第13話 ザウラク
八幡、花壇によって家路に就いた級友の無事と、手紙の送付先が確かめられた。残された疑問を解決すべく、彼女ら2年1組は翌日午後、教室で顔を合わせた。
「ごっめーん!! クロん家寄ってたぁ〜」
玲華が例の封筒を片手に滑り込んだ。黒松の了承を得てポストの中をチェックしたところ、彼宛ての手紙があったようだ。
「でね、クロから伝言! 俺の事は帰ったら話す、って! 後、郷六とも仲良くやってるって」
「了解ーっす」
花壇と葛岡が返事した。郷六は陸上競技部に所属しており、出場はしないが応援要員としてインターハイの会場に入っていた。
「すまん! 俺も遅刻!」
立町が滑り込んだ。帰仙直後に私服では校内に立ち入られない事を思い出し、自宅で着替えてきたらしい。
「それと……これ、俺にも来てた」
立町が花壇に封筒を差し出した。
「立町にも……と、なると」
花壇が手紙の送付先を再確認する。
「クロ、立町、俺に……八幡さん、玲華さん、輝彦、塩柄、みかんさん、夏椰さん、山手さん、か……そうだ、夏椰さん」
「なにー?」
「手紙来た理由分かる?」
(そういやそうだ――)
八幡にとっても、なぜ夏椰が手紙をもらったのか定かではなかった。自分ら9人に関しては既に見当が付いている。
「パパの事知ってたんだと思う」
夏椰によると、彼女の義父は高校時代、祖志継家の親族らしき同級生と揉めたそうだ。苗字や義父の話から特定されたのではないかという。
「夏椰ちゃんも……」
みかんが身を縮ませた。
「気にすんなっ! パパ達なんともないから、大丈夫!」
夏椰がみかんを励ました。
「あたしの話はそんなところかな。親っていえば、あみママどうなったの?」
「うちのママ? それがねぇ……追い出しちゃった」
詳細をまとめると、あみの母親ははなこへの関与について警察の厳重注意を受けた後、夫――あみの父親から離婚を言い渡された。
「そうなると、中江さん家色々変わんじゃねぇか?」
「そうでもないよ〜。お家も苗字も元々パパのだからそのまんまだし、ママの方のお祖母ちゃんや従姉妹にはこれからも会えるし」
「それならよかった……」
笹ノ上が自分の事のように安堵した。父親が蒸発した彼なりに思うところがあったのだろう。
「月人、女子とも話せるようになったな……こんなところか」
花壇が締め括り、緊急の職員会議が続く学校を後にした。
八幡はみかんに加え、玲華、海恵、咲苗と仙台市内を散策した。
「ハチ達と、ずっとこうしたかったんだよね〜……もちろん、奏とか、夏椰とか、他の女子ともねっ!」
「そうそう! そっしーも、熊ケ根もいなくなったんだし、仲良くやりましょ」
「そうだよ〜」
玲華と海恵、咲苗の本心を聞いた。彼女達は下校間際、職員室前ではなこと熊ケ根の退学処分についてこっそり耳に入れていたようだ。
赤信号で5人は立ち止まった。同時に視線を感じる。
「誰〜?」
視線をたどると大きな病院の前だった。黒髪でセーラー服の少女がこちらを凝望していた。
「あの制服……」
玲華が囁いた。よく練習試合をしている、県北の高校の制服らしい。
「へぇ……って、なんでこっち見てっかな」
「さぁ? 行こっ」
海恵と玲華、八幡達は青信号で歩き出す。
最後はヌカボシで、ステージの予約を取りに来た奏と夏椰も交え、主に玲華の恋話で盛り上がった。
誘拐未遂からなる一連の出来事は、展開が明かされた後『仙台息女事件』と名付けられ、全国で報道された。
8月22日。マスコミが注目する中、祀陵高校が再開した。全校集会では校長が平等なクラスのあり方や正義の尊さを説いた。
改めて38人になった2年1組ではクラスの再建が図られた。はなこと熊ケ根の痕跡はなくなり、彼女らに代わる広報委員に片平と塩柄が立候補、任命された。座席も一新した。
「――やっぱ、ハチ達はこうでなきゃ!」
「あみちゃん、いいの!? 山手ちゃんも……」
「いいの〜」
山手がみかんと、あみが八幡と席を交換してくれた。八幡達は再び隣同士だ。
「そうだよ、ハチ〜」
玲華だ。彼女は八幡の後ろになっていた。
「最初にハチがみかんを助けたから、このクラスも良くなったんだし……お礼、的な?」
「そんなとこだね〜」
あみと山手が玲華に応えた。
「そういう事なら、お言葉に甘えて……いい眺めじゃないの〜」
「だねぇ」
八幡、みかんの席は後ろから2列目の中央。クラスメイトの顔がよく見える。
「そうだ!」
玲華が呼び掛けた。
「写真撮ろっ! 新1組の、集合写真!」
賛成、いいねぇ、と仲間達が声を上げる。中山と台がカメラを持ってきた。
「それじゃあ」
「撮るよーっ!」
「はーい!!」
38人の声とシャッター音が響く。新生2年1組、目覚めの音だ。