第10話 シータ・カッシオペイアェ
八幡と玲華、折葉、樋田は束になって身構えた。
「なんだぁ? やろってのかぁ? 1年坊主がよぉ」
「1年て! 今は2年だろ〜」
「だっけかぁ〜」
下劣な男――2学年上の卒業生2人、はなこと熊ケ根が姿を現した。
「ふざけている場合……っ!」
はなこが卒業生を窘めた隙を狙って、玲華が彼女を羽交い締めにした。
「宮町……まぁいいわ、私達の負けね」
はなこは平易に降参した。
「熊ケ根も、先輩達も、これ以上はやめておきましょう? 八幡、警察を呼んで……もう呼んだのね」
パトカーのサイレンがこちらに迫ってくる。同時に片平が曲がり角から顔を出した。
「呼んどいたよ〜」
「ありがとう、片平さん! ほら、樋田もっ」
折葉と樋田が深々とお辞儀した。
「そんな、見たついでだよ〜」
片平は昼食を買ったところでちょうど卒業生の軽自動車と遭遇し、すぐに通報したそうだ。
「あっちはうちに気付いてなかったっぽいし、うち混ざって5対4になったら卑怯かな〜って……図星だった?」
片平を鋭く睨んでいた熊ケ根が目を逸らした。この後、物足りなげな彼女と卒業生2人、観念した様子のはなこの身柄が拘束された。
「マジかよ!!」
「マジっすか!! ど、どうぞ!」
片平に倣って昼食を手にし、樋田宅を訪問すると、彼の兄弟が驚きながらも歓迎してくれた。近かったからとはいえ、樋田が女子を家に招くのは初めてだったらしい。
リビングで腰を下ろし、級友からの続報に目を通す。
立町は中山と台にも避難を喚起し、台が咲苗と海恵、塩柄を同乗させる形で移動を始めていた。他に楽司と山手、奏、錦ケ丘、吉成が電車、星陵、大霜と針金がバスで県境を越えようとしている。
『気を付けて行けよ。残ってる奴、テレビでなんか言ってないか?』
グループチャットには必要最低限しか登場しない、無人駅のホームでポーズを取る男児のアイコン――送り主は四ツ谷だった。テレビはバラエティ番組の再放送中だが、そこに速報のテロップが入った。
『青葉区内の民家で男女2人の遺体発見。女子高校生誘拐未遂事件主犯格と見られる被害生徒祖父母、心中か』
『速報出た! 死体見つかったって奴?』
樋田が四ツ谷に答えてくれた。
『そう! 近所に警察とかたくさん来て、見に行ったらこれだったんだ』
「また出たっ!」
玲華がテレビ画面を指差した。
『女子高校生誘拐未遂事件の実行犯、被害生徒の同級生(16)らを逮捕』
「って事は、後ははのんだけ……いい加減諦めて自首してよね〜」
玲華がぼやいた。
昼食後、近隣のバス停留所までは樋田の兄弟が付き添い、その先は再び同級生のみではのんを尋ね回った。
玲華の記憶を頼りに、はのんのような子――玲華と同じ中学校に通っていた不良生徒が潜伏していそうな場所を巡ったが発見には至っていない。そうしている間に立町の元へ級友達が駆け込んでいた。
「山形の旅館だっけ? これ終わったら、うちらも行かない?」
「もちろん行くよ! みかんちゃん居るもん」
「姐さん達も居るから行く〜」
八幡と玲華は片平の提案に賛同した。
「折葉と樋田は……って、どうした!?」
片平が吃驚した。樋田はなにか躊躇するようにスマートフォンの画面とこちらをしきりに見回していた。
「樋田君、なにがあったの?」
八幡は優しく聞き取った。
「え、えと……鷺ケ森さんと角五郎さん、聡斗が、祖志継さんの妹見つけたって……花壇達が行くみたいだけど」
「うちらも行くよっ!!」
玲華が八幡達を率いて、仲間達とはのんの元へとすぐに向かう。