第2話 ユプシロン・ケーティ
八幡は昇降口に戻った。
「マジおかしくない? なんでうちらまで?」
「俺らなんもしてねーし」
クラスメイトが不満を露わにしている。彼女らの足元には八幡のスニーカーがあり、ここから見ると結構汚れていた。
「宇美さんにまで……1軍も、規格外も、この期に及んで最低だよね」
「輝帆ちゃん、あれは……」
「気をつかわなくていいよ。あの人達、自分達ばかりでみかんさんの事考えてない。このクラスじゃそうなる気してたでしょ?」
熊ケ根が八幡の靴をきれいに揃えてくれた。
「私にも言わせて。女王様気取りとその召使い、そこの男子達には分からないでしょうけど、宇美さんは自分がどうなっても友達は守る子だから……宇美さん、そうだよね?」
「そりゃあ……それはもちろん」
「ああそう! 好き勝手言ってなよ!」
女王様気取りと名指しされた玲華、その取り巻きが立ち去った。規格外の男子達も彼女らに続く。
「ああいう所、本当に嫌い」
熊ケ根がクラスメイトの背中を睨んだ。
「宇美ちゃーん!!」
奏と夏椰が駆け寄る。
「立町君が話あるって! 輝帆ちゃんも来て」
「他に誰が居るの?」
「えっとね……2days+のみんなと、飛奈ちゃん、片平ちゃん、柏木ちゃん、輝彦君」
「2軍ばかりだね、それなら遠慮しておく」
「えっ、そう? 分かった……」
奏は熊ケ根に戸惑っている。
教室には2軍が集まっていた。八幡もそこに混ざる。
「立町君、話って……」
「祖志継さん……祖志継家の、俺が知ってる事を話そうと思う」
立町が語り始めた。
祖志継家は明治時代以降、宮城県内各地で悪事を働いていた。〝真の正義〟の下、1980年代とここ2〜3年動きが活発になっており、八幡達の親世代や同年代が被害に遭うケースも存在した。
「って事は、立町君も?」
「俺は直接じゃなくて、母さん側が昔から」
八幡の質問から、立町はさらに時代を遡る。
事の発端は江戸時代、現在の山形県。立町母方の先祖が役人側として祖志継家の先人である義賊の処刑に携わった。彼の死後、その行いが弱者の為だったと知り、悪人に仕立て上げた責任から祖志継家の動向を見守ってきたという。
「俺はその事もあるし、同じクラスの仲間としてもみかんさんの事を助けたい。ここに居るみんなだってそうなんだ」
友人達が立町の言葉に頷いた。
「特に輝彦がなぁ」
「新坂言うなって!」
「輝彦君が? ……はは〜ん、そういう事〜。新様ナイス」
八幡は輝彦からみかんへの想いを察し、新坂に釣られてにやついた。
「八幡さんまで……とっ、とにかく、みかんさんは俺らが守るぞ!」
輝彦が拳を突き上げた。
「このクラスもね!」
夏椰が付け足した。
「そうと決まれば」
「腹ごしらえだー!」
片平と吉成を先頭に、八幡達は教室を飛び出した。部活動は先程の事件で中止になっていた。
国道48号線――後の宮城県道31号仙台村田線沿いに建つカフェ・ヌカボシは八幡の友人達で貸し切りだった。
肉、または野菜をメインとした週替わりランチを食べると、楽司、新坂、錦ケ丘、吉成、奏――2days+がステージで歌った。いつも彼らを近くで支えている夏椰がみんなを盛り上げる。
〽引っ込んでいろ? 冗談じゃないよ
僕だってヒーローになりたいんだよ
弱いのは分かってる バカなのも知ってる
だけど僕に出来る事はある
楽司が作った歌詞は今の八幡達にぴったりだった。
胃袋も心も満たされ、彼女達の団結力が強まる中、八幡のスマートフォンは何度も点灯していた。