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怪物探偵倶楽部 ~アリス・イン・モンスターズ~  作者: 鷹司
第二章 美少年、美少女、そして事件
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話し合いの結果

「でも、本当に犯人は人外の者なんですか? どうしても、そこがまだ信じられなくて……。何か証拠となるようなものでもあるんですか?」


 カミラが伏し目を上げて、アリスにもっともな質問を投げ掛けてきた。アリスたちは『自分たちの体質的』に人外の存在を素直に受け入れることが出来たが、カミラたちのような一般人からしてみれば、人外の存在はフィクションの登場人物でしかないのだろう。信じられないという気持ちも分からないではなかった。


「証拠という証拠はまだないんだけど……」


 アリスが口ごもると、部員が助け舟を出してくれた。


「アリス、物的な証拠はなくとも、怪しい野郎がひとりいるだろ! 言うなれば、あいつは間違いなく生きた証拠と言えるからな!」


 勇ましい声を上げたのはコウである。怪しい野郎が誰のことを指しているのかは、アリスたちは皆承知していた。


「ねえ、コウ。あの少年についての話は後回しにするって決めたはずでしょ」


 のどかが静かにコウを正した。


「それはそうだけど……。話が進まないから、ついあの野郎のことを思い出しちまって……」


 だが、コウの発言が思いも寄らない効果を産んだ。


「──ねえ、その怪しい人って、どういう人のことなの?」


 カミラがコウの発言に食いついてきたのである。カミラはコウの顔を見つめて、次に答えを求めるようにアリスの顔に目を向けてきた。


 ここまできたら優希のことを隠し続けるわけにはいかない。アリスはカミラたちにも優希のことを話すことにした。


「あのね、ひとり、怪しい人間がいるの。もちろん、だからといってその人が絶対に犯人だと決め付けているわけではないのよ」


 一応、しっかりと釘を刺したうえで、さらにアリスは話を続けた。


「怪しい人間というのは、つい最近あたしたちの学校に転校してきた生徒なんだけど、もしかしたら、その生徒のことをあなたたちの内の誰かが知っているんじゃないかと思って、実はこうして話を聞きに来たの」


「その怪しい転校生というのは、具体的にどういう生徒なんですか?」


 カミラが重ねて訊いてきた。


「あんたと同じ金髪の美少年様さ」


 優希のことを快く思っていないコウが答えた。


「金髪の……美少年……?」


 カミラが不可解な表情を浮かべた。


「ああ、ルーマニア人と日本人のハーフらしいぜ」


 さらにコウが意味ありげに付け加えた。ルーマニアと言えば、吸血鬼の産まれた国である。


「えっ、ルーマニアって……それって……でも、まさか、そんな……」


 端整なカミラの顔に初めてそれと分かるほどの動揺が浮かんだ。


「まさかカミラさん、その転校生について何か心当たりでもあるの?」


 カミラの反応を見て、居ても立ってもいられなくなり、アリスは体を前のめりにしてカミラに迫った。


「いえ、まだ断定は出来ないけれど……もしかしたら……。それで、その転校生の名前はなんていうの?」


「──本人はアルカール・優希と名乗っているわ」


 アリスはカミラに伝えた。


「アルカール……優希……」


 カミラが何事か思い出すような、あるいは何か思案するような、そんな表情で宙の一点を見つめた。


 十数秒後──。


 カミラが視線をテーブルに戻した。表情に鋭さが増していた。そして──。


「──その転校生が犯人よ。間違いないわ」


 はっきりとそう言い切ったのだった。


「えっ、本当なの? カミラさん、それっていったいどういうことなの? カミラさんは優希くんのことを知っているの?」


 アリスはすぐさま矢継ぎ早に質問を投げ掛けた。


「詳しいことは私も分からないんだけど、襲われた友人が私に話してくれたことがあるの。最近ネットを通じて、格好いいハーフの男の子と知り合ったって──」


「ねえ、カミラ、そんなことがあったの? あたし、初めて聞く話だけど……」


 ミユが驚きの声を上げた。


「そうなの? きっとミユには後で教えて、びっくりさせるつもりだったんじゃないかな?」


「それでカミラさん、そのハーフの男の子というのが、もしかして──」


 アリスは一番重要な質問を繰り出した。


「ええ、私は話を聞いただけで、その本人を実際に見たわけじゃないけど、友人たちの話し振りを思い出すと、多分、あなたたちの言っているアルカール・優希という生徒と同一人物だと思うわ」


 まさかの展開だった。点と点がしっかりと直線で結ばれた瞬間だった。


 アリスはのどかと顔を見合わせた。事件の犯人に繋がるような情報が少しでも得られればと思ってはいたが、まさかこんな有益な証言が得られるとは思ってもみなかった。もちろん、襲われた二人の女子高生と優希が知り合いだったというのが分かっただけで、事件そのものを優希が起こしたという証拠はまだ何もない。しかし、調査が大きく進展したことに間違いはなかった。


「アリス、これはもう決まりと見てもいいんじゃないのか?」


 コウの顔にはすでにやる気が漲っている。


「そうね。ここまでいろいろな材料が出てくると、逆に否定することの方が難しいわね」


 アリスの気持ちも傾きつつあった。だが、決定的な証拠が出揃っていない以上、まだ断言は出来ない。


「ねえ、のどか。この状況、どう考えたらいいと思う?」


 倶楽部の頭脳役に助言を仰いだ


「今日得た情報を本人に直接ぶつけて、その反応を見てみるのもいいと思うけど、果たして尻尾を出すかどうかは微妙なところね……」


 のどかにしては珍しく語尾を濁らせた。のどかも判断を決めかねているのだ。


「まあ、たしかに話したところで、簡単に白状するとは思えないけどね」


 櫻子がもっともらしいことを言った。


「それじゃ、どうするんだよ? 警察に行って、この野郎が犯人ですって突き出すのか?」


 コウが櫻子相手に声を荒げた。


「そんなの無理に決まっているでしょ! 証拠も何もないんだから!」


 相手がコウだと一歩も引かない櫻子である。


 売り言葉に買い言葉で、例によって例の如く、二人がいつものやりとりを始めかけたとき、第三者の声が割って入った。


「──それじゃ、正体を見破る為のワナを仕掛けるというのはどうかしら?」


 意外な意見を言い放ったのは、先刻からずっと考え込む様子を見せていたカミラだった。どうやら、優希の正体を暴く方法を考えていたみたいだ。


「ワナ?」


 アリスはおうむ返しに訊いた。


「そう。私たちの内の誰かがオトリになって、そのアルカール・優希とかいう転校生をおびき出すの。そして被害者との関係を問い質して、相手が本性を見せて襲い掛かってきたところで、逆に捕まえるの。そうすれば、その転校生も言い逃れは出来ないはずでしょ?」


 カミラが自分の考えを皆に披露した。


「待って! それは余りにも危険過ぎるわ!」


 即座にのどかが反対の声を上げた。


「さっきアリスが話したけれど、相手は本物の吸血鬼の可能性が高いのよ。そんな相手にあなたたちを向かわせることは出来ないわ。もしも、どうしてもその方法を使うのであれば、オトリ役は私たちの中から出すのが当然よ。これ以上被害者を出さない為にもね」


 のどかの言い分は妥当すぎるくらい妥当だった。


「でも、あなたたちはみんなその転校生に探偵倶楽部の部員だと素性を知られているんでしょ? だとしたら、その転校生だって、あなたたちから会って話したいと言われても、警戒をするんじゃないかしら?」


 カミラの反論意見は的確で、正鵠を射ていた。


「たしかにそれも一理あるわね──」


 櫻子がカミラの意見に一定の理解を示した。


「のどか、ここはカミラさんたちの力を借りるのも、一考に値するんじゃないのか?」


 今まで黙って話に耳を傾けていた京也が初めて口を開いた。


「仮に、カミラさんたちにオトリになってもらってワナを仕掛けるにしても、おれたちが万全のバックアップをして、カミラさんたちを全力で守ればいいわけだろう? いち早く事件を解決する為には、この場合、非常手段を使うのもありだと思うぜ」


「──慎重派の京也がそこまで言うのであれば、私もこれ以上強くは反対しないけれど……。いいわ、最終判断は部長に任せる」


 のどかがアリスにバトンを渡した。最終ランナーを任されたアリスが出した結論は──。


「カミラさんたちは本当にそれでいいの? 危険を承知のうえであたしたちに協力してくれるというの?」


 アリスはカミラたち三人の意思の最終確認をした。


「ええ、もちろんよ。そもそも襲われたのは私たちの友人なんだから、協力するのは当たり前よ」


 カミラは強い口調ではっきりと明言した。


「──あたしも協力するわ。もちろん怖い気持ちもあるんだけど、これだけの人数がいればなんとかなると思うし」


 ミユも賛成を示した。これで残るはきららひとりである。この三人の中で一番気弱そうに見える少女だ。果たして、きららはどう考えているのか──。


「わたしも……これ以上友人が傷付くのは見たくない……。だから、皆さんに協力することにします」


 声こそ小さかったが、その語気にはしっかりとした意志が感じられた。


 三人それぞれの意思を聞いて、アリスもようやく踏ん切りがついた。


「カミラさんたち三人の気持ちは十分に分かったわ。これで決まりね。それじゃ、ワナを仕掛けて、アルカール・優希の正体を暴くわよ! そして、この『吸血鬼事件』に終止符を打つわよ!」

 

 アリスの呼びかけに、その場にいた全員が大きく頷いて賛同した。いや、正確には約一名、眠そうにしていて話の内容をまったく理解していない者がいたが……。

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