お題で書いたやつ
「……では次の御用預かり、便宜をはかっておくとしよう……」
「ありがたき幸せ……」
「越後屋、お主も悪よのぅ、ハッハッハッハ」
「お代官様こそ、フッフッフ」
ちろちろと怪しげに蠟燭が照らす、とある屋敷の一部屋。
商人からの賄賂で私服を肥やす悪代官、亜久大 勘之助と、越後屋の主人である、越後 弥太郎は二人、よからぬ会談をしていた。
「ではお代官様、つまらないものですがお受け取りください」
「ふふふ、わしの大好物の黄金もなかではないか、ありがたくいただいておこう」
悪代官は舌なめずりをしながら箱を受け取り、開ける。
中身は当然、モナカなどではない。
入っていたのは、一本のきのこであった。
「……?」
悪代官は首をかしげる。首をかしげたところできのこはきのこであった。
「越後屋。」
「お気に召しませんでしたか、申し訳ございませんお代官様。使いを出してもう一箱持たせてきますゆえ……」
越後屋は襖を開け向こうに座っている小僧に手招きをする。
「そうではない」
「お気に召していただけましたか」
「そうでもない。」
「では、いかがなされましたか」
「なんじゃ、これは」
「アガリクスにございます」
「アガリクス。」
「では私はこれで失礼……」
と、越後屋は帰ろうとするので悪代官はその袖を引っ張り、止めた。
「まてまてまて越後屋。」
「お気に召しませんでしたか、申し訳ございませんお代官様。使いを」
越後屋は襖を開け
「なぜそこからやりなおすんじゃ越後屋」
「アガリクスにございます」
「越後屋。わしがおかしいのか?」
「そのようなことはございませんお代官様」
「アガリクスとはなんぞや」
「南蛮の茸にございます。食べれば健康になるといわれております」
「なぜ黄金もなかではなくアガリクスなのだ」
「健康は……何よりの宝ですゆえ……では私はこれで……」
「ちょちょちょ越後屋。越後屋待て」
帰ろうとする越後屋を、悪代官は引き止める。
「どうなさいましたかお代官様。私もこれを信心し、毎日二本食べておりますがおかげで病気知らずです。では。」
「なぜあくまで賄賂をアガリクスで通そうとする……」
「健康は……」
「さっきも聞いた!」
と、突然ばたばたとたくさんの足音が襖の向こうで聞こえた。
「御用!御用!賄賂で私服を肥やす悪代官、阿久大 勘之助!並びに越後屋、越後弥太郎!神妙にお縄につけ!」
「ご、御用改めじゃと!どうする越後屋!」
「ここに我々がいなければ、賄賂の証拠もありません。逃げましょうお代官様」
「そ、そうじゃな!逃げようぞ!」
「お代官様、念の為顔を隠して……」
手渡された手ぬぐいはキノコ柄。あがりくすと文字も書かれている。
「ええいこんな時も!」
背に腹は代えられぬと顔を手ぬぐいで隠し反対の襖を開けると、十はくだらない提灯の明かりがこうこうと二人を照らした。
「回り込まれたぞ!どうする!」
「もはやこれまでか……」
腹をくくった二人の前に、どこからともなく茶色の衣を来た侍二人が現れ、役人たちをばったばったとなぎ倒しはじめた。
「さ、今のうちに!」
侍の一人に促されるままに、二人は走り始める。
「助かった…が、誰なんじゃお前たちは!」
侍は役人をなぎ倒しながら、答える。
「私達は!」
「あなた方が信心してくださっている!」
「「アガリクスでございます!」」
「いや、わし信心してないし!健康関係なくなってない!?」
「ありがとうアガリクス!さ、逃げましょうお代官様!」
「越後屋受け入れ早いのぅ!」
何はともあれ二人は逃げ延び、悪代官はときどきアガリクスを服用するようになったのだった。めでたしめでたし。