THE プロレス2 〜プロローグ 3〜
国民的柔道家に勝利したことにより、大多数の国民はプロレスこそ最強の格闘技であると認識します。この一戦によりプロレスのネームバリューは一気に上がり、男はプロレスの父、とまで言われるようになったのです。
その一方で、敗者にも暗い影を落としました。不世出とまで謳われた、史上最強の柔道家は名を穢したとのそしりを受け、柔道界から追放。その名前さえ抹消されてしまったのです。
この試合が柔道界とプロレス界の、数十年にも渡る因縁、暗闘に繋がったのは想像に難くありません。
柔道界では、柔道家がプロレスの試合前後にだまし討ちに遭い、負けを演じさせられたというのが定説になっています。しかし、それが事実であるならば、国民が世界最強の格闘技と信じて疑わない、プロレスの存在自体が疑われることになってしまいます。
日本プロレスもまた、その出自の時点からグレーでアングラな空気に覆われていたのです。プロレスの父と呼ばれた男のそばにも、レフェリー、悪役レスラー、スポンサーはじめ、出自のよく分からない怪しげな人物が多数蠢いており、プロレス興行もまた、常に反社会勢力との繋がりが囁かれていました。
しかし、これは戦前から続く興業の裏面史でもあります。格闘技に限らず、スポーツ、芸能、国技とまで呼ばれる神事にさえ、反社会勢力(当時は反社会勢力という定義ですらなかったでしょう)の、存在は見え隠れします。取り立ててプロレスだけあげつらうような話ではありません。が、プロレスはそのグレーでアングラな部分も売り物である特性上、そんな噂もあえて利用していたフシがあります。しかし、これは非常に危険な諸刃の剣でもありました。
プロレスの父と呼ばれた男は反社会勢力の凶刃にかかり、プロレス絶頂期にあえなく一生を終えたのは誰もが知るところです。
表面上はただの刃傷事件として決着していますが、もちろん多くの人は納得なんかしていません。深い闇の存在を誰もが疑い、男の出自も手伝って、暗い悪意の気配を誰もが感じとろうとしました。これがただの事件であるわけがないという憶測は、世紀をまたいでなお根強く残っています。すべては戦争という不幸の影が色濃く残っていた時代に起きたことでもありました。
……あくまで、フィクションですからね?