プロローグ
21世紀後半、電脳化によるフルダイブ技術により世界は一変した。
本来これは壊死した脳を補うため医療用に開発されたものであるが、その技術に目を付けた各分野の大手企業により、フルダイブ技術は新たな発展を遂げることになる。
初めは大掛かりな手術を伴うフルダイブ技術であったが、僅か十年後には技術の躍進により、小さな端末を体内に埋め込むだけで、フルダイブを可能にするまでに至っていた。
後の日本ではマイナンバー制度の代わりに使用されることになり、実に国民の九割以上がフルダイブ技術の恩恵を受ける事になる。
そんな中で一つのゲームが生まれた。
レジェンド・オブ・ダーク。
あたかも自身がゲーム内に存在しているかのような意識投影型のMMORPGである。
多種多様な職業と広大な世界。そこで何をするかはプレイヤーの自由、仲間を集めてレイド討伐をするもよし、生産系の職業を選んで商売をするもよし、可能性は無限大にある。
その幅広い自由度から、時間を忘れてのめり込むプレイヤーが多く、社会現象にまでなったゲームである。
レジェンド・オブ・ダークはソロプレイでも楽しめるように、自身の従者を最初に10人作ることができた。
これにより一人でも拠点の拡充やレイド討伐を行うことができる。
尤も、従者を使ってのレイド討伐は極めて難易度が高い。なぜなら従者のレベルはプレイヤーより一段劣るからだ。
従者の上限レベルを上げるアイテムはあるが、それを入手するためにはガチャに多額の金を注ぎ込む必要がある。
そのため、従者を使ってレイド討伐ができるのは、ガチャに毎月何十万と金を注ぎ込める廃課金者しかいなかった。
そして、このガチャが運営の大きな収益になっている。
毎月品揃えが変わり、プレイヤーの心を擽る様々なレアアイテムが毎回宣伝されていた。
ガチャは大まかに二種類ある。
一つは武器、防具、装飾品、が出る装備ガチャ。これにはレアアイテムの武器、防具、装飾品が入っている。
また、レアアイテムにもランクが設定されていた。
R、SR、SSR、LRと分かれており、LRが尤も高いランクである。
もう一つのガチャは、従者、ペット、アイテムが出る人形ガチャである。
これには当たりとして従者やペットが入っていた。
後者の方は一般的に実用性が殆どない。何故なら、従者を引き当てても所詮は従者、プレイヤーには及ばないからだ。
ペットに至っては拠点に飾るだけのお飾りでしかない。
言わばコレクターアイテムと呼ばれる類の物だ。
しかし、ソロでレイド討伐を目論む廃課金者からすれば、ガチャの従者は生唾モノであった。
レジェンド・オブ・ダークにおいて、プレイヤーの最大レベルは100である。
それに対し、最初に作る従者の最大レベルは80、ガチャの従者の最大レベルは90とプレイヤーより低い値になっている。
しかも、装備品にもレベルが設定されており、そのレベル以上でなければ装備ができない仕様になっていた。
そのため装備を含めると、レベル100のプレイヤーとレベル90の従者の間には雲泥の差が生まれることになる。
レイドの討伐推奨レベルは基本的に100であるため、従者を揃えただけではソロでの討伐は不可能であった。
しかし、ソロで討伐ができないわけではない。人形ガチャで既に所持している従者やペットを引く行為、つまりダブリを引いた場合、本来入手する従者やペットの代わりに覚醒の秘薬と呼ばれるアイテムを手に入れることができる。
これは従者に使用することで上限レベルを10引き上げることが出来るアイテムで、これを使用することでプレイヤーと対等に並ぶことができるのだ。
しかし、人形ガチャで従者やペットが出る確率は1%未満。そのため、覚醒の秘薬を手に入れるためには、1回500円のガチャに20万円は注ぎ込む覚悟が必要であった。
従者を使ってのレイド討伐が廃課金者にしかできない理由がここにある。
しかも、戦闘に従える従者は一人ではない。一般的なレイドは最大6名、プレイヤーを除けば最低でも5体分の覚醒の秘薬が必要になる。
それだけの数を揃えるには、ガチャに100万は注ぎ込まなければならなかった。
これはあくまでもガチャの従者(上限レベル90)を前提とした話であって、最初に作る従者(上限レベル80)であれば更に倍の金額を要する。
ソロプレイヤーからすれば鬼畜としか言いようがない。
それでも毎回ガチャを回し続けるプレイヤーが多いのは、それだけこのゲームにのめり込んでいるからでもあった。
ギルドに入り仲間とレイド討伐をした方が楽なのに、そう思うプレイヤーは大勢いても口に出すことは滅多にない。
遊び方は人それぞれ自由なのだから……
そして、ここにも元ソロプレイヤーがいた。
レイドの討伐難度の高さに、早々と仲間を見つけてソロプレイを諦めた男が。
男の名は小林玲音、どこにでもいる普通のサラリーマンである。
既に玲音の家族は全員他界し、玲音は一人寂しく暮らしていた。
気を許せる友人がいるわけでもなく、自宅と会社を往復する毎日。
独り身の玲音はいつしかMMORPGで寂しさを紛らわすようになっていった。ゲームの中では友人と呼べる仲間も作ることが出来る。
実際に会ったこともないゲームの中だけの友人、それは友人ではないと笑う者もいるだろう。
だが、玲音にとってはゲームの世界が全てであり、自分の人生と言っても過言ではなかった。
そんな玲音がレジェンド・オブ・ダークに出会うのは必然である。
レジェンド・オブ・ダーク。
このゲームが宣伝されると同時に、事前登録プレイヤーには抽選で総額三千万円分のポイントが当たるキャンペーンが実施されていた。
レジェンド・オブ・ダークが正式リリースされた日。
玲音は会社から帰宅し、いつものように手早く食事と風呂を済ませた。
心待ちにしていたレジェンド・オブ・ダーク。玲音は椅子に深く腰を落とし背もたれに寄りかかる。
既にベータ版を体験済みの伶音は手馴れたように端末を繋げた。
ベータ版のデータがそのまま引き継がれるため、玲音はキャラメイクをする必要がない。
ゲームの中に入り、玲音はもう一人の自分、レオンになる。
自分の本名をそのまま使うなど安直と思われるかもしれない。しかし、玲音にとってMMORPGは自分の生活の一部である。
そのため自分の名前を使うことになんの躊躇いもなかった。
アバターも自分に近づけるため、黒髪のショートカットに黒目と至って普通である。顔を少し美化したのは言うまでもない。誰だって自分の容姿は不細工よりも綺麗な方がいいに決まっている。
レオンは画面の指示に従いゲーム画面に入ると、直ぐに運営からの伝言に気がついた。
【おめでとうございます。抽選で特賞、一千万円分のポイントが当たりました】
初めは何かの冗談かと首を傾げたが、メニュー画面を開いて目を見開いた。
課金で入手するポイントが有り得ない桁になっている。一千万円分のポイント、一千万ポイントが振り込まれていたからだ。
レオンは大々的に宣伝していたガチャの画面を開いた。
まだ、始まったばかりのゲームであるため、ガチャは人形ガチャのみである。
当たりとして表示されているのは可愛らしい子犬のペット。
そして従者は政務官のライラ。
可愛らしいキャラに心が揺れ動くも、レオンはガチャを回さずに画面を閉じた。
レオンは堅実である。例え幾らポイントがあろうとも今はガチャを回したりはしない。
今までレオンはこの手のガチャを散々回してきた。
ガチャの内容はより良く更新されていくため、リリース当初のガチャを回しても旨みは少ないと感じたのだ。レオンは後々のためにポイントを温存することを決める。
そして、ガチャを回すタイミングを掴めぬまま3年の月日が流れた。
これはもはや堅実というよりも優柔不断と言っていいのかもしれない。
今まで課金ポイントを使用したのはショップで売っているものばかり、ガチャのような不確定要素がないものに限定されていた。
購入したのはニ種類のみ、インベントリを最大まで広げるのに100000ポイント、愚者の指輪の購入に1000ポイント使ったが、ポイントはまだ9899000ポイント残っている。
【インベントリ拡張……アイテムの所持数を増やす。複数購入可】
【愚者の指輪……飲食、排泄、睡眠不要】
お陰でインベントリは9999種類9999個までアイテムが持てるようになっていた。それだけレジェンド・オブ・ダークには多種多様なアイテムがある。
そして、愚者の指輪。これは戦闘系ギルドに所属するレオンには欠かせないものであった。
レジェンド・オブ・アースには飲食などの概念がある。
空腹になれば体力が徐々に減り、排泄を行わなければ体調が悪くなり病気になる。一定時間行動すると睡眠を取らなければならない。
まさに、普通に生活しているのと変わらない。これも、擬似生活を体現するレジェンド・オブ・ダークの売りの一つであった。
しかし、戦闘系ギルドに所属するプレイヤーから不満が爆発する。
純粋に戦闘を楽しみたいプレイヤーから見れば、そのような食事や排泄などは邪魔でしかない。
特に厄介なのが睡眠であった。3時間ログインすると睡眠と称して強制的にログアウトするのだ。
これはプレイヤーが体調を崩さないためにとの配慮であるが、レイド戦など大事な場面でも強制的にログアウトさせられるため、プレイヤーから不満が殺到したのだ。
プレイヤーの声に押され敢え無く愚者の指輪がショップで売られることになった。
愚者の指輪という名は、生命に必要な欲求を取り除いた愚か者、そんな意味が込められているらしい。
初めはソロで活動していたレオンであったが、レイドの難易度に悩まされ、結局は戦闘系のギルドに入っていた。
入ったギルドの名は戦いの庭園。
レオンはレイド討伐に積極的なこともありギルドはレオンのことを快く受け入れてくれた。
戦闘系のギルドに所属するプレイヤーは得てしてログイン時間が長い傾向にある。
レオンもその一人で、時間さえあれば仲間たちと素材集めに没頭していた。
休日ともなれば一日中レイド討伐の梯子など当たり前である。
レオンは仲間たちと協力し合い、素材を集めて製造限定のLRアイテムを幾つも作った。
そして、戦いの庭園の仲間が強くなるにつれ拠点も次第に大きくなり、いつしか拠点を天空城に構えるまでになっていた。
元々、廃課金者が多く在籍していたことも起因するが、それだけが理由ではない。其々がレジェンド・オブ・ダークに多くの時間を割いていたからこそ、天空城を手に入れるまでに至っていたのだ。
レジェンド・オブ・ダークに有名な拠点は数多くあるが、天空城はそのうちの一つである。
そこを拠点に構えることで、戦いの庭園は上位ギルドの中でも一目置かれるギルドへと成長していた。
レオンは天空城の自室を出て玉座の間に歩みを進めていた。
天空城は何処も荘厳であるが、玉座へ続く控えの間からは更にその雰囲気が増してくる。
控えの間の両脇には白銀の甲冑が列をなし、天井には煌びやかなシャンデリアが幾つも吊るされ、床には足を踏み入れるのを躊躇わせるような美しい絨毯が敷かれていた。
控えの間を歩くレオンの前方で、玉座の間の扉が音もなく開かれた。
その扉の向こうから、豪奢な衣装を身に纏う一人の老人が顔を覗かせる。長い髭を蓄えた老人はレオンを見つけると嬉しそうに歩み寄ってきた。
「レオンさん、こんばんは」
「コタツさん、こんばんは。明日はついに記念すべき4周年目突入の大型アップデートですね」
「そうなんですよ。もう待ちきれないです」
「明日もガチャを回すんですか?」
「当然じゃないですか。私はガチャを回すために仕事をしてるようなものですから。尤も、回すのは人形ガチャだけだと思いますよ」
「新しく実装されたガチャの従者を引き連れていると目を引きますからね」
「私もギルマスとして、戦いの庭園の宣伝を兼ねて目立ちたいですから」
「相変わらずですね。装備ガチャは半年前に製造可能になったGRに劣りますし、ガチャを回す人が減って運営は困らないんでしょうか?」
「我々は兎も角、初心者は相変わらず回してるみたいですよ」
「LRでも作るとなるとそれだけ困難ってことですか、俺たちが簡単に作ってることが異常なんでしょうね」
「LR以上の装備は誰でも作れるわけではないですから。特にGRの素材は、私たちでも苦戦するレイドでしか手に入らない上に、ドロップ率が異常に低く設定されていますからね」
「あれって、絶対に作らせる気ないですよ」
「全くです。私たちもフォルトゥーナの指輪が作れなかったら危ないところでした」
「あれは見事に他のギルドを出し抜きましたから。コタツさんの先見の明があってこそです」
「たまたま上手くいっただけですよ」
レオンは初めてGR装備が実装された日のことを思い返す。
GR装備は同時に武器、防具、装飾品の三つが実装された。武器や防具の性能が告知され話題になる中、装飾品だけは違っていた。
【僅かに運が上がる】
それだけの表記しかされていなかったのである。
それまで、レジェンド・オブ・ダークには運を上げるアイテムはなく、また運の要素もそれほど重要視されてはいなかった。
それは多くのユーザーが検証した結果、アイテムのドロップ率はステータスの運で変わらないと分かったからである。
運はあくまで確率に左右されるスキルや魔法のためにあると思われていた。
そのため、運の上がるGRアイテム、フォルトゥーナの指輪は他の上位のギルドから見向きもされなかった。
戦いの庭園でも当然のように武器や防具の素材を集めるべきだと声が上がる。
しかし、そんな中でコタツがフォルトゥーナの指輪には何かあるのではと疑問を呈した。抑、運が上がるだけの指輪がGRなのはおかしいと。
コタツはギルドマスターであり仲間からの信頼も厚い、それなら一つ作って効果を確認しようという話になった。
戦いの庭園の仲間たちは時間をかけて素材を集め、凡そ半月の期間を掛けて指輪を完成させた。
そして、指輪を装備して何度も検証した結果、あることが判明した。
それは、フォルトゥーナの指輪はアイテムのドロップ率を変えるというものだ。正確には運の要素がドロップ率に影響を及ぼすようになるという効果であった。
つまり、フォルトゥーナの指輪があればレア素材を今までより楽に集めることが出来るということ。
この効果が解明されると、戦いの庭園は情報を公開しないように徹底して指輪の独占に走った。フォルトゥーナの指輪を製造するにはレイドで手に入るレア素材の他にも多数のレア素材を必要とした。
中には数が限られる物も多く存在し、購入できないものは他のレア素材との交換などで手に入れていった。
他の上位ギルドが武器と防具の素材集めに没頭している中、戦いの庭園は瞬く間に
フォルトゥーナの指輪の材料を市場から消していった。
そうして作られたフォルトゥーナの指輪の数は全部で5つ。恐らく現時点で作れる最高の数である。
その頃にはフォルトゥーナの指輪は効果が重複することも分かり、戦いの庭園は素材集めで圧倒的優位に立っていた。
そこからは言わずもがな、GRの武器と防具の素材集めに取り掛かる。ほぼ落ちることがないレア素材が高確率で、しかも時には複数落ちる。
材料は何度でも挑める最難関レイドからのレアドロップということもあり、僅か数日でGRの武器が作れてしまった。
それからは毎週のようにGRの武器や防具を作っていった。笑いが止まらないとは、まさにこのことである。
「そう言えば今日はレイドを狩りにいかないんですか?落ちてる人が多いみたいですけど」
「GRの武具は全員に行き渡りましたから、今日は明日に備えて休みにしたんですよ」
「そうだったんですか。明日は恐らく新しいレイドも実装されるでしょうから忙しくなりますね」
「レオンさんには頑張ってもらいますよ。私の読みでは新しいGRアイテムが実装されると思うんですよね」
「確か明日のアップデートは21時に完了ですよね。明日は仕事を早く切り上げて直ぐに入らないと」
「期待していますよ。レアドロップはレオンさんの手に掛かっていますからね。それでは私も徐々落ちますので。おやすみなさいレオンさん」
「おやすみなさいコタツさん」
そう告げるとコタツはレオンの前から姿を消した。
残されたレオンは左手を掲げる。その5本の指全てにフォルトゥーナの指輪が嵌められていた。
戦いの庭園においてレオンの役目はレイドに止めを刺すことである。なぜならフォルトゥーナの指輪を装備したプレイヤーが最後に止めを刺さなければドロップ率に影響を及ぼさないからだ。
レオンがフォルトゥーナの指輪を託されているのは毎日ログインしていることに起因するがそれだけではない。
その他にも、レオンが運の上がる職業を取得していたことも大きい。レオンの取得した職業のうち2つは戦闘には直接関係のないものであった。
それは、マスタークラスの職業である勝負師と天命師、この二つは僅かだがステータスの運にボーナスポイントが入るのだ。
レオンがなぜ戦闘に関係ない二つの職業を取っているのか。
それは始めて間もない頃、運の良さがアイテムのドロップ率に影響を及ぼすと思っていたからである。
レオンは運がドロップ率に影響を及ぼさないと知ったときは落胆したが、いまではその運の高さでギルドに貢献できることが嬉しかった。
フォルトゥーナの指輪5個と合わせると、レオンの運は最大値の100まで上がる。戦いの庭園の中において、運が最大値まで上がるのはレオンだけのため、自ずとレオンにドロップUPの役割が回ってきたのだ。
だが、レオンは戦闘に関係のない職業を取得していることもあり弱かった。
レジェンド・オブ・ダークは複数の職業を取ることができる。
最初に選べる一つと、レベルが10上がるごとに一つ、レベル100では最大11の職業を取ることができる。
そして、職業には熟練度があり、一定の熟練度に達すると、更に上の職業に転職することができた。
職業は初級クラスから中級、上級、最上級、マスタークラスまでの5段階、熟練度を貯めることで上のクラスに転職する仕組みになっている。
それは、上位職に転職する度に枝分かれしていた。
初級職の傭兵であれば、最終的にはナイトマスター、パラディン、アークナイト、ソードマスター、インペリアルナイトなど、16の戦士系のマスタークラスに転職することができる。
そして、マスタークラスになると、職業によりステータスに僅かだがボーナスポイントが入るのだ。
レオンはといえば戦士系、魔法系、神官系など、バランスよく職業を選んだのだがこれが失敗であった。
最終的にレオンのステータスは飛び抜けたものが何もなく、平均的なものになってしまった。
バランスが取れていいようにも見えるがそうではない。
レジェンド・オブ・ダークにおいて、取得する職業は極振りでなければ対人戦では通用しないからだ。
例えば、ギルマスであるコタツは11の職業全てを攻撃魔法職で取っている。これにより魔法攻撃力にボーナスポイントが上乗せされ最大級の火力が出せるようになっていた。
更に魔法やスキルには再詠唱時間がある。そのため、同じ魔法を連続で放つことができない。
しかし、コタツのように11の職業を全て攻撃魔法職で取得していると、多種多様な攻撃魔法を使用することができる。
これにより、強力な魔法での波状攻撃が可能となり、相手を倒しやすくなるのだ。
レオンはと言えば、攻撃魔法も攻撃スキルも続かない上に、ステータスも平均的なため威力も劣る。
そのため、対人戦でのレオンの強さは、装備の性能を考慮しても中の上が関の山であった。
だが、今となってはどうしようもない。課金アイテムの中にはレベルを10下げて職業を取り直せる物もあるが、今のレオンでは半分以上の職業を取り直さなければならない。
それに、レオンのレイド戦での役目は、仲間が削り切ったレイドに止めを刺すことである。その他には前衛と後衛の間に入り前線を維持する事だ。
メイン盾のヘイトが切れた時には、代わりに攻撃を受け止め、回復が間に合わない時には回復に回る。
それらを考慮すればレオンが取得している職業は悪くはなかった。
レオン自身もそれを分かっているため、あえて職業を取り直そうとはしない。対人戦での強さよりも、レイド戦での役割を重視していたのだ。
誰にでも出来そうな役割であるため、レオンは自分など大したことのない中堅プレイヤーだと思っている。
しかし、そうではない。
寧ろ、前線が崩れないようにレオンが絶妙に調整しているからこそ、他の仲間が攻撃、盾、回復と自分の役割に全力を尽くせるのだ。
それは一緒にレイド討伐をする仲間たちが一番よく分かっていた。