四話
次の日、僕は「坂田文紡具店」のエプロンをしめて、商品棚の整理を行っていた。今は「芥川龍之介」の棚を整理している。芥川龍之介といえば、着物姿が有名だが、他にも中途半端な雨合羽のような洋服や、学生服のようなものまである(ファッションには疎いので、こんな説明で勘弁してください…)。また、「いったい誰が欲しがるのだろう」と首をかしげるような、ふやけた四百字詰め原稿まである。
坂田店長(一応そう呼んでいる)は最近、腰痛がひどいのだという。近所に整体師が営んでいるマッサージ店があるのだが、今では昼食を食べてからそこに通わないと、ひどいときは午後はずっと動けないそうだ。なので、マッサージ店にいる間は、臨時店長を任されている。店員は僕一人しか雇われていない。それが少しショックだ…。
突然、リーーンと鐘が鳴った。
振り返ると、そこには初老の男がいた。目が鋭い。中国の人が昔着ていたようなシャツを身に着けている。僕は近頃、近所を騒がせているコスプレ強盗かと思い、少し身構えた。
「すまないが、君。原稿用紙はまだ残っているかね。」
「はい…。四百字詰め原稿ならありますよ。」
「そうか…。」
その男は店内の「昭和時代」コーナーにまっすぐ来ると、そこにあった泥まみれの原稿用紙を十枚取って、「いくらだね。」と聞いてきた。
(え~っと~……。)
僕は値札を見た。どうやら350円のようだ。僕はまっすぐレジに向かうと、
「お値段は、350円になります。」
と言いながら、相手を観察した。どうやらコスプレ強盗ではなさそうだが、何やら異様な雰囲気を感じる。まるで、昔の人のような…。
「君、ちょっと早く清算したまえ。」
「はい、すいません。」
僕は350円を受け取って、レジに入れた。レシートが出てこないのが不思議だったが、多分この店は特殊なのだろう。
その男はもう帰ろうとしていたが、世間話でもしようと思って、呼び止めた。
「あの~、まだお時間ありますか。」
「なんだね。」
僕は直観で物を言う性格なので、
「お客さんは物書きですか?」
と聞いてみた。すると、その男は驚いた様子で、
「そうだ。私は内田百閒だ。」
といった。