第4話 ガンマ・クラーテーリス
八幡達は角五郎丁通に降りたところで2人の警察官、星陵、聡斗、芋沢と鉢合わせした。
「さっき通報してくれた女の子って……」
「うちでーす!」
飛奈が警察官の前に名乗り出て、事情を説明する。
「――で、熊ケ根達は」
「こっちに気付いて逃げてったよ。この男子達が途中まで追い掛けてはくれたけど……」
「す、すみませんでしたぁ!!」
聡斗、星陵と芋沢が勢い良く頭を下げる。
「いやぁ、あれはしかたないよ。車まで使うんだもん」
警察官によれば熊ケ根と、はなこ達は昼に同じく協二から託された車で逃走したそうだ。
「幸い、車のナンバーは青葉君が覚えててくれたから、すぐに手配するよ。そして探そう」
警察官は元協二の車のナンバーを伝達し、捜索へ向かった。
「俺達も行こう! 今度こそ……」
「そのつもりだよ! 行こう!」
飛奈が聡斗に応えた。16人は国道方面に進む。
再び48号線。
「ここからは分かれよう……う〜ら〜おもてっ」
立町の提案で、16人は手の裏か表を出し合い二手に分かれた。
八幡は奏と夏椰、錦ケ丘、立町、飛奈、聡斗、芋沢と共に西へ歩く。
「そういえばさ、聡斗達はどこで熊ケ根達があそこに居るって知ったの?」
飛奈が聡斗に尋ねた。
「最初に聞いたのは芋沢だよ」
「部室で暇してたら、熊ケ根さんが祖志継さんに電話してるの聞こえたんだ。みかんさんの振りしたメッセージ送ったとか、山手さん誘ったけど返事来ないとか……で、これから集まろうって。場所言ってたから、聡斗と星陵に話して、俺らも……ん?」
(えっ? ……あれは)
芋沢、八幡達も数十メートル先の人物――背中まできれいに伸びた黒髪に丸い眼鏡、クラシカルロリータと呼ばれる装いの少女を捉えた。
「輝帆ちゃんだ……輝帆ちゃーん!!」
八幡は熊ケ根の前に躍り出た。
「宇美さん……山手さんは来ないんだね。それなら、なに?」
「聞きたい事があって――」
近くの公園に場所を移す。
最寄りの公園で八幡は熊ケ根と四阿に、奏達には近くのベンチで待っていてもらった。
「この方が話しやすそうだし……で、なんで祖志継ちゃんの方に?」
八幡の疑問に対し、熊ケ根はクラスの事を持ち出して答えた。
はなこは周囲に対し非協力的で、特に玲華とその取り巻きからは好ましく思われていなかった。熊ケ根は山手の証言通り、はなこへの反感が少なく、2年1組の底辺同士協力する事にしたという。
「――底辺? それって、3軍の事?」
「そうだけど?」
「そんな風に考えてたんだ……そりゃそうか」
振り返れば、同級生達を型に当てはめて考え出したのは熊ケ根だった。
新学期前に始まったスクールカーストもののドラマないし、その原作で彼女が愛読していた小説の影響かと軽く受け止めていた。奏は嫌がっていたが、八幡も教室内に点在する無名のグループを呼び分けるのに熊ケ根がみんなに貼ったレッテルを利用していた。そうしていく内に〝1軍〟は従うべき存在に、〝3軍〟や〝規格外〟とは距離を感じるようになった。
「でも間違ってないでしょ? だから宇美さんだって」
「あの靴の事? それなら誤解だよ」
やっと言えた、と八幡は呟く。
汚くなっていた彼女の靴について、熊ケ根は玲華達のせいだと決めつけていたが、ただ単純に休み前の汚れが溜まっただけであった。
「――で、課外終わったら部活ない内に洗おうと思ってたって訳。だから、うちはレイ達とはなんともないよ」
(たぶんね……まぁ大丈夫でしょ)
都合良く使われる気がしたので、なりすましの件で返事が来ない事は伏せた。あの後陸が動いたので心配はしていなかった。
「そうなの? それならいいんだけど……1軍の、ああいう子には気を付けてた方がいいよ」
「ああいう子……あー、はいはい」
熊ケ根が言わんとしている事が、八幡にはよく分かる。
「気をつけとくわ……って、山手ちゃん!?」
山手と柏木、片平、輝彦、楽司、新坂、吉成、星陵が再合流していた。熊ケ根を発見したからと、夏椰がこちらに来させたようだ。
「山手さん……やっぱり、こっち来る?」
「行かない。私はそれだけ言いに来たの」
「そっかぁ……それなら、さようなら」
熊ケ根は山手、八幡達に咎めるような視線を投げ、公園を後にした。16人はただ呆然としていた。
(ああいう子、ねぇ……)
誰かが八幡達に近寄ってくる。