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八幡編  作者: 麦果
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第6話 アル・ディーバイン

 勾当台公園の南側、木に囲まれるようにして2年1組――みかん、黒松、規格外の男子達、はなこと熊ケ根を除く25人が寄り合った。

「葛岡達、来ないってさ」

「らしいな……俺が居るんだから来いよ、月人ぉ」

 陸は葛岡、花壇は笹ノ上から先程の返事をもらっていた。

「ダン、フラれてやんの〜」

「フラれちゃったよぅ……さーてと」

「切り替えんの早っ!」

 海恵の寸言をよそに、作戦会議が開かれた。

 花壇と立町の案を基に役割分担し、八幡がみかんに伝えたところで時刻は17時。さっそく実行へと移った。


 八幡と陸、菊田、立町、新坂、聡斗、飛奈、山手、夏椰、片平は県庁市役所前からバスに乗った。

 乗客はなにかしら――スマートフォンや携帯電話、本、窓の外を見ており静かだったので、八幡達も大人しく吊革や手摺り、仲間の肩を掴んで立っていた。

 青葉区内で降車し、徒歩で数分行った先の公園からみかん宅を観察する。ちょうど、輝彦とその姉が彼女を連れて出るところだ。

(よし……後は、誰も来なけりゃいいんだな)

 次の動きは約1時間後の結果次第である。雑談をしているとすぐに芋沢から連絡が入った。

『1人捕まった!』

 職務質問の後、任意ではあったがみかんの伯父を自称した協一(きょういち)という男が連行されたそうだ。

 こちらも作戦通り――みかんがはなこにメッセージで送った到着時間に合わせ、別途指定されていた駅で待機する協一を、芋沢が不審者として通報した事による。警察へは花壇と玲華からも相談済みだったからか、早々と任意同行まで進んだらしい。

 はなこやはのん、他の親族が確保されていない為、八幡達はさらに1時間、公園で警戒した。警察や地域住民のパトロールと交替するように、帰路へ就いた。

 20時16分、八幡は自室でメッセージアプリを開いた。

『家着いたよ!』

 既読数と、級友のメッセージが続々表示される。

 無事にみかんは輝彦宅で保護され、はなこやはのん、祖志継家の者らしきアカウントも凍結したので、クラスを貶める投稿も未然に防ぐ事が出来た――作戦は成功した。


 風呂上がり、玲華から八幡に電話が来た。

「レイ? どうしたの?」

「日中の事謝りたくて……」

「日中の事? ……あぁ! 大丈夫。レイ達が謝る事じゃないよ〜」

 昇降口の件やなりすましの真相を今一度伝えると、玲華は安心したようだった。

「よかったぁ……熊ケ根は諦めたけど、ハチにまであぁ思われたらやだもん」

 あれ以上は勘弁、と漏らした玲華。彼女にする熊ケ根、それ以前にも一部の同級生や教師からの風当たりは強く、いじめ主犯格の烙印を押された事もあったという。

「そりゃないわ」

 熊ケ根がもたらした概念を取り去った今、八幡は玲華が受けた事の理不尽さがはっきりと理解出来た。

「そうだよねぇ……そういえばさ、熊ケ根って前からあんな感じなの? うちと姐さん、咲苗も去年も同クラだったけど、最初から嫌われてたし」

「だよねぇ」

 昨年。八幡、玲華らと熊ケ根はクラスが隣り合い、保健体育の授業は合同だった。そこでも彼女達の不仲さは一目瞭然だが、八幡としてはしかたがない、としか言いようがなかった。

 心当たりがあったのは中学時代。玲華よりも派手で、本当に性格の悪い同級生が事あるごとに熊ケ根をからかっていた。元をたどれば、同級生やその彼氏が目の敵にしていた双子の友人を擁護した事がきっかけで、八幡や奏、陸の立場も低くはなったが、明らかに熊ケ根の方が叩かれていた。

「――ってのが関係してると思う。高校で別のそういう子にやられないように、輝帆ちゃんなりに考えた結果っていうか。そこでさらにスクールカーストってのを知っちゃったからさぁ……」

「それでかぁ……」

「だからってそれはないでしょ、って話なんだけどね」

「ほんとそれ」

 玲華の相槌で、八幡は彼女と気持ちを分かち合えた感じがした。眠気が限界に達するまで通話し続けた。

 やがて日付が変わり、午前2時。通知音が鳴っても八幡は夢の中であった。

祖志継家 祖志継協一

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