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助け家  作者: BCC
8/11

ストーカー魔人と折れない心

 魔人。

 それは、魔に携わるもの。

 人種の中でも、他を圧倒する力を持つ。

 魔術、魔法、魔式。

 そこらへんの違いは俺にはよくわからないが、分かることが一つだけある。

 魔人は、強い。

 なぜなら、常識では起こり得ないことを起こしてくるからだ。


やばい。そう思った時には、避けるのが遅かった。刀が空間の歪みに掴まった。

「くっ」

刀がものすごい力で抑えつけられる。空間の歪みから抜けない。ミシミシという振動が手に伝わってくる。しかし、折れる気はしない。

心器は、心とつながっている。だから、俺の心が折れない限りは大丈夫だ。

だけど、ダメージが無いわけではない。要するに直に心にダメージを与えられているからだ。


「…掴まえたようだね。しかし、…つまらないな。このままへし折られたくないなら、全力できたまえ。最近はね、弱い奴らの相手しかしていなくて面白くなかったんだよ。久しぶりに僕を楽しませてくれよ」


と、軽そうに喋っていたかと思うと、


「さもなくば、…本当に死ぬぞ」


――冷たい声だった。背筋が…ぞっとした。その一言だけで俺は自分が死ぬ、と思った。

こいつは全然全力ではなくて、いつでも、俺を殺せる。だって、――


「あんた、なん、のために、…ここに来たのよ?」


――思考の途中で声が聞こえた。


――冷たい口調だった。けれど、…どこか暖かかった。


「わ、わたしを、た、たすけに…来てくれたんでしょうが!」


――ああ、そうだ。


「な、なら、さっさとこいつをやっつけて!」


――そうだ!そして、


「「家に帰る!」」


 刀を強く、強く握りしめる。

刀はものすごい力で抑えつけられ、空間の歪みから抜けない。


心を震わせろ!心を昂らせろ!


 強く、願う

 彼女を救いたい

 家に帰る


ただ、それだけを強く、強く


『能力解放、レベルⅢ。

 希望する能力は?』


こいつを斬り裂く、力!


『受諾した。

 特殊能力、断魔』


刀がまぶしいほどに輝く。綺麗な白の光で煌めく。

気付けば、刀は空間の歪みから脱していた。

しかし、その白の光は失われることなく刀に宿り、刀全体を覆っている。


「そうこなくては、面白くない」

白タキ男の声が楽しそうに跳ね上がる。


俺は、もう逃げない。


理解しろ、自分に刻み込めこいつは格上だ。

なら、油断している今がチャンスで、一度きりのチャンスだ。


「はははっ、本当におもしろいね。まさかそうくるとはね」


俺は奴の真正面に立った。障害物などは皆無だ。


俺の目の前にあるのは少し先ほどの位置より左にいる白タキ男とサクラだけだ。


 距離はおよそ十メートル弱。

 今の俺にとっては大した距離ではない。

 奴のあれを喰らうよりも速く――


「僕も、名を名乗ろう。君の勇気、無謀、に免じて」


 そう言って、白タキ男は元いた場所へ戻り、鋭い眼で俺を見てきた。

 やつは、次の一手で決着をつけると、決着がつくと理解したのだ。


 だからこその名乗り。

 自分が倒された相手の名を知れ、と。


「僕の名は、()()()() (れん)。君の姉である(なつ)()さんとも引き分けたことがあるよ」


 夏姉と闘って引き分けた…、だと。

 夏姉は、魔人だ。

 その強さは、俺の知る魔人の中でも最強といえる。

 何度か戦ったことがあるが、俺が5秒持ったことがない。とにかく、容赦がない。

 思いだしただけでも身震いが…。


「どうしたんだい?僕の名を聞いてびびったのかい?やっぱり、夏咲さんから僕の事を聞いていたんだね!彼女は僕のことをどういうふうに話してた?」


 嬉しそうに喋っているところ悪いが…、そんなことは、一度も聞いたことがないが…。

 いや、…そういえば前に、こんな会話が家族であったような無かったような。


姉(怒)『最近、ストーカーができた!』

 親父(動揺)『なんだ、と』

 俺(冷)『で、思わず殺しちゃった、と』

 母(微笑)『柊、冗談もほどほどにね』

 俺(汗)『も、もちろん冗談だよ!(本気だったけどね!)か、あさん、目が笑ってないよっ!』

 母(微笑)『で、どんな人なの?』

 姉(怒)『魔人で、金髪で、いっつも白のタキ着てる。それで、とにかく、う・ざ・い!』

 親父(出かける準備)『ちょっと狩りに出てくる』

 どかっ!

 親父(気絶)『……』

 母(微笑)『あら、どうかしたの二人とも?』

 俺・姉(敬礼)『なんでもないです!』

 母(微笑)『マイナスに考えすぎよ。夏咲ちゃんにはそれだけの魅力があるということよ』

 『……』

 姉(!)『…確かに!考えてみれば、こんな綺麗な十八歳の美少女をSSKが見落とすはずがない!』

 俺(呆)『…とりあえず、突っ込みたいとこは多々あるけど…、SSKって何の略?野球のスポーツメーカーのことか?』

 姉(笑)『何言ってんの?世界ストーカー協会のことに決まってるでしょ』

 『…その協会の連絡先を教えろ。抗議してやるから』



 ――以上、回想終了。この間およそ2秒。


「夏姉はあんたのこと、ストーカーって、言ってたぞ」

 平然とそう言い放つと、笑いながら

「僕の辞書では、ストーカーは恋する魔人という」

 と言って、額に手を当てやがった。…もうこいつ普通に倒せるんじゃね?

 後ろに立っている彼女ですら、若干、引いている表情をしている。


「君は残念な男だね。世界で一番の女性と恋愛できないなんて…」

「……」


 …こいつの冗談を聞いてても何も状況に変化はない。こんなにふざけているのにも関わらず、常に臨戦態勢。確実に右の掌を俺に向けている。


 言葉だけ聞けば、馬鹿で簡単に倒せそうなんだけどな。そんなに甘くはない。だって、これは現実なのだから。一瞬の隙は、即死に繋がる。


 覚悟を決める。

 再び、心を点火する。

 起爆剤は、いままでのすべて。

 自然と光が消えていた刀が再び輝きを放つ。


「僕はね、

再び話し出した瞬間を狙い、足に力を込め地を蹴り、三度(みたび)全身が鋭い風に変わる。

奴の右手が握られ、空間が歪む。だが、俺の速度の方が――速い。


 ――あと、二歩。


 メキャ


という嫌な音が聞こえた。


 それと同時に俺は空を飛んでるような感覚に陥る。

 否。

 視界が奴からだんだん地面へと変わる。


足を踏み出そうとする。

――動かない。

自分がスローモーションのように倒れていくのが分かった。


ズザザッ

 と、体を地面にこすりつける。


奴は、()()()()と名乗った男は、無様に突っ込んできた俺を軽々と避けた。


「な、んで?」


 俺はうつ伏せの状態から懸命に上半身を起こし、奴に困惑の眼差しを送っていた。


それは事実上、敗北を意味する。


「…そうだねぇ。君は完璧に僕の右手の攻撃を避けた。その速さもとても視えなかったよ。だけどね。世の中にはね罠というものがあるんだよ。僕がなんのために長く喋って、歩き回っていたと思うんだい?」


 両足が折れている…。


「わ、な、だと…」


 夏姉にもやられたことがある。効果範囲に入ると作動する魔術、魔法。欠点は使うのに準備時間がいること。そして、その代償として時間は長ければ長いほど強力。


「いくら、彼女を説得するためとはいえ、時間をかけ過ぎたのが君の敗因だよ。まぁ、このトラップは自慢の新作でね。どんな速さでも捉えることができるが、1回限りでね」


――甘すぎた。油断した。ちくしょう!


 彼女はすぐ横で唖然として俺を見ていたが、奴のひと言を聞いて、…唇をかみしめていた。きっと、彼女は今後悔している。自分のせいで俺が傷ついた、と。


 たしかに、俺はこいつに負けた。


 足だって折れてる。変な方向に曲がってるし、ズキズキと痛む。


 だけど、だけど、心だけは折れてない。


 足が折れたって、闘える。


 だから、初めて、俺はその名を呼ぶ。


「サクラ」

 彼女の肩が跳ね上がる。俺に名前を呼ばれると思っていなかったんだろう。


「ははっ、最後の語り合いかい?いいよ。好きにしたまえ」


 馬鹿にしたように笑って、余裕を見せつけられる。だけど、右手だけはしっかりとこっちに向けている。

 だけど、そんなことは気にしない。

 彼女が俺に近づいてきて、膝をつく。


「…っ…ご、め「謝るな」

 彼女の言葉を遮り、俺は脚の痛みをこらえて、しゃがれた声を出した。

「俺も、この家族になって、気付いたんだ」

「…な、にを?」

 彼女はたどたどしくも聞き返してくる。その目は不安でいっぱいだ。


「生きるってことはさ、自分以外の誰かに迷惑をかけることと同じだなって…」


 今、できる俺の最高の笑顔でそう言った。


「だからさ、たまには許されてもいいと思うんだ」


「…っ」


 彼女が息をのむ。


「君はさっき、言った。家に、帰る、と。だから、俺は―」


 刀を

 黎明を

 強く、強く握る。


「君を助ける」


刀が煌めく。その刀を奴に突き付けたまま、―彼女を、サクラを抱き寄せた。


「ちょ、ちょっ、っと、どさくさにまぎれて、なにすんのよ!」

 といって、頬を赤く染めて暴れだすサクラ。

「いててっ、暴れんなよ!仕方ないだろ!立てないんだから、お前を抱きしめて片手で刀振るうしか…いてっ」

「だからって、もうちょっと、やりようがあるでしょ!」


ぽかっぽかっ

とパンチが続く。

音が可愛いな、と思っているなら、それは間違いです。実際はバキッて感じのパンチがヒットしてます。


「だいたいなぁ、急によく喋るようになりやがって!あの無口で辛辣なキャラはどこにいった!」

「そんなこと、いまはかんけいない!だいたい、あんたは「いいかげんにしろ!」


 怒鳴り声が聞こえたと思えば、()()()()と名乗った白タキ男が睨んでいた。


「なんで、この状況でいちゃいちゃいちゃいちゃ、と!」

「「(いちゃいちゃなんて)してない!」」


「……もういい。さっさと国に連れて帰る。それで僕の仕事は終了だ」

 空気が張り詰める。皮膚が軽くピリピリとする。


「サクラ、…動くなよ」

 サクラの頭を左手で胸の方へと寄せる。

「…」


 きちんとこの空気を読んだのか、しっかりと俺の服を掴み黙っている。

 奴の右手が閉じた。


空間の歪を見つけられない!

ゴキャ


「っかは」


 俺の心臓だ!

 

 そう理解した瞬間、彼女の頭を胸から離し、刀を俺の心臓に突き刺す!

 二人が驚く顔が見てとれる。そして、ゆっくりと刀を胸から引き抜く。


「無駄だよ。この黎明がある限り。お前の魔法は通用しない」  

 俺は堂々と刀を掲げ、奴に向ける。()()()()と名乗った白タキ男が目を見開く。

「噂は、本当だったのだね。…春夏秋冬の黎明は、全てを斬り裂く…」


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