表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/12

六話

 その日、僕はぼんやりとしながら自宅に帰った。

 (内田百閒、か…。)

 いつか本人から話を聞いて、ひいおじいちゃんがどんな人だったか聞いてみたいものだが、果たして実現するのだろうか…。

 それに、一つ疑問がある。

 それは、「戸口で現代と昔のお金は両替してくれる上、店内の様子も昔の人に錯覚させているのに、何故話の内容は都合よく変えてくれないんだ?」という事だ。

 未来を変えてしまうような発言ぐらい、修正してくれればいいのに。

 その理由は坂田店長が翌日に教えてくれた。

 「いいか、発言っていうのはな、実はある程度修正されているんだよ。」

 「そうなんですか?」

 「ああ、お前が昔の人と会話できたのは、発音が現代のそれに近かったからだ、それに相手は、現代にしかない言葉でも理解できるんだ。」

 しかしだな、と店長は続ける。

 「発言の内容までは修正されない。要は翻訳機みたいなものなんだ。翻訳はしてくれるが、単語の内容は直接伝わる。昔の人に『携帯電話』と言っても、単語そのものは伝わるものの、その時代はそんなものは存在しないから、理解できない。」

 なるほど、と相槌を打った。正しく英語で「kimono」と伝えても、「着物」そのものがどんな衣服なのかは伝わらない。元々相手は「kimono」が何か、知らないのだから。

 「だから気をつけろよ。」

 店長はそう言い残して、また鍼灸院へ出かけて行った。


 (そうか…。)

 細心の注意を払って、会話しなければならないのか。

 そう思いながら、今度は太宰治の服を整頓した。三着あり、どれも長い年月を経ていてボロボロだ。中には、「太宰治が自殺するときに着ていた衣服」なんて物もある。

 ぼくは身震いしながらそれを掛けなおした。


 すると…。

 チリーンと、鐘の音が響いてきた。

 (またかよ。全く、嫌だな…。)

 そう思いながら振り返ると、そこには女性が立っていた。矢羽を縦につなげて、紫と白に塗り分けたような着物を着て、帯をしっかりと締めている。いかにも気の強そうな顔をしている。

 「いらっしゃいませ。」

 と、とりあえず声をかけた。

 「すみません、あの。」

 少し息を吐くと、

 「上等な筆は、ありませんかな、もし。」

 と言ってきた。

 (もしって、まさか)

 思い切って聞いた。

 「あなたは、子規さんの妹である律さんですか。」

 正岡子規の妹、正岡律を知っている人は少ないですね。

 伊予絣(紫と白の着物)、持っていたんでしょうか。

 自信はありません…。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ