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レジェンド・オブ・ダーク  作者: 粗茶
第一章 未知の世界
4/17

ガチャ

 それから1ヶ月、魔物に襲われることもなく拠点も順調に拡大していった。

 レオンの寝室も洞窟内に移り、安全面の上でも格段に向上していた。

 今は洞窟内の広大な空間で沙羅双樹の苗木を育てている最中であった。

 沙羅双樹の苗木は希少であったが、レベル100のプレイヤーであれば簡単に手に入れることができた。何せ低確率ではあるが、レベル100の雑魚敵から苗木がドロップするのだから。

 レオンはその敵が落とす更にレアなアイテム、神樹の枝を手に入れるため、その敵を狩りまくっていた時期があった。

 そのため沙羅双樹の苗木を大量に所持していたのだ。

 但し、苗木から育てなければならないため、木材にするまでに手間暇がかかる。

 そのため、育成や生産を楽しむプレイヤー以外からは見向きもされないアイテムであった。

 だが、沙羅双樹は希少な木材というだけあり、強度は高く見た目も美しい。

 しかも、腐敗防止、劣化防止の効果も付与されていることから、生産系のプレイヤーからは重宝されている木材でもある。


 レオンは苗木が順調に生育していると報告を受けて次の一手を考えていた。


(さて、苗木はあと数週間で木材になるだろう。そうすれば、この殺風景な部屋も少しはマシになるはずだ)


 レオンの部屋はかなり広いが、内装が施されていない味気ない部屋であった。

 レジェンド・オブ・ダークにおいて、魔法的生育法を併用した場合、苗木は1ヶ月ほどで木材になる。

 レオンの従者のアハトとノインは生育系の職業も取得しているため、滞りなく苗木は育っている。

 しかし、苗木の生育に人材を取られた分、拠点の拡張は予定より遅れていた。


 魔物も襲ってこないため、レオンは洞窟入口で警戒に当たる従者を減らすことも考えた。

 しかし、今度はその従者を働かせる場所がない。拠点の拡張作業に回しても、戦闘職しか取得していない従者では役に立たないのは目に見えていた。

 そこで、レオンは一計を案じる。メニュー画面を開き、そこからガチャの項目を選択した。

 レオンの考えとは、生産系の従者をガチャで引き当て、今いる戦闘系の従者と入れ替えることである。

 そうすることで、拠点の拡張速度を引き上げようとしていた。

 幸いにもガチャで引き当てた従者は、オリジナルの職業が既にマスタークラスであるため即戦力になる。

 尤も、ガチャの従者は毎月増え続けて今では36人もいるため、その中から欲しい従者を引き当てるなど至難の業であった。

 レオンはすんなりとガチャの画面が表示されたことに苦笑いを浮かべる。


(本当に訳が分からないな。ゲームの世界じゃないはずなのに、ゲーム同様ガチャの画面が表示されるんだから……)


 4周年アニバーサリーの文字とともに、画面には2台のガチャが表示されていた。

 所謂(いわゆる)お金を入れてノブを回す、昔懐かしいタイプのガチャである。今では全てが電子マネーのやり取りで、この手のガチャの現物は骨董品扱いされていた。

 レオンは2台のガチャのうち、迷わず人形(ドール)ガチャを選ぶ。目玉として4周年記念に実装された従者、(キング)アーサーがガチャの横に表示されていた。


(4周年アニバーサリー……。アップデートは完了していたのか。今頃みんなレイド討伐をしているのかもしれない。俺がフォルトゥーナの指輪リング・オブ・フォルトゥーナを持ってるせいで困ってるだろうな。みんなに会いたい、せめてこの指輪だけでも返したい……)


 レオンは左手に嵌められた指輪を見て目頭が熱くなる。

 しかし、レオン自身この世界から出ることが出来ないのに、幾ら考えたところで返す手立てが見つかるわけもない。

 今はどうすることもできないと自らに言い聞かせ、レオンは仲間への思いを打ち払った。


(感傷に浸ってる場合じゃない。今の俺にはやることがある。俺に従ってくれる従者たちが安全に暮らせる場所、先ずはそれを作らなければ)


 レオンは自分の課金ポイントに視線を移した。


【9889000ポイント】


(これだけのポイントがあれば、拠点作りに役立つ従者を引き当てられるはず……)


【1連ガチャ500ポイント】

【11連ガチャ5000ポイント】


 レオンは当然のように11連ガチャを選択した。

 従者とペットが当たる確率は1%未満、従者だけに絞れば確率はその半分、拠点作りに役立つ従者となると確率はさらに下がる。

 数を回さなければいけないことは初めから分かっていた。


【5000ポイントでガチャを引きます。よろしいですか?】


 レオンは迷わず【はい】を選択した。

 ガチャが七色に点滅し、取り出し口から光り輝くカプセルが11個飛び出してきた。


(キング)アーサー】

【王アーサー※覚醒の秘薬】

【王アーサー※覚醒の秘薬】

【王アーサー※覚醒の秘薬】

【王アーサー※覚醒の秘薬】

【王アーサー※覚醒の秘薬】

【王アーサー※覚醒の秘薬】

【王アーサー※覚醒の秘薬】

【王アーサー※覚醒の秘薬】

【王アーサー※覚醒の秘薬】

【王アーサー※覚醒の秘薬】


(え!?……全部アーサー?)


 レオンは自分のインベントリを確認すると、確かに覚醒の秘薬が10個入っていた。

 そして次にアーサーを探すが、インベントリの従者欄にアーサーは見つけられない。


(覚醒の秘薬は確かに10個入っている。しかし、アーサーが入っていない。どういう事だ?)


 レオンが疑問に思っていると、前方から女性の声が聞こえてきた。


「私を召喚した主の名をお聞かせ願いたい」


 レオンの目の前には、ガチャの画面に表示されていた女性、アーサーが跪いていた。

 美しい顔立ちに金髪碧眼の長髪、銀の胸当てに豪奢な剣を身に着けている。但し、剣などは衣装に含まれるもので唯の飾りでしかない。

 アーサーは言葉を待つようにレオンに視線を向けている。

 レオンはといえば、想定外の事態に戸惑いを隠せずにいた。


(まて!どうしてアーサーが出てきている?一度に出せる従者の数は最大10人のはず。どういう事だ?)


 レオンが考えている間も、アーサーの突き刺すような視線がレオンに注がれている。

 黙っているわけにもいかず、レオンはアーサーの問いに答えるように名乗りをあげた。


「私の名はレオン。お前の召喚者であり、お前の主となる者だ」

「レオン様でございますね。(わたくし)アーサーは、レオン様に絶対の忠誠を誓うことを、ここにお約束いたします」

「うむ、そのまま待機せよ」

「はっ!」


 レオンは従者の管理画面からアーサーの情報を確認した。

 装備品は何もなく、インベントリにも何も入っていなかった。

 取得しているスキルは強力で、上限レベルは95と他の従者よりも高く設定されていた。


(上限レベル95か。強力なスキルも多い、これならレベル100の雑魚敵で死ぬこともなさそうだな。しかし、なぜガチャの中身が全部アーサーなんだ?取り敢えず、もう何回かガチャを回してみるか……)


 しかし、結果は同じであった。

 出るのは全てアーサーばかり、気が付けばレオンのインベントリには覚醒の秘薬が65個も入っている。


(まいったな……。確かに覚醒の秘薬は嬉しいが、今はそれ以上に生産系の従者が欲しいのに)


 そこでレオンは、ふと自分の左手を見て思う。


(もしかしてステータスの運が関係している?運が良すぎるのか?)


 レオンは左手5本の指に嵌められている、フォルトゥーナの指輪リング・オブ・フォルトゥーナを2つ外して様子を見る。

 ステータスの運が僅かに下がったのを確認して再度ガチャを回してみた。


 先程と同じようにガチャが七色に点滅し、取り出し口から光り輝くカプセルが11個飛び出してきた。

 しかし、その中身は先程と明らかに違っている。


魔女(ウィッチ)メル】

【フェニックス】

【バハムート】

夢魔の女王(サキュバスクィーン)リリス】

【ヨルムンガルド】

吸血姫ヴァンパイアプリンセスシエラ】

悪魔召喚士(デモンサモナー)メリッサ】

姫騎士(プリンセスナイト)アリシア】

【ベヒモス】

屍人使い(ネクロマンサー)メアリー】


 目の前では引き当てた従者たちが跪き、小さなペットたちも頭を下げている。


(全部当たりだが生産系の従者が一人もいないとは……。いっそ、全ての従者とペットがでるまでガチャを回すか?フォルトゥーナの指輪リング・オブ・フォルトゥーナで運を微妙に変えればいけそうな気はする。この世界から出られないなら、ポイントをずっと貯めていても意味はない。試しに100万ポイント使ってみるか)


 レオンは新たに現れた従者に向けて声を張り上げる。


「聞きたいことも多々あるだろうが暫し待て、他の従者も召喚する」


 従者たちはそれに頷き、跪いたままレオンの言葉を静かに待った。

 それを確認すると、レオンは顔を上げてガチャへと視線を移す。

 再度ガチャを回して、新たに出現した従者やペットには、そのまま待機するように告げた。そして、またガチャを回す。

 これが幾度となく繰り返された。


 そして、ついに11連ガチャ累計50回目で全ての従者とペットが揃う。

 その数、37名と37体。幾らレオンの自室が広いとは言え、これだけの人数がいると流石に手狭に感じてしまう。


 狭苦しくなった部屋の中で、レオンは次に従者の管理画面を開き年齢を固定する。続けて課金ショップから37名分の愚者の指輪(リング・オブ・フール)を購入した。

 この時点で残りの課金ポイントは9602000ポイント、レオンの予想よりも大幅に残っていた。


(従者たちが簡単に揃ったのはいいが争いが起きないようにしないと。先ずは俺が作った従者たちを紹介して、彼らを上位者として認めてもらう必要がある。更に、その従者たちを束ねる俺が一番偉いと認識してもらう。筋書きとしてはこんなものか。それにしても、まさか引き当てた従者やペットが全員出てくるとはな。呼び出せる従者の制限がなくなったか、若しくはこの世界に来た影響か、どちらにせよ俺にとって都合がいいことに変わりはないか)


 レオンは一人で納得したように頷き、跪く従者たちを見下ろす。

 従者の種族は人間や亜人以外にも、悪魔や妖怪など多岐にわたる。内心、自分の言うことを聞いてくれるか不安もあった。

 しかし、こんなことで弱気になっていられない。この世界は未知の部分が未だ多い。何があるか分からない以上、人手は一人でも多く欲しいのが本音だ。

 レオンは自分が最も偉いのだと知らしめるため、強い信念で威厳を込める様に言葉を発した。

 何事も最初が肝心である。ここで侮られては、今後の拠点作りにも影響を及ぼしかねない。


「私の名はレオン。今後お前たちの主となる者だ。お前たちの先駆者、私の作り出した従者を紹介する。暫しそのまま待機せよ」


 目の前で跪く従者たちにそう告げると、レオンは通話機能を使い従者に呼びかけた。

 内容は簡単で「新たな従者を紹介する。全員私の自室に来い」である。

 洞窟入口を警戒する者がいなくなるが、さほど心配はしていない。洞窟内に侵入されても最初のエリアは迷路のようになっており、迎撃用の罠が数多く仕掛けられているからだ。

 簡単に抜けることができない上に、抜けたとしてもそれなりに時間はかかる。

 その間に迎撃態勢を整えることは十分可能であった。


 暫くすると、扉を叩く音とともに、アインスの声が聞こえてくる。


「レオン様、アインス以下ナンバーズここに参りました」

「入れ」


 アインスの「失礼いたします」という声とともに、ナンバーズが部屋に足を踏み入れた。

 部屋を埋め尽くす従者とペットに、僅かにアインスの表情が曇る。


「来たか、お前たちは私の横に来い」


 アインスたちはレオンの横に立ち、目の前で跪く新たな従者に視線を落とした。


「レオン様、この者たちはガチャと呼ばれるものから召喚されたのでは?」

「その通りだアインス。ガチャの従者とペットを全て召喚した」


 「おお!」という歓声がレオンの横から湧き起こる。

 天空城でもガチャの従者やペットはよく見かけたが、その全てを召喚した者は未だいない。

 それを知るナンバーズは主の偉大さに感銘を受けていた。


「流石はレオン様、そのような偉業を成し遂げるとは。レオン様の従者として誇りに思います」


 レオンは向けられた尊敬の眼差しに僅かに怯む。

 会社では平社員、学生時代も目立つことのなかったレオンは尊敬されることに免疫がなかった。

 熱い視線を受け思わず口ごもる。 


「ま、まぁな。それよりアインス、このアイテムを私の新たな従者に渡して欲しい」


 そう告げると、レオンはアインスのインベントリに37個の愚者の指輪(リング・オブ・フール)を移した。

 従者たちのインベントリに直接アイテムを移動させても良かったが、アインスが上位者であると知らしめる意味でも、アインスの手からアイテムを渡した方が良いだろうと面倒な方法を選んでいた。


【レオンさんからアイテムが送られました】


 アインスは目の前に現れたメッセージを見て自分のインベントリに視線を落とした。

 37個の愚者の指輪(リング・オブ・フール)が送られていることを確認すると深々と頭を下げる。


「畏まりました」


 アインスが跪く従者たちに指輪を差し出すと、従者たちは両手を重ねて恭しく指輪を受け取っていった。

 程なくして指輪は渡し終わり、アインスがレオンの横に戻ってくる。そのタイミングで、レオンは跪く従者たちに言葉を発した。


「いま渡したのは愚者の指輪(リング・オブ・フール)。装備を絶対に忘れるな。そして、私の横に並ぶのはナンバーズと呼ばれる従者であり、お前たちの上位者に当たる。私への裏切りは勿論、ナンバーズに逆らうことも許さん。よいな!」


「はっ!」


 従者たちの声が幾重にも重なり、跪く従者たちは勿論、ペットたちも頭を下げる。


「自己紹介は各々(おのおの)後でするがよい。先ずは先ほど指輪を渡した女性、アインスの指示に従って動け」


 レオンはアインスに視線を移して今後の方針を伝える。


「アインス、鍛錬場は出来ていたな?戦闘職の従者は鍛錬場でレベルを上げさせろ。生産職や内政職の従者は拠点拡張の手伝いに回せ。ペットは植林エリアで放し飼いで問題ないだろう。困ったことがあれば随時私に報告せよ。場合によっては私が対応する」

「レオン様の仰せのままに」


 アインスが恭しく頭を下げるのを見て、レオンは今一度声を張り上げた。


「では、行動を開始せよ!」








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