動をとるとは限らない。
いやむしろ、僕の不安なんてたかが知れているのに、僕はこんな選択をしているのだ。
僕は本当に根っからの弱虫なのだろう。
僕は自分がどうしたいのかわからなかった。
僕は...
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僕はもうそんなのどうだってよくなっていた。
決断したのだから。
来世はせめてもっと特徴的な人間になれますように...
なんて考えながら頭が自分で用意した門をくぐったことを確認して
足元にあったゲーミングチェアの背もたれを蹴り飛ばした。
これはそんな僕が来世に行く前に違う世界に飛ばされた時のお話。