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終春プロローグ  作者: 毒メガネ
2/2

俺の青春……


〜翌日

眩しいほどのお日様が……(中略)。

毎朝やる決めゼリフみたいものを今日も一式やり終えると今日もまた学校という務所に行ってきまーす☆

誰も気づいてくれないけど。


「うあああああああああああ(棒)」

この広い正方形の檻の端で俺は唸っていた。

ガッコーキライ。

なんで集団で授業受けるんだろうね。なんでみんなで受けるんだろうね。俺は個別がいいな。

あ、ダメだ。個別だと授業中だらけられない。まったく生きづらい世の中だ。日本の政治家は一体何をしているんだ。

「何机にキスしてんだ。妄想もそこまで行くと狂気だな」

と、俺の耳にそいつの声が届くと同時、俺の頭にコツンと何かが当たる感覚がした。

何かと思って見上げてみると

「おお〜〜鳴海」

そこには俺の数少ない友達がいた。


---鳴海(なるみ) 央空(ひろたか) 高校二年


薄茶色の髪をワックスで固めたチャラい印象を覚える。天性から授かったその顔は誰もが認めるイケメン。大きな焦げ茶色の目に口元から何からシュッとしている。耳には数個の穴があり、休日にはピアスをはめているそうだ。

俺は幼少期から影が薄かったせいか、一人でいることが多かった。そのため一人でいることになんの不満も無いし、むしろ好んでいる方だ。

鳴海はそのままゆっくり前のやつの席に腰掛けた。

「お前、教室でくらい友達と喋れよ」

鳴海と俺は中学から仲がいい。中学に入りたての頃俺に何かと気遣って近づいてきてくれた逸材だ。将来出世するタイプだと見込んでいる。

そのためこいつは俺のことを発見するのもうまいし、俺のことを多分このクラスの誰よりも理解してくれている。さながら次世代のコロンブスとでもいえよう。

まあ、そのカウンターとして俺もこいつの重大な秘密を幾つか持っているけどな。

「うるせー。俺は俺の道を行く。誰にも邪魔はさせねえ。俺のマイウェイだ」

とことん皮肉そうに言ってやった。

「それを言うならマイウェイだけでいいんだよ。俺のマイウェイだと俺の俺の道になっちゃうだろうが。文がめちゃくちゃだ」

成績優秀者のこいつはとことん勉学において首を突っ込みたがる性質を持つ。

おれが一人で問題集とか解いてると、メッチャ隣で首突っ込みたそうにうずうずしてるんだよね。マジで迷惑。

「英語は苦手なんだよ」

「そうだったな。お前は国語だけだもんな」

ほらねやっぱ俺のこと知ってる。

「うるせー。ここは日本なんだから国語だけでいいんだよ」

「この屁理屈が」

鳴海はハンサムがやる歯を少しだけ見せる、ニカッとした笑みを浮かべる。

こいつのこういうとこほんと腹立つ。

そしてこんなくそみたいな作り笑顔が周りの女子に人気なことがまた腹立つ。

最近の俺の悩みランキングに世の女性の美的感覚が本当にわからないが上位にランクインする。

こんなクソみたいなエセハンサムのこいつを周りの女子たちはかっこいいと捉えるのだ。

例えば、今も…。

俺らの丁度斜め後ろの席の女子グループがこっちを見ながら

「鳴海君の笑い方かっこいいよねえ」

「わかるぅー。眩しー」

みたいなクソみたいな会話をしている。

殺してやろうか。

とまあ鳴海が高評価なのに対して、確実に俺に関しては触れないんだよね。

きゃー、春馬君かっこいい〜。とか言えよ。早く女子言えよ。頼むから言ってよ!

いつもそうだよ。この距離で見えてないのかな。辛いよ。

「んでさー、俺の新刊が」

女子の方に耳を傾けていたせいで、意識が鳴海から完全に引き剥がされていた。気づく頃には話がまったくわかんねえ。

「わり、聞いてなかった。もう一回頼むー」

「ったく……。聞いとけよな。まあいいわ。あとは部活でなー」

「おーう」

俺がそう合図すると、台風のごとくなるみは過ぎ去ってしまった。

その後すぐに来た数学の先生はいつものようにハキハキと授業を始めた。


× × ×


ようやく1日が終わった。って言っても授業が終わったっていうだけなんですけどね。ヨホホホホホホホホホホ。

俺は一人、クラスの端の席で荷物の整理をしていた。

うちの学校は部活強制という鬼校則は存在しない。が、俺はとある部活に属している。

と言うよりかは、属すしかない?属さなくてはいけない?

表現が難しいな。

とにかくおれが部活に属しているのは恣意的では無いとだけわかってほしい。

そのため現在の四時二十五分から六時半まで、俺は部活動をしなければいけないのだ。

荷物の整理に随分時間をかけてしまったようで、ふと外を見たらもう野球部が「うぇー」だか「うぉー」だかよくわからない独自言語を使いながらキャッチボールをしていた。

我が校の野球部はどうやら強いらしい。この高校受験するときに見たパンフレットにそう書いてあった。何度か甲子園にも出場しているようだ。

まあ、そんなこと俺には大して関係無いんですけど。ヨホホホホホホホホホホホ。

だって俺、文化部ですもの。

「よし!行くか!」

ようやく荷物が片付いた。今から部活に行くぜい。


吹奏楽部がもう部活を始めているらしい。廊下に響くホルンだかクラリネットだか定かじゃねえが、とにかく金管楽器が奏でる音楽を聴いてそう感じた。

にしてもうちの高校は私立校だけあってなかなかの人数生徒がいる。一学年400人ちょいはいる。

入学式とか焦ったわ。人が多すぎるんだもん。どこかのライブ会場みたいになってたよ。

とにかく人が多い。そのため部活に属する人間も多くなるのだ。

吹奏楽部ですら百人以上いるだとか聞いたな。オーケストラかよまじで。

と、ここで。俺の属する部活を紹介したいのだけれどそれにはまだ情報が少なすぎる。

まだ、大切なことを言っていなかった。


俺、こと望月春馬は「神崎なつき」というペンネームでライトノベル書いてる作家です。


完全に言いそびれていた。別に隠してたわけじゃ無いんだけどな。タイミングを失っていた。

やっと言えたよ。ちょっとすっきりした。

「やっとついた」

ようやくたどり着いた。俺の属する部の部室前に。

そこに来ると、いつものように机を開けて

「よー、鳴海君。まったー?」

言いながら荷物をはじのほうに放り投げた。

ちなみにこの部室の白板にはこう書いてある。

[文芸部]

そう。この文芸部こそ、俺が、いや俺たちが属する部活だ。

メンバーは俺と鳴海。あと幽霊部員で一人いるけどまあ、そいつは無視の方向で。

去年の春廃部ギリギリのところに俺と鳴海が入り込んだおかげで先輩という概念もいなかった。

「お前おっそいな。また教室で動かなかったのか?」

「しょうがないじゃん。歩くのが面倒だったんだから」

鳴海は既にパソコンを開いて作業に入っていた。

この部屋は他の多目的室よりも少し小さく、以前は物置にでもなっていたようなサイズ。

こじんまりとした小さな部屋。

その真ん中に長方形のデスクが位置し、それを取り囲むようにパイプ椅子が二つずつ並べられている。

そんなテーブルの両サイドの壁沿いには大きな本棚が設けられている。大きさにしては本は少し少なめで、幾つか隙間を開けて無造作に本たちが並べられている。

奥には大きめの窓があり、外から入り込む光が絶妙な美しさを醸し出している。

「仕事が早いわね。寺島先生は」

「お前が遅いだけだろー」

お互い適当に話を流し合う。

言い忘れてたことが一つ。

この俺の目の前にいるエセチャラ男こと、鳴海央空君はペンネームを[寺島 空海]と名乗るライトノベル作家なのです。

多分俺が説明しなくてもみんな薄々気づいてたよね。察しのいい人なら「はいはいわかってたよ」とか頷いてるよね。ごめんね。

「でもまあ、この仕事早さが俺たちの累計売上数の差となっているだろうなーーー」

わざとらしくチラチラ見ながら言ってくる。

「うるせー。俺はまだ本気出してねえんだよ。売り上げの話すんな殺すぞ」

「負け惜しみか?累計数20万部!」

「その呼び方やめろ、殺すぞ」

一応言っておくが俺は別に累計数なんて気にして無いから!どうだっていいから!あいつの売り上げが40万部で俺より20万部も多くても俺は全然気にして無いから!!!!

「そういやお前、[紅蓮魔弾]の売り上げ最近伸びてるんだろ?」

「伸びてるっつっても最初が悪すぎたから売れてるように思えるだけで実際はそんなことねえんだよなー」

「でも、俺は正直あの5巻の内容好きだぜ」

「嫌味にしか聞こえねえよ!」

紅蓮魔弾とは俺のデビュー作である。中3の春に応募した新人賞で入賞した作品だ。

俺は中3の春からラノベ作家になった。そのため今年の春でラノベ作家三年目なわけだ。

三年目にして先週やっと紅蓮魔弾の5巻目を発売することができた。

名前からわかる通りこの作品は異世界バトルものだ。

急遽、異世界に転生した主人公が魔弾という能力を身につけて戦っていくという、ありがちな構成の物語だ。

まあ、王道は素晴らしいから王道なのであって、そんなありきたりなストーリーの物語でも20万万部の売り上げを出している。

少し前にあった先輩作家からは「三年目で20万部は頑張って方だと思うよ?もっと自信持てよ」そう慰められた。

多分俺が並の人間だったらその言葉で納得ができたのだか……。

あいにく俺の身近には超天才の同期がいて、そいつのせいで妙に自分が劣ってると感じてしまうのだ。

そのためああいう慰めに逆に腹が立ってしまう。

とりあえず俺もカバンからノートパソコンを探り当てると、鳴海の向かいに座って立ち上げる。

立ち上げるのになかなか時間がかかるからこれがちょっと不服だ。

「そんなこと言ってるお前こそどうなんだよ。最近売り上げいいの?[魔光伝]」

[魔光伝]は[寺島空海]のである。

確か現段階で全8巻まで発売していたはずだ。先に挙げた通り売り上げは好調。

「まあまあだな。こないだの新刊1週間で3万部しか売れなかったし」

残念そうに言いやがるこいつが本当にムカつく!

「は?3万で落ち込むとかお前はどこの川原礫だよ。3万部って相当じゃねえか」

「まあ、次は新作に手を出してみたいとか思ってるけどな」

「マジかお前!」

「マジもマジおおマジだよ」

「さすが売れっ子作家だな」

俺は他人の幸運を心から褒めてやるほど人間ができていない。嫉妬とかそういう感情の方がでかすぎる。

が、まあこいつだけは別だな。なかなか付き合いが長いからな。特別よ、はーと。

「まあ、とにかく頑張れ」

聞こえるかどうかわからないほど小さく呟いた。


時計は刻々と進み、もう六時二十分を迎えた。

そろそろ部活も終わりそうだな。そんなことを考え、ノートパソコンを閉じようとした時、ことは起きた。

多分鳴海も俺と同じでもう部活動を終了しようとしていたことだろう。

お互い集中していたせいで声を出すことを完全忘れていた。

多分1時間弱くらいは俺たちを沈黙が包んでいただろうな。

そして、そんな沈黙を突き破る声がかかる。

俺たちを包むこの沈黙を打ち破ったのは、俺でも鳴海でもなく、マジで部外者である第三者であった。

俺たちが共に行動しようとしたと同時

かすかにドアが開く音がすると、それに遅れて綺麗な細い声がする。

「あのー、望月春馬くんここにいますか?」

「はい?俺が望月ですけど?」

おどおどしながら手を上げた。

女子に呼び出しだぜ?俺なんかしたかな。

とは言ったものの、俺はこの女が誰なのか一切わからない。初めて見た。完全に初見。

身長は163そこそこ。彼女の顔を見た時の一番の印象は両目にかけた縁の大きなメガネ。ツヤのある真っ黒の髪の毛を後ろの方で三つ編みにしている。

なんかさ……。

俺が言うのも忍びないんだけどさ。

すっっっっっっげーー地味!!!!めっちゃ地味!ジミー大西!

この女のことを知らなかったことに納得がいくな。こりゃ俺以上に影が薄そうだ。

「で?俺になんかよう?」

「あっあの、望月さんにお話があって」

男子と話すのは慣れていないのか、肩が上がっている。

「俺に話?」

「そうなんです。だから、今から一緒に帰りませんか?」


× × ×



四月後半の暖かな風が俺の髪を捲り上げた。

って、そんな事よりだ。

「どこまで行くの?」

人生で初女子に一緒に帰ろうと誘われたのだが、あまりの沈黙に耐えられなくなった。

「その、もう少し学校から離れたところで」

「そうか……。わかった」

複雑な気持ちだ。マジで今日初対面の女と一緒に帰り道を歩いている。

のだが、俺の心はどうにも弾まない。

俺の知ってるラノベとかだったら、もっと楽しそうに女の子の方から話しかけてきてくれるしな。ここまで気まずくはないはずだ。

それになぁ……。

ごっつメガネっ子やないスか。

俺は複雑な心境の中で、心なしか彼女の後を追う足取りのペースを緩めた。

それからしばらくして、というほど経ってはいないな。あまりの気まずさに時が経つのが異様に遅く感じる。逆相対性理論的な感じだ。伝わりずれな。

にしてもな……。なんなんだろうな。話があるって。

俺は基本淡い期待を抱くことは避けている。それを抱くと基本自分が傷つくからだ。そのため俺のガードは半端じゃなく硬い。ダイヤモンド・ジョズばりに硬い。

のだが今回はどうにもガードがゆるくなりかけている。それもそうだ。これはごく普通のことなのだ。

男としてのエゴだ。俺は悪く無い。

俺は自然と告られるんじゃないかって思う気が止まない。だってそうだろ?話があるって言われて二人っきりで帰ってるんだぜ?初対面のやつと。そんなもん告白以外に何があるよ。

いい加減学校からは程遠くなり、むしろ駅にどんどん近づいている。そろそろ来てもいい気が?

「あの、望月さん」

「あっ⁉︎はい!」

びっくりした。いきなり振り返ってきた。

彼女は何度か恥ずかしそうに視線を下に向けた後、ようやく口を開いた。

「そろそろお話ししてもいいですか?」

まるで天使かなんかの類のように美しい声音でそういった。

「おっ、おはなひとは!いったい」

やっべー。緊張しまくってつい噛んじゃった。

「私、望月さんのことが好きなんです。私と付き合ってください」

彼女は唐突にそんなことを言い出した。

てかやばいなー。全然心の準備が出来てねえ。つか心臓が半端なく早え……。え?

「今なんて?」

頭の中で色々考えすぎていたせいで聞き漏らしてしまった。というか、聞きちがえてしまった。

俺のことが好き?そんな事ねえわ。妄想もいい加減にしろ。

「だから、私望月さんが好きなんです。私と付き合ってください」

今度は一言一句聞き漏らすことなくちゃんと聞き取れた。おかげで頭の中が真っ白だ!

「…………」

あまりの驚きに俺の脳は完全に機能を失った。呼吸をしてるかすら曖昧なレベル。

「あの、お返事は?」

吹っ切れたのか、淡々と催促してくる……。あれ、そう言えばこいつ何さんだっけ。

「ごめん。俺まだ君のこと何一つ知らないんだ。だから今はなんとも」

「付き合えないということですか?」

真剣な眼差しで俺を捉えてくる。本気なのだろうか。

「結果的にそうなる。俺はまだ君のこと何一つ知らないから」

非リアを貫いてきた俺でも、好きでも、というか知りもしない女とホイホイ付き合うほど理性は失っていない。

これは俺のためだけでなく彼女のために。

「そうですか……」

俺の返事に顔色を真っ黒に曇らせた。

あまりに出来事が突然すぎて理解に苦しんでいる。

「ごめんね…なんか」

「……………」

彼女は俯いたまま何一つ答えなかった。

それもそのはずか。本気で思いを伝えてくれたんだもんな。

なんだか罪悪感のようなものこみ上げてきた。俺の胸をその罪悪感が押しつぶしてくるようで、どうにも胸元あたりが重い。

ホントごめん。

せめてもの慈悲からか、哀れみの目を向けた時、俺は呼吸ができなくなった。

「あああああああああああああああああああああああ!クソおおお!!!」

俯いていた彼女がいきなり顔を上に向けて叫びだしたのだ。

彼女の中で"何か"がブチ切れたらしく、大人しかった彼女の殻から、モンスターが飛び出してくる。

「なんで!なんでこの!私があ!こんなクソ影薄男に振られなきゃなんないのよ!!!!!」

「は?」

ちょっと待って、何が何だか訳がわからん。

そのまま彼女は淡々と続ける

「ああ!もうクソ!クソクソクソクソクソクソ!クソおおお!!!!!」

「…………」

彼女の狂気に俺はただただ立ち尽くすことしかできなかった。

そして、彼女がいよいよ本性を現した。

「ああもう!このクソ度が強いメガネ!ほんっと鬱陶しい!」

言いながら目につける大きな縁のメガネを勢いよく外すと、そのままの勢いで地面に叩きつけた。

そして、メガネに続いて大きな瞳が現れた。

「はぁ⁉︎」

俺は口をぽかんと開けながら硬直した。

そんな俺を気にすることなく、彼女の奇行が続く。

「そもそもなんでこんなクソダサい髪型にしなきゃいけないのよ!クソ三つ編みが!」

言いながら今度は両手で器用に編み込まれた三つ編みをバァッと手でほぐした。

そして顔を出した綺麗なツヤのある黒髪。三つ編みの癖で多少ヨレヨレはしているが、そんな事全く気にならないほど綺麗で美しい。

「はぁ〜。やっと、すっきりしたー!メガネの度が強すぎるせいで目がチカチカするのよ!」

「お前、誰?」

唖然としてそう言った。

「え?……ああ!そうだったわ。まだ私の名前言ってなかったんだっけ」

ちょっと待て!さっきまでのあのおとなしい口調はどうした!そしておとなしめのメガネっ子はどこにいった!

彼女は一瞬でキャラ。というか人格そのものを形成して見せた。

「私は『七瀬 美琴』。クラスは2年Dぐみです」


---七瀬美琴 2年D組


「……」

突如俺の目の前に現れた超絶美少女を前に身動き一つ取れずにいた。



× × ×



俺が彼女の正体を信じ、かつ受け入れるには数分かかった。

人気の少ないベンチの上で、あたりを少し確認した後、聞かれてはいけないと察し小声で問いかけた。

「じゃあお前は、本当はかなり引くレベルの超絶美少女。と」

納得した。みたいなそぶりを見せているが、何一つ理解していない。そもそもこの世の中に超絶美少女という概念があるとは知らなかった。

ああいうのってラノベとかの中だけの話じゃねえの?

「まあ、そうですね」

「自分で言っちゃうのな」

「本当の事ですし」

「ああ、そうか」

こいつの事少し前まで同類とか思ってた俺めっちゃはずいわ。

そんな事言いつつも、こいつがめっちゃかわいいの事実だ。

大きな黒目に鼻は高く、薄紅色の唇。そのすべてのパーツがアートのように配置されている。

なんというのかな。和風系美人。かな。

いきなり目の前に超が付くほどの美少女が出現したせいで、鋼のハートの俺ですら多少の動揺を見せている。

手汗がもう汗とかじゃなく滝になっている。

そんな異常な心境の中、外見だけはさも平然を装った。

「で、なんで俺に告白してきたんだ?どうせ本気じゃねえんだろ?」

「あらお気づきだったのね。さすが。重度のボッチはガードが高くて助かるわ」

「綺麗な言葉と無邪気な顔で言ってくるのはやめろ。ダメージ倍増するから」

「あら。ごめんなさい。素なんですけど」

嘘つけよ。よくあの狂気を見せつけた後にそんな事言ったもんだ。

「そうかよ」

「そうなの。うふふふふふ」

笑い方やめろ。腹立つ。

「で?本題に戻せ」

「あら、そうでしたね。忘れてましたわ」

わざとらしく微笑んだ後、謎の女性言葉で話し始める七瀬。こいつの演技力マジで半端ねえ。

それともこれが彼女本来の姿なのか?

さっぱりわからなくなってきたぞ……。

彼女はじゃあ早速、そう言って大きく息を吸うと

「実は私、超絶モテるんです」

「だろうな。そんだけの美貌の持ち主なら」

「あらまあお上手…」

上目遣いをちらつかせる。

「うるせーよ。早く続けろ」

足をタンタンならせ、催促する。

ただでさえを俺は機嫌が悪いんだ。あんなクソみたいな演技に騙されて。

「単刀直入に言いますと、私異性にモテすぎて同学年の女子から嫉妬の嵐を食らったんです」

「食らったんです?過去形?」

「そう。あれは確か中学一年の頃……」

そう言いながら自分語りを始めた。

「当時中学一年生だった私に言い寄る男子の数は星の数ほどいました」

すげーな。そんなのラノベとかでしか聞いた事ねえわ

「で、私は彼らと付き合う気は一つもなかったので華麗に全振りしたわ」

「かっけーな。プロ野球選手か何かか?ホームラン王だな」

「………」

「ああ、そうすっか。なんでも無いでーす」

こっわ!こいつの目こわ!!!

ちょっと冗談にボケを挟んだだけでゴミでも見るような目で見てきやがった。

目が名刀になってたよ。みことだけにみこ刀ってか?何でもねえ。

オホンと、咳をついてとりあえず話を戻す。

「で、何で全振りなんてしたんだよ」

そう言って欲しいんだろ?この手の自慢は鳴海にされているから慣れてんだよ。

「あら、あなたいいところを突くわね。まあ、理由はただ一つよ」

「なんだなんだ?」

「彼らに何一つ気がないからよ」

「ズバリ言い張るな」

リアルにいるんだなこいういうやつ。

こいつ絶対中学の頃厨二病患者だろ

「まあ、その先は言わなくてもわかるわよね?」

「それを羨ましく思い、妬んだ奴らからの嫉妬を受けた、と」

女の世界は男とは比にならないくらい残酷って聞くしな。嫉妬とか日常茶飯事らしいしな。

「そんなとこね。よく寄ってきたわ。『うわ〜そんなにいっぱい男に告られて、七瀬さんすごいな〜』ってよく言われたわ」

「確かにめんどくせえな。で、お前はそれに対してなんて答えたの?」

「そうでしょ?私、超絶可愛いから。そう答えたわ」

「お前それマジのやつか?」

「当たり前じゃない。あんなのただの事実確認でしょ?」

「そうだね。その通りだね。お前、相当すげえよ。マジで勇者だよ」

超自爆じゃん……。つーかこいつ自信過剰すぎねえか。

自分で自分の首を絞めるって、こいう時のために生まれたんだろうね。

「で、今は最低限目立たないようにメガネを付けて三つ編みにして、メッチャ地味を演じてまあ楽しい高校生活を送ってると?」

「まあ大体そんなところかしらかね」

ともあれ、大体こいつの過去と現段階の状況を把握した。しかし、一つ気になることが。

「で?それでなんでお前が俺に告ってくるのに繋がるんだよ」

「私はあの日から、『2度と男に言い寄られないように生きる!』そう誓ったのよ」

「で?効果は?」

「ありもありもありありよ。去年なんて二人にしか告られなかったもの」

それでも二人に告られてんのか。軽い自慢かよ。

「よかったな。で?なんで俺に告白に繋がるんだよ。いい加減そこ説明しろ」

彼女は「はぁ、しょうがない」そう小さく呟くと、徐々に語り始める。

「最近ね、目を小さく見せるためにメガネの度を上げたのよ。そしたらものすごい目がクラクラして。あと、毎朝髪の毛を三つ編みに編むのものすごく面倒くさいのよ」

「そうか。で?」

「もうしんどいの!」

綺麗な笑顔で言うな。無駄に説得力があるだろうが。

だいたいこいつの心境がつかめてきたぞ。

「で、いっその事素をだっしゃおうと考えたのだけれど、また男に言い寄られるようでは後戻りでしょ?だから今回は手を打とうと思ったの」

「俺を彼氏につけて周りの矛先を俺に変えるために……か」

俺の言葉に七瀬が目を一気に細めた。

「察しがいいのね」

「当たり前だ。だてに一人で生きてきたわけじゃない」

「いらない高スペックね」

「止めろ、泣きたくなるから」

少し微笑を加え、含みを入れるようにそう言った。

時刻はもう七時にでもなるのだろうか。

オレンジがかっていたはずの空はもう暗い。

俺たちの座るベンチの傍に設けられた街灯の明かりも付き始めた。

いくら4月の終わりと言っても夜はまだまだ冬の余韻が残る。

太陽が沈めば肌寒くなるし、曇りの日なんか中にヒートテックを一枚着込むほどだ。

俺はあまりの寒さに、両手を擦り合わせた。

そして、早くこの話にケリをつけて家に帰ろうと決めた。

「ま、俺はお前の彼女にはならないでファイナルアンサー。以上!!」

両手を横に広げてそう言った。ソースは厚切りジェイソン。

そのまま反論をさせないように颯爽と席を離れようとしたら、俺の袖に妙な重みが乗った。

「何だよ。服がちぎれる」

冗談のつもりでそう言ったのだが、本当に袖がちぎれる気がしてきた。なんかギリギリ言ってる。

「ちょっ!何お前!どんだけ力強いんだよ」

「私黒帯持ってますし」

満開の笑みでそう言った。

「笑顔で言うの止めろ。冗談に聞こえなくなる」

「とにかく!まだ私の……。私たちの件が片付いていません!」

よーくわかった。こいつはあくまで自分のことしか考えてねえ。

「やだよ。そもそも何で俺がお前に手を貸すんだよ?俺にメリットはねえのかよ」

「メリットだとかデメリットだとか、そんな事は関係無いの。とどのつまりあなたは私に従う、服従するしか無いの」

「は?」

俺は口をぽかんと開けて、目線を上に向けたアホヅラでそう返した。

いきなりそんなよくわからん不可解な用語を並べられたらそんなアホヅラにもなる。

俺のリアクションに対して笑ったのかそれとも別の理由で笑ったのかは定かでは無いが、彼女は含みのある笑い方をした。

「そう言い切る根拠が知りたい?」

いきなり目線を上目遣いに切り替えてきた。

ずるい!そんなの逆らえないじゃ無いか!可愛すぎる。

あとさ、何というのかな。全然関係ないんだけどさ。

俺は今立ってるだろ?で、七瀬はベンチに座ってるだろ?ちょうど俺の俺が七瀬の顔ぐらいの位置にあるだろ?エロくね?

何でもねえわ。

「はぁ根拠?いきなり何言ってんだよ?お前まさかの中二病とかその類か?」

言葉の通り俺はこの女を心底バカにしていた。

だっていきなり態度が超厨二にトランスフォームしてんだもん。マジワロス。

「少なくともそのような事は無いわ。あなたと違って」

「は?俺と違って?俺のどこが厨二なんだよ!(内心:やっべー。メッチャ図星〜。詰んだわ)」


「あらごめんなさい。別にあなたに言ったつもりは無いわ。あなたじゃなくて[神崎なつき]に言ったのよ」


「おい。ちょっと待て……」

そう言い、一つ間を空けてから

「何でお前がそれおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!」

夜間の公園に大きく響かせた。

俺は精神的にも身体的にも荒ぶっていた。おかげで周りが見えてない始末。

「ちょっとまて!まて!まて!何でお前がそれを!」

「やっぱりそうだったのね」

彼女は小さくガッツポーズをする。

「お前…どこでそれを!」

「世のツイッターという自己満足の塊に己を晒すのは控えたほうがいいわよ。みっともないし」

「すまん。俺は自己満足の塊には手を出してはいないのだが」

「あ、あれは確か寺島空海のやつだったかしら。アホヅラで写ってたわよ」

「あんのクソチャラ!!!!!!!!!」

思い返した見ればあいつがパシャパシャやってたのを見たことが多々あった気がする。

はぁ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜。

やりどころ無い気持ちを晴らすべく、ひたすら頭をかきむしった。

「くっそおおお。マジでやめろよあのチャラ男!こういう悪魔に探られるんだから!」

みなさんもネットに顔を晒す時は気をつけましょうね。今日からの俺の教訓だわ。

「悪魔とは心外ね。まあ、とにかく。私があなたの秘密件、弱みを握っていることが伝わったかしら?」

「秘密までは受け止めたが、弱み?」

白々しくそう聞いた。

「なに?あなた口で言って欲しいの?自虐癖でもあるのかしら」

七瀬はじゃあ、そう短く前置きをすると、

「まずあなたがラノベ作家だとクラスもしくわ学校の連中に知れ渡ったら、あなたの周りの人間があなたに向ける目が変わる事は分かるわよね?」

「まあな、俺も逆の立場だったら関わりたくねえって思うしな」

「そしたら次に起きるのは、あなたの作品が好きなオタクたちが相当面倒くさいことになるわよ」

「サインとかせがんでくるやつか?確かにあれは面倒くせえ」

「それだけならまだ優しい方よ。あなたに仕えるとか言いだしたらどうするの?」

「ああ……。どこに行くにもついてこられて、とかか。確かに面倒くせえな……」

考えたこともなかったが、確かにそう考えてみると口元が引きつるな。

「そして第二段階」

「まだあんのかよ」

「当たり前じゃ無い。挙げだしたらきりが無いわ」

「マジで恨むぞ!鳴海!」

マジで悪魔に弱み握られたらこうなるんだな。

「あなたの作品に興味を持った奴らがゴーグルでゴゴった場合、まず百発百中で引くわ。『望月くんてこんな破廉恥なこと考えてるんだ』『ちょっとヤバく無い?マジで引くわー』といった具合であなた引かれまくるわ」

「ぐああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!」

不覚にもそうなる未来を想像してしまった。

恐怖で発狂しちまったよ。

確かに俺の作品、というか大半のラノベ作品の中にはエロスティクなシーンが多い。というかそれが主軸で成り立っているところもある。

すなわちラノベに破廉恥は必須というわけだ。

少なくとも俺の作品にはちょこちょこ女キャラの裸を挿絵で入れている。

こいうのって、ラノベ無知なやつとか女子とかは相当嫌悪を向けてくるんだよなー。

俺の経験上それは大いに主張できる。

これは俺の友達の友達から聞いた話だが、そいつは中学の時学校で読むようにラノベを持って行ったそうだ。

そいつがトイレから帰ってくると、そいつの席周辺にやたらと生徒が集まっていた。

一人の生徒がそいつが来たことに気づくと、

「おーい帰ってきたぞ!エ○マンガ先生がー!」

俺……、間違った。そいつを指差しながらそう言ったそうだ。

それ以降そいつのあだ名はエ○マンガ先生になったし、やたらとラノベを開かれていたそうだ。

当然周りの奴らは「うわーやばっ」みたいな反応のバーゲンセールだ。

やべぇ…。思い出しただけで泣けてきたわ。

当時は本を読んでたり、持ってきてたりしてただけなのにあんなドン引きされたんだ。それが創作側に変わったら俺への嫌悪感は何倍になることやら。

考えただけでも震えが止まらねえよ。

「でも、優しい優しい七瀬さんは周りの連中にそのことを言いふらすなんて野暮な事はしませんよね?」

俺は笑顔で共感を求めた。あくまで求めた。

「当たり前じゃ無い。言いふらすなんて生ぬるいわ。あなたへの嫌悪感をさらに煽るように努めます!」

「笑顔で殺人予告してんじゃねえよ!」

「まあ、わかったかしら?これであなたに逃げ場は無いわ」

「はぁ……。わかったよ!なってやるよ!お前の"彼氏"に!」

止むを得ずに二つ返事了解した。

どう考えても俺には、俺の未来のためにはこの選択が最善の手だと止むを得ず了解した。

くっそ!どうなっちまうんだ。俺の高校生活は。

「まあ、いろいろありますが、よろしくお願いしますね。望月くん」

彼女は明るい表情でそう言った。


こうして俺のクソみたいな青春が始まり、俺の正当な青春が終わりを遂げた。

そして、それはすなわち俺の"終春プロローグ"となった


2話目にして、かなりの長文になってしまいすいませんでした。

一応、ラブコメというジャンルやらせていただいてるのですが、自分自身キュンキュンくるような青春設定を練るのが困難な身ですので、ずいぶんふざけた文章になってしまったことを反省しています。

楽しんでいただければ幸いです。

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