悪役令嬢はテンプレ悪役を極めてます
テンプレ大好きなので。
美しい花々が咲き乱れる花園のテラスに、その花々に負けないほどの麗しき4人の美少女たちが座っていた。
「では、私が準備させていただきます」
百合のような清廉さを携えた白銀の長い髪を靡かせた美少女が、嫋やかな笑みを浮かべながら、カップを他の4人に配っていく。
「ええ香りやなぁ」
お茶の甘く優しい香りに、薔薇のような魅惑さに溢れた体を震わせながら赤髪ポニーテールの美少女は微笑む。
「やはり、お茶に関しては貴女が素晴らしいわ!」
お茶を一口飲んだ、金髪ショートカットの美少女は向日葵のような元気に笑った。
そして、彼女たちの王座となる中心に座る黒髪を三つ編みにしてゆるく結んだモノクルをつけた美少女が、カップを置いた。
それを合図に他の3人も、黒髪の美少女へと視線を向ける。
「えぇ、白の君のお茶は相変わらず素晴らしいですわ。では、皆さまそろそろ「花園会」のお話を始めましょうか?」
黒髪の美少女はその紅い瞳を愉しげに緩ませ、艶やかに口元をつりあげた。
それから、スッと手を挙げたのは赤髪の美少女ーーソラウ=ルーゼンビッヒであった。
「それでは、私から話させて貰おうか。今朝方に、あの桃の少女が『白の賢者』に接触した」
ソラウの言葉に、一瞬だけ白銀の美少女ーーシエル=カイーマンの肩が揺れたが、シエルは何事なかったように微笑みを携える。
「あちゃー、赤の君に言われちゃったわ! 私からは追加で、桃の少女が『白の賢者』から白い花をもらったそうだよ!」
元気よく情報を追加するのは金髪の美少女ーーリリアンナ=デーベンシュークである。先ほどまで優雅な笑みを浮かべていたシエルの笑みが固まった。
「なるほど、『白の賢者』が持ったのは3週間ぴったし、というところですね」
黒髪の美少女ーージュリア=シュバルインは、モノクルをきらめかせながら、穏やかに微笑んだ。
「つまり、私の勝ちですね。シエル?」
「あんの!!! ヘタレどぐされ賢者め!!!! あと1週間早く男を決めろよ!!だから!!オメェはヘタレなんだよ!!!!」
今までの清廉さは、どこに消え去ったのか美しい白銀の髪をぐしゃぐしゃしながら頭を抱えるシエルに、ソラウが慰めるように肩を叩く。
「また、ジュリアちゃんの一人勝ちだね!」
「ふふ、ありがとうございます。リリアンナ」
はい、これ勝利のケーキね!とリリアンナから差し出されたのは、大量の苺が乗せられた苺のタルトであった。ジュリアは、優しく目を細めながら、そのタルトを恭しく受け取った。
「うう、わたくしの、苺ちゃんが!!」
「ご馳走になりますわね、シエル」
「シエルちゃん、代金よろしく!」
とても美味しそうにタルトを食べていくジュリアに、シエルは恨めしげに見ながら、アイテムボックスからリリアンナに10万円ほどの束を差し出した。
ちなみに、この世界のケーキはどんなに高級店であっても精々、1万ほどしかしない。つまり、それだけリリアンナの持ってきたケーキは、桁違いのものである。
「しかしさぁ、まさか『赤の騎士』に『金の王子』、そして『黒の戦士』、さらには『白の賢者』から花を貰うなんて、あの桃の少女はすごいねぇ」
「しかも、全員半年以内だもんね! すごい手腕だよ!」
「うぅ、わたくしのタルトが、あの腐れヘタレ野郎をどうしてくれましょうか」
彼女たちが思い浮かべるのは、桃色の髪を持つツインテールの少女である。ちなみに、約1名はまだタルトに未練を抱いているが。
「というか、あの男どもは一応『花持ち』であることを理解してたんかねぇ?」
「理解した上で送っているのではないですか? 何せ、彼らは『自身の色』を彼女たちに渡したのですからね」
ソラウの言葉に、綺麗にタルトを食べ終えたジュリアがフォークを置いた。
「ぶっちゃけ、自身の役割を理解してないお馬鹿さんですよね!」
「うわ、リリアンナ毒舌やんな」
いい笑顔で言い切るリリアンナに、ソラウは笑いながらも否定はしない。つまりは、そういうことだ。
「さて、そのお馬鹿さんたちの『花』である私たちはどう致しましょう?」
「それは、決まっているでしょう?」
まるで、氷のようなどこか冷たく美しい、この4人ではない声がした。その声に、ジュリアたちは慌てて立ち上がる。
そこにいたのは、この世のものとは思えないほど美しい人であった。
海のように青く美しい髪を結い上げて、真珠のような美しい肌を持ち、瞳を閉じた美しい人であった。
「アイヤさ、ま」
どこか緊張したようなソラウの声に、アイヤと呼ばれた美しい人は微笑んだ。
「ええ、アイヤですわよ。わたくしの、可愛い赤い花。さて、わたくしの可愛い黒の花。
わたくしの、言いたいことはお分かりですわよね?」
名指しされたジュリアは、ビクリと肩を震わせるがすぐに落ち着かせて、膝をついた。
「……もちろんでございますわ。アイヤ様。私たちは、アイヤ様の可愛い花です。それを無闇に散らそうという不届きものがいるならば、教えて差し上げなければなりません」
「えぇ、そうよ。わたくしの可愛い黒い花。不届きものたちに教えて差し上げなさい?」
薄く開かれた、濃い深海のような青い瞳で、アイヤは蠱惑的に微笑む。
「可愛い可愛い、花には毒があるんですわよ」
その言葉に、4人の花たちはうっとりとしながらも頷いた。
**
厳重に施錠されて、禁忌魔法とも言えるものが施されたその先にある豪華な一室に、私はーーアイヤ=ルルーシュエルトはいた。
「よっしゃ!!!!! やっときた!!!!!」
そして、心からのガッツポーズをしていた。最早、コロンビアポーズをしてもいい。
ソファーをバシバシと叩きながら、感動の余韻に浸る。
これこそ、私の予定通りであるのだから。
なんか、お前さっきのキャラ違くね? なんなの?とか思われるかもしれないが何も間違えてない。どちらも、私なのだから。ただ、こっちのキャラを知ってるのは私しかいないがな!!!
簡単に、それこそ三行で私のことをまとめるのなら、
3歳で、日本で暮らしていたアラサーの前世の記憶が復活。
家がクソポンコツ当て馬悪役ポジでござる。
そうだ、悪役を極めよう。
以上だ。
訳がわからない?訳がわらかないのではなく、感じるのだ!某テニスプレイヤーもいっていただろう! ここにはいないがな!!!
ちょっと、今、すごくテンションが高いんだ。許してくれ。
まぁ、先に行っておくと別にこの世界はよくある少女漫画の世界とか乙女ゲームの世界ではない。むっちゃ、似てるけど。なんか、ありそうだけど。
こんなゲームや漫画があったかもしれないが、前世の私は知らない。その代わり、私はゲームや漫画の記憶があったからこそ、気がついた。
私財もあくどいことして肥えさせては、体も豚のように肥えているお父様。
美容に力を入れすぎてガリガリになり、ヒステリックに声をあげるお母様。
父のように豚のように肥えており、世界の食べ物は俺のものだと思っているお兄様。
そして、まだギリギリ豚になっていなかったが十分子豚ちゃんな、我儘放題であった3歳児の私である。
あれ? うちの実家、ポンコツ当て馬悪役ポジすぎない?
と。
いやだって、こんなにも絵に描いたようなことしてるんだぞ?
お父様なんか、こそこその怪しい商人と密会してたし、お母様は狂ったように宝石とか買ってたし、お兄様はめちゃくちゃご飯を食べまくっていた。
あまりにもテンプレすぎたんだ。
そこで私の火がついてしまった。私は前世から乙女ゲームや少女漫画が好きだった。ラノベとかも大好物だった。
そのため、このテンプレすぎる悪役家族たちは大変面白いのだ!
よく考えて欲しい! 本当にテンプレすぎるのだ!!
お父様は、商人を信じられないから自分で顧客リストとかまとめた裏書類を自分の隠し扉の金庫(暗証番号はお母様の誕生日)で、自身(侯爵)よりも権力を持つ人には媚を売りまくり、下のものには見下すわ蹴落とすわで、媚と権力だけで生きてるから政治などの才能はない!!
お母様は、そもそも元々は美しいのに、痩せたらもっ美しくなれると思っているので、がりがりになり、さらにはドレスやらで自分を飾り立てまくり、ヒステリックに叫んでいる、ちなみに侯爵夫人としてのほぼ皆無!社交界では自称『宝石(のように美しい)夫人』である!
ただしくは、『宝石をつけまっくている夫人』だ!!
ラストは、お兄様はお父様とお母様を見事にミックスされた外見から内面まで、完璧な悪役である!あとご飯大好き! 特にいうことはない!!
ここまできて、テンプレではないか。すごく、テンプレすぎていいではないか!!と私のテンションは上がった。
あまりにもテンプレすぎて、逆に面白くなってきたのだ。
お父様は、あくどいお金儲けはするが人を殺したりはしないし、女遊びもしない。実はお母様一筋なのだ。散財するお母様のためにお金儲けをしてるのだ。なら、痩せろと思う。
お母様は、実のところ自分が痩せすぎているのでは?ということに勘付いているが、今更やめるとお父様から嫌われてしまうのではないかと思っているからやめらない。実は肥えたお父様ラブなのだ。お前ら話し合え。
お兄様は、ぶっちゃけただのご飯大好きな普通の男の子である。お兄様はご飯与えとけばなんとかなる。
ほら、すごくテンプレでしょ?
思わず、拍手喝采だ。ここまでテンプレすぎてすごい!!!
ここまできたら、テンプレつきつめて、悪役になろうぜ!!!最後まで、テンプレになろうぜ!!
ちなみに、ここで私がなんか色々して夫婦を仲も戻して、お兄様も痩せさせて、みたいなことしたらそれこそテンプレすぎるだろうから、やろうと思ったのだが、3歳児の私がいきなりなんか言い出したら、怖くない? いくら、この世界が魔法と剣のあるファンタジーだとしても許されないよ? 寧ろ、悪魔憑きとか言われて協会に突っ込まれるわ。
では、どうしたらいいのかと齢3歳の私は考えた。
そして、思いついた。
とりあえず、まずは私がテンプレ悪役を極めよう。
と。
人にどうこうとかいう前に、自分がまずは何とかするべきだよね!
そこから、私の悪役を極めるべき日々が始まったのだ。ちなみに、家族や使用人たち、周りの者たちには悟られぬようにした。
だって、悪役は努力を見せない方が悪役らしくてテンプレでしょう?
そこから、早12年。
私は、自分でも惚れ惚れとする美貌と一級品の教養、ギルドにおいてSSクラス(世界で5人しかいない)の冒険者になった。すごく、極めました。頑張ったよ!まぁ、冒険者に関しては秘密だよ!テンプレだね!
そしたら私はお爺様に引き取られたんですけどね。ええ、お察しの通りです。お爺様は、お父様の無能さはどこにやったのか言わんばかりの、超腹黒の狡猾な公爵でした。あれこそ、狸だと私は知った。というか、ここまである意味テンプレできてんなぁと思っていた。
ちなみに、私の教養などに関してはお爺様が師です。お爺様から去年無事に免許皆伝をいただいた上で、お爺様から公爵の地位を頂戴した。えぇ、悪役を極めるなら、超腹黒な狸お爺様を超えなくてどうしますの? まぁ、若干あのお爺様には読まれていた気がする。今でも元気に隠居中であるをそのため、実はすでに女公爵となっているのだ。この国では、実力のあるものが上に立つので、男も女も血統も関係はないのだ。そう考えると、お父様よく生きてたな。
ちなみに、この歳月でお父様とお母様はなんか和解していて、お母様は昔の美しさを取り戻し、お父様も痩せてマッチョなダディになっていた。今では国1番の鴛鴦夫婦と言われるレベルでラブラブであり、政治力皆無だったお父様は有能にもなっていた。お兄様も、食から剣に目覚めたらしく見る見るうちに体を鍛えては、気がつくと私と同じくSSランクの冒険者になっていた。ちなみに、美青年にもなっている。
テンプレすぎて何も言えないわ。
そんなわけで、悪役として私はテンプレを極めまくっていた。
最後の仕上げは、私ではできないのだ。なぜなら、悪役は『正義の味方』がいなければ成り立たないから。最後には『正義の味方』に成敗されて散るまで、悪役である。
だから、『正義の味方』が必要だ。私のように極めたテンプレの『正義の味方』が。
そして、私が思い出したのは前世の少女漫画や乙女ゲームである。
幸いなことに、私の同級生には第1王子や有力な子息たちがいる。
つまり、これはあのよくある展開、テンプレに持っていけるのではないかと思いついたのだ。
ここまできたら、テンプレを極めてやるしかない!
残念ながら、私は王子の婚約者ではないので、別の準備をしなければならなかったが。
そして、平民でも貴族でもこの学園にはいればすべて平等という理念のあるジークライト学園に入学して、私が2年生なった年に、その子は現れたのだ。
桃色ツインテール髪に、まんまるの瞳と、桁違いな魔力をもつ平民の少女が入学したのだ。
そして、彼女はその愛らしい容姿と純粋無垢な正義の心に、学園において『色持ち』と呼ばれる麗しのプリンスたちは骨抜きになっていたのだ。『花』持ちであったのだが。
そんなわけで、物凄く乙女ゲームや少女漫画のような展開になっているのだ。
ちなみに、その桃色の少女は本当にいい子であり、『色持ち』のプリンスたちの求愛に困惑して、きちんと断っているのだ。また、礼儀もしっかりとしており、他の貴族たちからの評判は悪くない。しかし、人気のプリンスたちから求愛されているため女子たちには睨まれているが。流石、『勇者』になり得る素質の持つ少女は違うな、と私はホッとしていた。よくあるテンプレな悪役ヒロインだと私がプチッとしちゃうからね!正統派テンプレ主人公ちゃんで良かったよ!!私も悪役を極めたかいがあったというものだ!
だが、まだ私は手を出さない。私が育てた可愛い可愛い花たちと戦うことで、
彼女たちはもっと高め合うことだろう。今のままでは、桃色の少女は極めきっていないからね。ほら、四天王みたいなやったから。あくまで、あの子たちはライバル令嬢だ。悪役令嬢が何人もいたら、私が唯一であり至高の悪役令嬢となれないでしょ?
「楽しみだわ」
あとは、遠視魔法にて桃色の少女の動向を見守るのみだ。
さて、楽しませてくださいな。
桃色の少女ーールルア=アルバーナ様。
ありがとうございます