コカ・コーラの空き缶
俺は、その日もいつも通り朝早くから学校へと向かっていた。鞄の中で筆箱と教科書が音を立てる。俺はいつも通り額の汗を拭いながら、いつもの通学路をいつも通りに走っていた。
毎日同じことの繰り返しだ。家から学校までの約2キロの道のりを毎日毎日行ったり来たり。何か非日常的なことが起こればいいのにと願うが、起こったら起こったで、きっと自分はその非日常を横目に走っていくだろうと思う。結局、自分はそんな人間なのだと自己完結し、もう1年が終わりそうになっていた。
しかし、いつもの曲がり角を曲がったとき、そこに『非日常』は置いてあった。
コカ・コーラの空き缶だ。
いつもの俺なら、気にせずにそのまま通り過ぎていただろう。誰かの捨てた空き缶だ。いちいちこんなのに気を取られていては、学校に遅刻してしまう。というか、道に置かれた空き缶ごときをいちいち気にしている人なんか、この世に存在しないはずだ。
しかし、今目の前にいる『これ』は、何故か独特な雰囲気を醸し出している。気になる。何故か気になる。触れてみたい。中を覗きたい。
俺は足を止めて、道の端に置いている空き缶にゆっくりと近づいた。
今にも中から何かが飛び出してきそうな空き缶。たかが空き缶を相手に、俺の鼓動は激しくなる。ゆっくりと左足、右足、左足…と近づいていく。
そして俺は空き缶を掴んだ。ひんやりとした感覚。掴みやすい丸みを帯びたその身体。今の俺は、豊満な女性をゆっくりと触っている気分だ。興奮してくる。
「中を覗こう…」
独り言を呟きながら、俺はゆっくりと、空き缶の中を覗いた。
底には文字が書いてあった。
『ミニゲームが無いやん。』
俺はゆっくりとこの空き缶を元の場所に戻した。そして、いつもの通学路を今日はゆっくりと歩きながらスタスタと進んでいった。