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黒札  作者: サバカン
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環境適応

                  ~第5章(環境適応)~

 7月23日。


 日が昇り、太陽が海面を照らし出した頃、3人は目を覚ました。


「ん、んー、おはよー、和人さん、なっちゃん」


「ふいー、おはよー」


「よし皆起きたか、さっそくだけど水の確保に向おう!時間の感覚が良く分からないから、とりあえず太陽が沈む前にある程度のことは済ませておきたいからね」


「分かった。じゃ、行こうか。体ベトベトしてて気持ち悪いから早く水浴びしたいしねー」


「わ、わたしも、その、水で体を拭きたいです」


「じゃあ、まずはそこの水が出てる経路を上流に向って歩こう。火種は一応、ここに置いて行く分と、何かあったときのために松明を2つ点けて持って行こう。」


 3人は海へ流れ出る水を頼りに、上流の方向へと足を進めていく。バサッバサッバサッ。奥深くになるにつれて木や草が生い茂っている。


「二人とも足元大丈夫?一応昨日歩いた感じだとこの辺に危ない動物は居なさそうだったけど気を付けて歩いてね。あと、漆とかは多いから肌に触れないように、ズボンとかはめくらない方が良いよ。かぶれちゃうから」


「了解しました隊長!!」


 夏樹が元気よく答える。


「何かこういうのも楽しいですね。ピクニック?みたいな感じで」


 美月があっけらかんとして言う。


「ピクニックってwまぁこんな状況じゃなきゃ楽しいだろうけどさー」


 本当にその通りである。このハーレム的状況、少し前の和人では想像出来なかったであろう。こんな状況でなければリア充も良い所であるが、死と直面しながら時間が経過していく今はそんなことを言ってる場合でもない。


 しばらく森の中を奥に入って行くと、流れる水の音が大きくなっていく。


「あれ、この音・・・。もしかして滝みたいになってるのかも!もう少し頑張って歩こう!」


 和人は少し速足で川沿いを歩きだす。


 あ!やっぱり!


「おーい!小さな滝があってのその下がため池みたいになってる!!」


「あ!!本当だ!!!やったー!とりあえず早く水分補給しないと、うち、骨になってまうー」


 3人は滝のある場所へと向う。夏樹と美月はフライング気味に川の中に入って行く。


「はっ!!!冷たい!!きもちー」


「ほんとだー、冷たくてきもちーよー、和人さーん」


 和人は無心になって、川に頭を突っ込み水を飲んでいる。



「ぷはーっ!この水うま!世界で一番うまい水だよこれ!」


「そうですねー、このお水美味しいです」


 ぐうーっ


 和人のお腹が鳴った。


「それにしてもさすがに腹へってるなー。ん、この流れなら・・・。ちょっと二人ともこの場所に居てくれる? あとその辺に落ちてて乾いている木の枝とかを集めといて!」


「ん?何するの和人?」


「まぁまぁ、見てて」


 和人はおもむろに川を少し下った所で、石を積み始めた。徐々に川から分離された、ため池のような場所が出来上がって行く。すると、石に囲まれた場所で何かが、水の表面で跳ねている。和人はその中に入りバシャバシャと何かしている。


「やったー!ほら!!魚!!ほらほら、早く木集めて!俺、あと何匹か捕まえるから!」


 そういうと和人は、再度バシャバシャと魚を捕まえようとしている。


「和人さんすごーい!!」


「和人、やるな、見かけただの変人なのに意外と・・・w」


「よし!じゃあとりあえず持ってきた松明使って火を起こそう!」


 和人は手際よく火を起こすと、次々に魚に木の棒を差し、火にかけていく。


「焼けるまで、少し待ってようか」


「和人さん意外と、何でもやるんですねー。この魚はなんていう魚なんですか?」


 美月は少し和人に感心しているようだった。


「これ?これは・・・。分かんないwいわなだと思うんだけど、俺が知っているいわなとは色が違うからなぁー、でも水も綺麗だし、まぁ多分いわな系の魚だと思うよ!」


「へー。それにしてもまさか魚食べられるとは思ってなかったな―。」


「あ、ちなみに塩がないからあじけないし、土臭いかもしれないけど我慢してね」


「いやー、この状況だともう何でも食べられること自体に感謝だよね。うんうん、うち、今まで食べ物のありがたみ完全に忘れてました。


「私も、食べられるだけで、本当にうれしいです。和人さん居なかったら多分、餓死確定でした・・・。」


「よし!そろそろ焼けてる!食べよ」


 3人とも一気に魚を口に頬張る。


「う、、、うまーい!!!和人!!これめっちゃうまい!!」


「はい、和人さん、こんなおいしい魚、私は食べたことありません」


「ん、・・・うまい!確かにこれはうまいな。きっと空腹だったからなんだろうけど、すげーうまい」


 和人が最初に捕まえた6匹の魚はあっという間に3人で食べ終わった。途中空腹になるだろうと和人は追加で5匹捕まえ焼いていつでも食べられる状態にした。


「いやーうまかったー。とりあえず、胃袋は少し補給出来たし、水の場所も確保出来た。あとは食材を何種類か探せば、どうにか生活は出来そうだね」


「はい!これなら、すぐに死なずに済みますね」


「よしゃ!体力も回復したし、和人が昨日言ってた洞穴行ってみる?ここからは近いの?」


「んーそんなに遠くないかな?まぁちょっと2人にも見てもらって問題なさそうだったら、そこに一時的に居住スペース作ろうか?まだ日が落ちるまで時間ありそうだし。」


「はい!そうしましょう!葉っぱとか集めて寝る所作りたいです。なんかこれってサバイバル?してるみたいですね!」


・・・。美月の発言に二人が思わず吹いた。


「サバイバルしてるみたいって・・・、これ完全に、本格的に、正真正銘の、サバイバルだろw」


 あ・・・。自分の発言に恥ずかしくなった美月は下を向き頬を赤らめた。


「うしっ!じゃあとりあえず行こうか!」


 3人は洞穴へ向った。川を上っている時とは違い水分を補給し食事が出来たためか、足取りは軽かった。洞穴へ向う途中、和人が急に二人の足を止め、相図を出した。しーっ!!


 小声で夏樹が確認をする


「どうしたの?」


「いや、今人の声が聞こえた気がする。ほら、あっちの方」


 そう言って指差し方向から、かすかではあるが声のようなものが聞こえた。何か動物であれば視界に入ってこなければおかしい距離感である。 ・・・ということは誰か茂みに隠れてるのか?


和人は美月と夏樹に待機するように伝え、ドキドキしながらも声のする方向へと近づいて行った。


 う・・・うー・・・。


 はっ!誰かが倒れて唸っている。


 こ・・・・、これは・・・、俗に言うイケメン・・・。顔立ちは整い、もささを全く感じない、こんなところにいるのに清潔感に溢れているし、なんか心なしか良い匂いまでする。こいつは一体・・・。


 息はしているようだが、お腹を押さえて何か唸っている。


「うー・・・・、h、は、はらが、、h、へって、しぬ」


 どうやら、空腹に襲われ動けなくなっているようだった。和人は考える。ここで、イケメンを救出して一緒に行動することになった場合、女子に囲まれた俺の幸せは、完全に終止符を打つことになる。ここは・・・、

 

 いやいやいやいやいや、んなこと言ってる場合じゃないよな。男しては当然の迷いだが、ここは躊躇するべきところではない。


「た、たのむ、何か食べるも、の、が、あれ$%&#」


 仕方ない、ここは・・・。


「美月!!夏樹!!ちょっとこっち来てくれ!!」


 二人を呼んだ和人は、先ほど焼いた川魚を渡すように促す。


「ほら!これ食べれるか?」


 口元に魚を押し当てるが、反応がない。しょうがないので、魚の実の部分をちぎり口に入れようとするが、上手く飲み込めないらしい。


「和人さん、あの、私テレビで見たんですけど、その、口に含んでから・・・、口移しで上げると飲みこめるみたいです。」


 え・・・。一瞬思考停止。あれか、ものの○姫のあのシーンか。肉をかみ砕いてアシ○カに姫が口移しをするあれか・・・ちょ、え、いや、その前にこれ魚だし、肉みたいな固さはないよね?よな!?


「あの、その、このままじゃこの方が危ないので、しょうがない!和人さん!!魚かしてkud」


「ストーっぷ!!!!!!」


 勢いに任せてやりかけた美月を、和人が全力で止める。そして魚を全力で口の中に頬張り、かみ砕く和人。こうなりゃやけくそだ、やってやる、俺がやるのが一番ましだ!!!


 ・・・んっ、ぬゅるっ んっふっ


 美月と夏樹はその光景を見て唖然としている。


「っはー、これでどうだ!ほら、食べられんだろ!あ、美月と夏樹はどうにかして水持って来て頂戴。多分それっぽい木か葉っぱが・・・、ほら、この木なら、ここくぼんでるから、水お願い」


 もう一度、和人はイケメンに魚を口移しで食べさせる。


「はい!和人さん!水!」


 和人は水をイケメンの口の中に入れる。


 ごほっぐほっ、んぐ。


 イケメンは口に含んだ水を戻した。再度水を口に入れると、今度はすんなりと飲み始める。すると、復活したのか目がしっかりと見開いている。


「あ、ありがとう、その魚を頂けますか?」


「ん?あ、これ?食べれる?どうぞ」


 和人が魚を渡すと、イケメンはその美貌になりふり構わず魚にむしゃぶりつく。


「いやーよかった。ほんとよかった」


「そうですね、ほっといたら、この方危なかったですもんね。和人さんナイスファイトでした。」


 美月が和人に向けて、親指を立ててサインを送りながら笑顔を送る。が・・・


 和人は、自分の行った行為を振りかえり放心状態となる。俺のファーストキッスが・・・、まさか、こんな形で・・・、しかも、舌入れたぞ、もう、あー#$%&。


和人の心は荒んだ。


「和人がたまたま見つけてくれて、本当良かったね」


 夏樹がイケメンの肩をたたく。


「あ、あの!本当にありがとうございました。僕本当にここで死ぬのかなと思ってて、本当に本当にありがとうございました。」


「ん、いや、よかった、ほんと、なんか色々危ない所だったね。」


 和人は心無い返事をする。


色々危なかったのは確かである。美月の暴走を目の前で目の当たりにするよりは、和人自身が被害を受けた方がよっぽどましだと思ったのだ、が、これはこれで、和人にとっては大きなダメージとなった。


「あ、すいません、僕自己紹介もしてませんでしたね、関城敦せきじょうあつしと申します。あ の、、、皆さんはこれからどうされるんですか?こんな状況で僕どうしたらいいか分からなくて、もし良ければご一緒させていただきたいんですが」


 君、悪い人そうじゃないね・・・


・・・だが、断る。


 と言いたい和人であったが、グッとこらえた。


「も、もちろんですよ。あ、俺達も自己紹介しておきますね、俺は檜山和人、で、こちらの天然美少女が美月、でこちらの元気娘が夏樹」


「天然じゃないもん!!!」


「ちょっと和人ー、うちらの扱い雑すぎ!」


 それを見た、敦は笑っている。


「皆さん仲良いんですね。もともとお知り合いですか?」


「いえ?ここ2日ほど一緒にサバイバルしてただけの仲です。ってことで、これから何が起こるか分かりませんし、人数は多い方が賑やかなので。ね?美月と夏樹も問題ないよね」


 ・・・嫌だ。


 と言ってくれ。頼む。


和人は心の中で願った。


「もちろん!うちは問題ないよ!」


 ・・・・ですよね、やっぱそうなりますよね。こんなところでよこしまな気持ちを持った自分の感性がおかしいんですよね・・・。


「私も和人さんが良いのであれば、大丈夫ですよ?」


 おー!女神よ・・・そんな言われ方をしては、勘違いしてしまうではないか。心の中で和人は喜びながらも葛藤していた。


「皆さんありがとうございます!僕に出来ることがあれば、何でも協力させていただきます!」


「よし、じゃあ、まずこの近くにある洞穴に行こう!居住スペースの確保は大事だからね」


 こうして、奇遇にもこんな場所で知り合った4人は、洞穴へ向った。


「お、着いた。ほら、そこにあるやつが、昨日俺が見つけたところ」


「わぁー、何か秘密基地みたいで良い感じですね」


 うきうきしながら美月がはしゃいでいる。


「まぁとりあえず、ここなら雨風凌げるし扉っぽいものつけたら、それなりに生活出来そうじゃない?水の供給源も近くにあるしね」


「そうだね、確かにここなら良いかも!うちと美月で大きめの葉っぱ集めて、ベッドにならないかやってみるね!」


 夏樹はやる気まんまんのようだ。


「えと、僕は何をすれば良いですか?」


 イケメン敦が和人を見つめながら聞いてくる。


「んー、俺と敦でとりあえず食料の調達してくるよ!火はここに起こして行くから。・・・、いや、ちょっと待って、敦は強い?」


「え?何がですか?」


「あ、武道というか、何かそういうの」


「そうですね、空手3段、柔道2段は持ってますよ、一応」


・・・ふぁ?!このイケメン何を言い出すの?


「え?ごめん、聞き間違いじゃなければ、柔道と空手の有段者ってこと??」


「あ、はい。なので、その辺の強盗よりは強いかもしれません」


 このイケメン・・・。パッと見線は細い感じに見えるが、前腕筋がしっかりとついて内側頭ふくらはぎのあたりの筋肉感がはんぱない。不平等だ、イケメンで強いとか、不平等だ、天は2物以上与えてんだろこれ。


「え、あ、そうなのね。じゃあ、男女混合チームにしとこ。女子二人で何かあったら対応出来ないだろうから。無法地帯のここで、女子だけにするのは危ないからね。」


 出来れば、美月と・・・


というよこしまな気持ちもないわけではなかったが、冷静に判断した和人の考えである。


「あ!じゃあ私和人さんと食材探し行ってきます!こう見えても食べれる野草とうかには詳しいので」


 ・・・・この自然な流れでのこれですよ!!


この天然娘はわざとなのかそうではないのか、妙に懐いてくるあたりが、誤解したくなるんだよな・・・本当に。


・・・チッ


 あれ、一瞬、敦の顔が曇った?しかも舌打ちしたように聞こえたのは俺の気のせいか?


まさか、こいつ美月を狙ってる?!・・・いや、きっと気のせいだ、一応素性は分からないしな、気をつけて見ておくか。


「じゃあ、敦と夏樹は、居住スペースの寝る所よろしく!あと水を溜めておけるようなものがあったら、それもついでに見つけて頂戴!」


「了解!じゃうちらは、この辺で探索してくるね!」


「俺と美月は海の方に行ってくる」

 

「そうだな・・・、日が昇る前には必ずここに戻ってくることでOK?あ、あと、もし何かあった場合のこと を考えて、松明を必ず持って行くこと。それで、もし、動けない事態になったりしたら、近くにあるものをひたすらいっぱい燃やして相図して。これは周囲に居場所を知らせることになるから、ちょっと危ないけど、別行動になってしまうよりは安全だと思うから」


「OK」


「じゃ、またあとで!」


 和人と美月は海の方向へ。敦と夏樹は森の中へ探索に出た。


「和人さん、海に行って魚でも獲るんですか?あ、まさか、ウミウシですか??」


「ふっ、違うよw。砂浜のちょっと先の方に岩場が見えてたから、そこに多分貝とかあるだろうから、まずはそれを取りにいくつもり」


「なるほど!でも、どうやって持って帰るんですか?入れ物ないですよ?」


「それは大丈夫!」


 うんっしょ、っと。和人は来ていたTシャツを脱いだ。


「きゃっ!」


「あ、ごめん。このTシャツに包んで持って帰るんだよ。」


「あー、なるほど!いきなり脱ぎだすんで、変態さんかと思いました。って・・・え??」


 美月は不思議そうに和人の体を見ている。


「意外と、筋肉質なんですね和人さん。こんなに筋肉あるのに何であの時、なっちゃんを引き上げられなk」


 和人の体は、見た目からはあまり想像出来ないほど、筋肉質で引き締まっていて背筋がくっきりと浮かび上がるほどだった。


「しーっ」


 和人は美月の言葉を遮るように口もとに人差し指を当てる。


「あの時は力が入らなかったから。じゃ説明不足かな?」


「いえ・・・」


「って、あー!!大丈夫ですか?!おっきい傷・・・」


 和人のちょうど肋骨がある辺りに、大きな傷があるのを美月が見つけた。


「あー、それは昔ちょっと色々あって、まぁ古傷だから今は痛くもなんともないよ」


「そうなんですか、和人さんは何だか訳ありさんなんですね」


「訳ありさんだから、ここに居るんじゃないかな?多分ここにいる人達は何かしらの訳ありさんなんじゃない?まぁほとんどが言いたくないことだろうけどさ」


 美月は下を向き、寂しそうな顔をしている。


「あの・・・、私、」


「あー!!ほら!あそこ!多分いっぱい食べれる物あると思うよー!」


 美月は何かを言いかけたようだったが、美月の表情を見ていた和人はその言葉を遮るように話題を変えた。きっと、今はまだ、聞かない方が良いだろうと、何となくそう思った。


 和人は岩場の近くに駆け足で向かう。


「ちょっと待って下さいよー!」


 美月も和人を追って岩場まで向った。


「すごい・・・。」


 岩場の近くまで行くと和人は立ち止った。自然に出来たプールのように岩場で囲まれたその場所は、海藻、小魚、貝類が豊富にあった。


「ここなら、色々食材調達出来るよ!しかも浅瀬だから簡単に捕まえられる!」


「私でも、これなら獲れそうです!」


 二人はそれぞれ黙々と、貝や海藻、小魚を取り始めた。


「美月!!見てこれ!!」


 和人は手のひらサイズの貝を美月に見せる。


「何ですか?この大きな貝?しかもなんか動いてますね!」


「あわびだよ、あわび!」


「えー!!これがそうなんですか!実物初めて見ました。こんなところにもいるんですね!」


「本当ここすごいよ、これならしばらく食材に困らないかも、貝類だけもたんぱく質・タウリン・カルシウムとか、それぞれの種類で色々栄養が賄えるし」


 目をきらきらさせながら、和人は食材を獲って行く。


「和人さんって、色々なこと知ってますよね。最初は、あー、って思いましたけど、一緒に居ると、本当に黒札が来たとは思えないです。」


「あー、ってなんだよw まぁ、確かにやる気の欠片も何もないダメ人間に見えたかもしれないけど。俺の場合自業自得というか、自分自身が怠けてただけなんだけどね。よし!とりあえず結構獲れたし、戻ろうか!」


「はい!行きましょう!」


 二人が岩礁から出ようとした時だった。


「いたっ!!」


 美月がその場に座り込んだ。


「どうした!!」


 和人は焦って美月の傍に寄ると、血が海水の中へ溶けだしている。


「大丈夫?!じゃあ、ちょっとあっちまで運ぶからちゃんと掴まってて!」


「あ、え、はい」


 和人は軽々と美月を抱きかかえると砂浜の方へ運んだ。


「す、すいません。足の裏を切っただけだと思いますけど・・・」


 和人は美月の足首を持ち、足の裏を確認する。かかとに貝の破片が刺さっていた。


「ちょっと痛いけど、我慢してね」


 んっ、・・・んふっ・・・


 痛みを我慢する美月から声が漏れる。


「はい、貝殻は獲れたよ、あとは・・・」


 ビリビリッ


 和人は収穫したものを包んでいたTシャツの一部を破り、美月の足首を掴むと、破いたTシャツの一部を足に巻いた。


「結構深く切れてるし、あとは、戻る途中の川で洗って、また、布で縛っておこう。多分、しばらくは痛いと思うけど・・・。これくらいしか今出来ないや、ごめんね。」


「ううん。和人さん、本当にありがとう」


「じゃあ、とりあえず、はいっ」


 和人は美月に背を向けてしゃがんだ。


「え、大丈夫だよ!歩けるって」


 そういうと、美月は一人で立ち上がろうとした。


「いっ・・・」


 片足を庇ってよろける。すかさず和人が美月の腕を掴んで支える。


「ほら、いいから、おぶってくから」


「でも、私重いよ・・・」


「いやいやいや、何言ってんの、軽いから大丈夫。ほら」


 そう言うと、和人は美月を背中に乗せた。


「じゃあ、美月はこの収穫したもの持ってくれる?」


「うんっ」


 Tシャツにくるんだ収穫物を美月に渡した。日も落ち始め、二人は少し暗くなった森の中を進んで行った。途中の川で美月の足を洗い流して、洗った布で再度足を縛り、再び、居住スペースになる洞穴へ向う。


「おーい!!」


 夏樹が和人達を見つけて走り寄ってくる。


「え、美月どうしたの?!」


「ちょっと足切っちゃって。靴を脱いで岩場に居たら、貝が刺さって来たの」


 いや、正確には貝は刺してこない。


「大丈夫?」


「うん!和人さんがここまで運んでくれたし、手当もしてくれて・・・」


 美月は嬉しそうに和人の背中に顔を埋めた。


「この色男―!ちゃっかり良いとこ見せちゃって」


「い、いや、そんなんじゃねーよ。怪我したんだから当たり前だろ!」


「二人とも無事で良かった。洞穴に寝れるように、葉っぱとか集めてスペース作ったから見てみて」


 敦に促されて、和人達は洞穴の居住スペースに入った。想像していた以上に選定された葉っぱ木の枝が、寝心地良く組んである。


「おー!結構良い感じだねこれ!あ、そうだ、俺らも食材色々獲ってきたからこれから食べよう!」


 和人は獲ってきた貝類や、海藻、小魚を広げる。


「和人!!天才!まぢ天才!!これあれじゃん!アワビじゃん!!」


 異様に夏樹のテンションが上がる。


「和人君、1つ疑問なんだけど、海藻はどうやって食べるの?」


 敦が不思議そうに聞く。


「これらの海藻はダシに使うから、干しておこうと思って。それにそのまま具材にもなるし!火も水もあるから、あとは好きなように食べれるっしょ?小魚と貝は今日焼いて食べよう!」


「網無いと、貝とか焼くの難しくない?直接火にいれちゃう?」


「大丈夫、石釜戸みたいにして、平らな大きめの石を並べてその上に置けば十分焼けるよ」


「なるほど!よしそれで行こう!ちょっと僕石拾ってくるね」


「あ、わたしもー!和人は、ここで美月のこと見ててあげなねー」


 敦に続いて、夏樹も石を拾いに行った。この時和人は上半身がもちろん裸だったが、傷のことを二人とも聞いてくるそぶりも見せなかった。


洞穴から少し離れた所で夏樹がふいに話し出す。


「ねー、敦―、和人の傷見たよね?」


「う、うん、そりゃ、誰でも目が行くよね、あんなにおっきな傷痕があれば」


「やっぱ、何か訳ありなのかな・・・」


「そりゃそうだと思うよ?僕も、夏樹ちゃんも和人だって美月ちゃんだって、何かしらなければ黒札が来て、ここに連れて来られたりしないよ」


「そっか、そうだよね。あんまり詮索しない方がいいよね・・・こうゆうことは」


「うん。多分もっと僕達が打ち解けたら、自分から色々話してくれるかもしれないしさ」


「そ、そだよね、まだ出会って1週間どころか、2日とかだもんね。でも、なんか不思議な感じだなー、これまで家にずっと居たから、うちなんかが、会って間もない皆と自然に話せるとは思わなかった」


「それは、僕も同じだよ、僕は皆と出会って1日と経たないからまだやっぱりぎこちないけど、それでも、こうして話したり出来るとは思ってなかったよ。」


 今置かれている状況に二人はしみじみと、感慨深く思いをはせた。


「よし、これだけあれば、とりあえずは作れるかな?」


「そ、そうだね、結構重いけどw」


 二人は石を持って洞穴に戻り、簡単な釜戸を作った。


「よーし!焼くぞ!食べるぞ!」


 ジュッ


 ちんちんに熱くなった石の上に今日獲った魚介類を乗せていく。


「うわー、ちょーやばい、よだれ出て来た」


「なっちゃん!・・・わたしも」


「うん、僕もう我慢出来ないんだけど」


 目の前で焼け初めた魚介類達が、香ばしい石焼けの匂いに、潮の香りがブレンドされた絶妙な匂いの前に、4人の食欲が掻き立てられる。


「よし!とりあえず、貝類はおっけー!食べよ!」


「はむっ、はっむ・・・もう死んでもいいー、これ本当に美味しいよ」


 美月は口いっぱいに貝の身を頬張り、満面の笑みでひたすらに食べ続ける。


「だなー、こりゃ、普通に生活してても、なかなか食べれないよなー」


「あ、皆!水ならさっき夏樹ちゃんと入れ物になりそうな木を見つけて持ってきたのそこにあるから 飲んでね!」


 4人は今日収穫してきたほとんどの魚介類を気の済むまで食べた。この頃には既に太陽は沈み辺り一面は暗く、月明かりだけに照らされていた。小さな洞穴には4人の話声だけが響いていた。



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