二話
そこにいたのは、50代ほどのおじさんだった。薄茶色の腹巻を巻いて、新聞を広げている。前歯二本が出っ歯になっている。四角いメガネを外したら、某有名キャラクターそっくりだろう。
「いやー、今日はもうお客さん入らないかと思ってましたよ。」
その一言で我に返った。そうそう、字の間違えを指摘しに来たんだっけ。
「おじさん、表の看板ですけど・・・。」
「ああ、ああ。それですか。よく言われるんですよね~。私も困ってましてね。」
頭をかきかきしながらおじさんはそう言った。どういう事だろう。
「まあ、この店の主旨は表に書いていないんだけどね。」
すると、おもむろに店の説明を始めた。
この店はね、実は代々ウチの家系が受け継いできた、文房具屋さんなんです。でも、少し変わってましてね。普通の文房具と一緒に、有名な文芸家が使っていた道具もまた使えるように修理して、ここで売っているんです。例えば、太宰治の原稿用紙とか、芥川龍之介の机とか・・・。これほど格安で売っている店なんて、世界を探しても他にいないと思いますよ。まあそれで、そんな文芸家達が使っていた道具を、ここではこう呼んでいるんです。「文紡具」とね――。
「まあ、おやじが勝手に考えたんですけどね。自分で『センスいいだろ~~。』とか言ってましたけどねぇ。」
「そうだったんですか・・・。」
僕は感心した。確かに、陳列棚にはゼブラのボールペンの他に、「SF作家」コーナーや「推理作家」コーナー、「文机・座布団」コーナーまである。
(ん?)
そうした中に、ガラスケースの中で厳重に保管されている万年筆らしきものがあった。