終らない詩
毎日、書いているわけではない。
毎日、書くことができるわけでもない。
書けるけれど書かない。
書けなくて書かない。
机の前に座り、
じっと目を閉じて、
私は待っている。
私の中の焦燥が、
ゆっくりと降り積もり、
あふれ出す時を。
やがて私の中の悪魔が囁く。
何をしている。
どうして無駄に息をしている。
書け。
書け。
書かぬお前に価値はない。
書かぬお前に意味はない。
書けぬというなら、そら、
さっさと塩の塊にでもなってしまえ。
書くことが私の価値を保証するわけではない。
書くことが私に意味を与えてくれるわけではない。
しかし、
書かぬことが私の無価値を証明する。
書かぬことで私の無意味が確定する。
私には何もない。
他には何も。
物語の他には。
焦燥が頭の中の靄を払い、
かき混ぜ、捻じ曲げて、
物語を導く。
浮遊する言葉の輪郭を削る。
焦燥なき創作は、
虚ろな言葉の亡骸。
すぐに朽ちて散り失せ、
何も残りはしない。
追い立て、
駆り立てるものが、
物語の中心を圧縮し、
固く冷たい核を形作るのだと、
信じている。
ああ、
楽しい物語が書きたい。
幸せな物語が書きたい。
美しい物語が書きたい。
かっこいい物語が書きたい。
くだらない物語が書きたい。
笑ってしまう物語が書きたい。
悲しみを、
絶望を、
血を吐くような苦悩を、
乗り越える希望の物語が書きたい。
強さの頂に立つ英雄の孤独が書きたい。
強者に群がる美少女の乾いた瞳と打算が書きたい。
世界の命運を少年に託す大人たちの葛藤が書きたい。
世界を救う勇者を救う人々の勇気が書きたい。
世界を滅ぼす魔王の献身が書きたい。
魔物と手を携える未来が書きたい。
打ち捨てられた人々の、
忘れられた記憶が書きたい。
私が手に入れられなかった物語が書きたい。
筆力の無さに心の底からうんざりしても、
誰にも望まれなくても、
他人から見ればただの落書きでも、
私にとって物語は、
終らない詩。
私が息をする限り頭から離れない、
永遠の詩。