第12話 パイ・プピス
大広間には台と山手、あみ、新川、海恵、咲苗、楽司、塩柄、そして立町と中年男性の姿があった。
「みんな来たわよぉ〜、集まってぇ〜」
「先生も、みんなと一緒に聞いて下さい」
女将、立町と中年男性が八幡達を寄せ集めた。
中年男性――犯罪学に詳しい、女将の夫が祖志継家、彼らと貴栖屋の関係を伝授した。
「――なんで役人側だったかっていうと、ここは当時有名な旅籠屋でね、そっちの方からなにかと頼りにされていたんだ。でも、そのせいで祖志継家のご先祖さんを悪者にしてしまったから、今のような事が続いているんだ、って僕達は考えている……それで今も、祖志継家に関わった人達が駆け込めるように旅館としてここを続けているんだ」
「だから、これからもなにかあったら、遠慮しないでここに来てね……まだ続くはずだから」
女将も物語る。
「今回出てきたのは分家……祖志継家の一部。まだその上の人達と他の親戚、昔から手伝っている人達が残っているの。その人達がみかんちゃんや翔太郎ちゃん、他のみんな……」
女将が八幡に視線を注ぐ。
「特に、みかんちゃんを1番助けたハチちゃんのところにまた来るかもしれない」
女将の警告に同級生達がどよめいた。八幡の心悸も激しくなる。
動揺が収まらないまま日も傾き始め、父親が迎えに来たあみを皮切りに、立町を除く2年1組が貴栖屋を発った。
八幡は奏、山手、陸、葛岡、笹ノ上、花壇、天馬、楽司、新坂、吉成、芋沢、大針、四ツ谷、中山と山形駅を経由し、仙台行きの鈍行に乗車した。ドアが開いていても彼女達だけの車内には重く湿っぽい空気が流れていた。
「……ごめん」
八幡がゆっくりと口を開く。
「なんで謝んだ?」
問い返したのは笹ノ上だった。花壇が彼と八幡を交互に見る。
「みんなの事、また巻き込んじゃったから……うちはただみかんちゃんを、みんなを、助けたかっただけなのに、また……」
「祖志継さん家が来るかもしれない、って事だろ? まだ100パー来る訳じゃねぇし、来たところで八幡さんは悪くねぇよ……な? 隼平?」
「あぁ」
花壇、陸と葛岡、天馬も点頭した。
「八幡はみかんを守った……当然の事をしただけだ。祖志継ん家が訳分かんねぇのが悪い」
「新坂の言う通り」
「激しく同意」
新坂、芋沢と大針が八幡を後押しする。中山もぬかづいた。
「みんな同じ気持ち……だから、うちのせいなんて言わないで? あたし達も宇美ちゃん守るから」
「奏ちゃん……先生、みんな、ありがとう! そうだね――」
八幡は再び奮い立った。
国見駅から唸坂、国道48号線を通り、21時10分。八幡は自宅に帰った。
「ただいまー」
「宇美〜、おかえりなさい!」
母も、父も八幡を叱らなかった。級友の親伝いに事情は聞いていたそうだ。
「――それで、これ。祖志継さん、っていうの? 問題起こした子の親戚の人が、宇美に、って直接お店に」
八幡は母から手紙を受け取った。純白で手触りが良い上質な封筒に同色の一筆箋が入っていた。
『この度は祖志継二助・玉緒以下、分家のお相手ご苦労様でした。今後もお互いの目的を果たすまでお付き合い願います』
末尾には祖志継姓の署名が5人分あった。
(さっそく来たか……ん?)
スマートフォンが震えている。
「ダンからだ……もしもし?」
階段を上りながら電話に応じた。
「八幡さん? 祖志継さんの親戚から手紙来た?」
「来たよ。ダンも?」
「あぁ」
花壇は帰宅直後、投函された手紙を見つけたようだ。八幡の物と同一の内容だが、近所に住む笹ノ上には届いていないらしい。
「――こうしてみると、本当に異常だよなぁ」
「だよねぇ。でも、仙山線乗ってすぐ言った通り……やっぱり祖志継家が訳分かんないんだよ。そんな奴らの好きになんかさせない」
八幡は手紙を握り潰した。その決意は、手紙の行方や級友の安否確認といった行動に移された。
祖志継家 祖志継二助
祖志継家 祖志継玉緒