表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

終らない詩

作者: 曲尾 仁庵

毎日、書いているわけではない。

毎日、書くことができるわけでもない。

書けるけれど書かない。

書けなくて書かない。

机の前に座り、

じっと目を閉じて、

私は待っている。

私の中の焦燥が、

ゆっくりと降り積もり、

あふれ出す時を。


やがて私の中の悪魔が囁く。

何をしている。

どうして無駄に息をしている。

書け。

書け。

書かぬお前に価値はない。

書かぬお前に意味はない。

書けぬというなら、そら、

さっさと塩の塊にでもなってしまえ。


書くことが私の価値を保証するわけではない。

書くことが私に意味を与えてくれるわけではない。

しかし、

書かぬことが私の無価値を証明する。

書かぬことで私の無意味が確定する。

私には何もない。

他には何も。

物語の他には。


焦燥が頭の中の靄を払い、

かき混ぜ、捻じ曲げて、

物語を導く。

浮遊する言葉の輪郭を削る。

焦燥なき創作は、

虚ろな言葉の亡骸。

すぐに朽ちて散り失せ、

何も残りはしない。

追い立て、

駆り立てるものが、

物語の中心を圧縮し、

固く冷たい核を形作るのだと、

信じている。


ああ、

楽しい物語が書きたい。

幸せな物語が書きたい。

美しい物語が書きたい。

かっこいい物語が書きたい。

くだらない物語が書きたい。

笑ってしまう物語が書きたい。

悲しみを、

絶望を、

血を吐くような苦悩を、

乗り越える希望の物語が書きたい。

強さの頂に立つ英雄の孤独が書きたい。

強者に群がる美少女の乾いた瞳と打算が書きたい。

世界の命運を少年に託す大人たちの葛藤が書きたい。

世界を救う勇者を救う人々の勇気が書きたい。

世界を滅ぼす魔王の献身が書きたい。

魔物と手を携える未来が書きたい。

打ち捨てられた人々の、

忘れられた記憶が書きたい。


私が手に入れられなかった物語が書きたい。


筆力の無さに心の底からうんざりしても、

誰にも望まれなくても、

他人から見ればただの落書きでも、

私にとって物語は、

終らない詩。

私が息をする限り頭から離れない、

永遠の詩。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ