第3話 ニュー・ゲミノールム
2days+の演奏に惹かれてか、いつの間にか客が数組増えていた。その一方で、スタッフルームに移った八幡の元には1軍からのメッセージが殺到していた。
『みかんからこんなの来たんだけど、ハチもなんか知ってんでしょ!?』
玲華が添付したスクリーンショットには彼女とみかんらしき――名前とアイコンが同じユーザーのやり取りが記されていた。
『ハチからあたしが帰った後の事聞いたんだけど、レイ達がハチの靴グチャグチャにしたんだって?』
『は? 違うし』
『しらばっくれるんだ。さすが女王様気取り、プライド高すぎて自分がやった事素直に認められないんだね』
『もうなんとでも言ってれば? ブロックするけど』
(いやいやいや! うちまだみかんちゃんに学校での事言ってないし!)
八幡は玲華にその旨を伝えたが、返ってきたのは既読の表示だけであった。彼女の取り巻きである海恵と咲苗、あみ、新川も同様だった。
(まぁ、いいや……それにしても)
八幡がスクリーンショットを見返していると、陸からのメッセージが入った。
『なりすまし特定したけど、確信が持てない』
『確信?』
『そう! あの子が犯人なんて信じられないんだ。電話の方が早いから、電話していい?』
『いいよ』
返信してすぐに、電話が掛かってくる。
「陸君? それで? ――やっぱり、うちもそう思ってた」
八幡と陸の推理は、確実な証拠もあり的中していた。
まず、みかんらしきユーザーが玲華達へ送信した内容について。八幡はみかんに教えた覚えがなく、熊ケ根が玲華達へ放った言葉がそのまま反映されていた。
そして、確実な証拠――みかんになりきれていない、熊ケ根のアカウント。グループメンバー一覧にはみかんの名前が2個載っており、片方のホーム画面を開くと熊ケ根らしいクラシカルな背景、小説から引用された一言が変更されていない状態だった。
「やっぱり……でも、輝帆ちゃんが、なぁ」
「ねぇ……」
熊ケ根の仕業だったとは未だに信じられない。
「利津子ちゃん!?」
ドアが開く音と、楽司の声がもう片耳に入る。
「山手ちゃん来た! なんか知ってるかもしんないし、そろそろ戻るねっ」
電話を切り、スタッフルームの戸を引いた。
「スペシャルゲスト……じゃない? なんか緊急事態っぽいので、続きは夏休み中のどこかで、また今度! ありがと〜!」
楽司が山手の顔色を伺いつつ、ライブを締め括った。
「山手ちゃん……輝帆ちゃんの事だよね?」
八幡の問い掛けに、山手は首を縦に振った。
「うちの部屋で話そう」
友人達が会計を済ませ次第、八幡は自室に案内した。
部屋で山手が告げたのは、やはり熊ケ根についてだった。
「――1軍を怒らせてみかんさんが孤立したら、祖志継さんの方に行くと思ったって」
「孤立させるって……」
夏椰が身を震わせる。
「熊ケ根さん、本当は祖志継さんの事嫌いじゃなかったみたいで、完全に味方になってる……私も誘われたけど、無視してきた」
「それでいいんだよ」
「山手、よくやった!」
立町と夏椰が山手の勇気を称えた。
「そうだよ……利津子ちゃん、ああしなくてよかったよ」
楽司、口には出さなかったが八幡も、山手が熊ケ根に従う事を懸念していた。
彼と山手が昔話をする。
彼女の従順すぎる性格は、常に誰か――4歳上の兄や友達と一緒だった山手が、独りになる事を恐れての物だった。
「だから、熊ケ根さん達から逃げるのも怖かった……っ!」
山手のスマートフォンが振動している。
「熊ケ根さん、だ……」
「代わりに出るよ、うちにちょっと言わせて」
「お願いっ」
八幡が着信に応じた。
「山手ちゃんなら出ないよ」
「……やっぱり。それなら伝言お願いするね、気が変わったら澱橋の下に来て、私と祖志継さん達で待ってる、って」
「うん……待って、なんで」
繋がりを絶たれた。
「こっちの話は聞かないんかい! ……山手ちゃん、熊ケ根ちゃんと祖志継ちゃん達が、気が変わったら来いだって」
「どこに!?」
飛奈が反応した。
「澱橋の下」
「よーし、通報だ通報! 祖志継達居るなら動くっしょ」
飛奈が警察に通報した。
「すぐ行くってさ。うちらも行こう、なんでああしたか知りたいじゃん!」
「それを聞きたかったんだよぉ、行こ行こ!」
八幡ら2軍に山手を加えた13人が熊ケ根、はなこ達の元へ急ぐ。