表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
怪物探偵倶楽部 ~アリス・イン・モンスターズ~  作者: 鷹司
第二章 美少年、美少女、そして事件
11/53

事件翌日

☆登場人物紹介


~怪物探偵倶楽部~


魔王堂アリス──怪物探偵倶楽部の部長・明朗闊達な美少女


犬神コウ──勇猛無比な少年・ただし、行動が直情径行になりがち


猫目櫻子──絶世独立な美少女・ただし、性格は唯我独尊の気質有り


巨人京也──豪放磊落な巨漢少年・倶楽部の大黒柱


白包院のどか──頭脳明晰な知的少女・倶楽部の頭脳


闇路さき──常にマイペースで春風駘蕩な少年

 翌日──登校早々、六人は例によって例の如く、いつもの部室に集合した。話題の中心はもちろん、昨日遭遇した事件についてである。


 結局、あの後アリスたちはすぐに警察に連絡をした。発見者である六人に対しての警察の事情聴取は、コウの父親が間に入ってくれたおかげで、簡単な話を聞かれただけで済んだ。六人は夕方には家に帰ることを許された。


 一方、駆けつけて来た救急隊員の手によって白包院病院に運ばれた美佐の容態はといえば、のどかの父親の診断によると、のどかが想像した通り、催眠術による昏睡状態にあり、そのまま白包院病院に入院する運びとなった。今現在も病院の一室で催眠という名の強制的な眠りについている。



「──ということは、鈴原さんから話を聞くことは当然無理ということよね?」


 のどかからの報告を聞いたアリスは確認の質問をした。


「そうね、鈴原さんに掛けられている催眠術が解けない限りは、話を聞くのはまず無理な状態よ」


 のどかが冷静に返答をする。


「でも、喉を噛まれたわけじゃないし、いくら催眠術といっても、そんなに効果がずっと持続するものなの?」


 櫻子は訝しげな表情を浮かべている。


「催眠術を施したのが普通の人間ならば、催眠術の効果は一日ももたないと思うわ。でも、鈴原さんに催眠術を掛けたのは、本物の吸血鬼なのよ。そうなってくると話はまったく違ってくるわ。中世の歴史書には、少女時代に掛けられた催眠術の効果が百年以上続いたという記述もあるくらいなのよ」


「百年も!」


 訝しげな表情から一変、今度は大きく口を開いて驚く櫻子。顔立ちが派手なだけに、表情がまことに豊かである。


「まあ、それは極端な例だとしても、それだけ吸血鬼の催眠術の効果は凄まじいということよ。鈴原さんに掛けられている催眠術も、私たちが想像している以上のものだと考えた方がいいわ。おそらく吸血鬼に怯える鈴原さんの恐怖心を逆に利用して、心を閉ざしてしまうような暗示効果を伴う催眠術を掛けたんだと思うわ。もしもこの催眠術を無理やりにでも解こうとしたら、鈴原さんの心に大きなダメージを与えかねないでしょうね」


「つまり事実上、鈴原さんに掛けられている催眠術を解くことは出来ないということね」


 最後の結論部分をアリスが引き取った。


「ええ、そういうことよ。ただし、まったく策がないというわけでもないけど──」


 なぜかのどかは視線をさきに振り向けた。


「鈴原さんに催眠術をかけた吸血鬼よりも、さらに力のある者が催眠術を掛け直せば、あるいは鈴原さんの意識が戻る可能性も考えられなくもないけど──」


「さらに力のある者か……」


 アリスはのどかの視線を追って、さきに目をやった。『朝に弱い』さきはいつもと同じく、半分眠気顔でイスに座っている。果たして、今までの話をちゃんと聞いていたかどうかも怪しい。


「まあ、この状態じゃ、どう考えても無理ね」


 アリスは早々に結論を下した。


「『今のさき』には確かに無理ね。ただし、『もうひとりのサキ』なら、もしかしたら──」


 のどかが意味有りげなつぶやきを発した途端──。


「じょ、じょ、冗談でしょ! なんで『アイツ』に頼まないとならないのよ! あたしは世界で一番『アイツ』のことが嫌いなのよ! 『アイツ』の話題すら聞きたくないんだから!」


 アリスは嫌悪感丸出しの大きな声で抗議した。


「『こっちのさき』は好きなのにおかしなものね。見た目は何も変わらないでしょ」


 櫻子がさらりと爆弾をぶち込んでくる。


「ちょ、ちょ、ちょっと……いつ、あたしがさきのことを好きだなんて言った? いい、あたしとさきはごく普通の単なる当たり前の幼なじみで、それ以下でもそれ以上でもないんだからね! だいたい、いくら『見た目が同じ』と言っても、『中身』があれだけ違うんだから、もはや別人といってもいいわよ!」 


 アリスは頑なまでに否定したが、そんなアリスは見て、櫻子はひっそりとほくそ笑むのだった。恋愛事情に関しては櫻子の方が一枚も二枚も上手みたいだ。


「アリスがそこまで拒否するならば仕方ないわね。あと残された方法はただひとつね。鈴原さんに催眠術を掛けた吸血鬼を見付け出して倒すしかないわ。そうすれば鈴原さんに掛けられている催眠術もきっと解けるはずだから」


 のどかがアリスと櫻子の間で繰り広げられた不毛な色恋沙汰の話には一片の興味も示すことなく、落ち着き払った口調で淡々と話を進めていく。


「でも、それって結局、今回の事件について地道に調査するしかないってことでしょ?」


 アリスは話を本線に戻した。


「そういうことになるかしら」


「つまり一からの出直しってことね……」


 アリスはがっくりと両肩を落とした。


「アリス、そうがっかりするなよ。上手い具合に事件の目撃者と接触出来たこと事態が、ラッキーだったんだからさ」


 今まで黙って話の推移を見守っていた京也が慰めの言葉を掛けてくれる。過ぎたことなど気にしないのが京也の長所である。どっしりと構えて目の前の問題をひとつずつ解決していくのが、京也のスタイルなのだ。


「それでいったいこれからどうするんだよ?」


 京也と同じく今まで沈黙していたコウが初めて口を開いた。行動あるのみが信条のコウは、こういった作戦会議が苦手なのである。


「とりあえず議論はここまでにして、教室に向かった方が良いと思うけどなあ。そろそろ一時間目が始まるからね」


 まことに的確な意見を発した主は、眠そうに目をこすりながら壁に掛かっている時計を指差した。


「そうね。続きはまた昼休みにでも──」


 イスから立ち上がろうとしたのどかが、そこで不意に鋭い視線を部室のドアに飛ばした。


「どうしたの、のどか?」


 アリスの質問には答えずに、のどかは静かにドアに向かって歩いていく。


「──誰なの?」


 のどかが部室のドアを一気に開け放った。


「あっ!」

「えっ?」

「お前、なんで?」

「どういうことだ?」


 口々にあがる驚きの声を前にしても、その人物は一切動じる様子を見せることはなかった。


「今日こちらの学校に転校してきました、アルカード・優希(ゆうき)と言います。以後、お見知りおきを──」


 にっこりと人の良さそうな笑顔を浮かべて自己紹介をしたのは、昨日美佐の家の前で出会った、あの美少年に他ならなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ