買い物
「なんで?…サクラちゃんは柊に厳しいの?」
と、目の前の千春が話しかけてきた。
「……」
答える義理は無いかのように、…黙る。
すると、ため息をはき、こう言ってきた。
「怖いのね?」
「…」
「人を信じることが、ね?」
「…そんなことない」
つよがりだ。…つよがりだ。わたしは、わたしは…
「…あの子は、なんというか。不思議でしょう?
なぜか心をゆるしてしまいそうになるでしょう?
頼りなさげなのに、頼ってしまいそうになる。ふふっ、おかしいわよね?」
…その通りだった。なぜ?と聞かれても分からない。…理解できない。
「サクラちゃんが、いきなりパンチしたのだって、あの子の目を見たからでしょう?」
……そう、何よりも、瞳。あの瞳は―――。
「あなたが、見てきた人間とは違うでしょ?
あの子はね。私たちの自慢の息子だからね♪」
「…ただの親ばか、じゃない。」
と言いつつ、…きっと今の自分は微かにだろうけど笑っているんだろうな
、と思った。
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――――やっちまったぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああああああーーーーーー。
俺、もうだめにゃ。ああ、親父の声が聞こえる。
『よくも、かあさんを無視したな…。さらには、姫ちゃんにまで…
あんな口のきき方をしやがって、…覚悟はできてるだろうな』
ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。
ああ、親父にされることがありありと思い浮かぶ。
きっと、また親父にボコボコにされるんだろうなぁ。
と、遠い顔になる、俺。
でも、あの子のあの態度は…誰だってカチン、とくるだろ?
…いくら可愛いからって、許されるものじゃない。
てか、それ以前に親父、…あんまり家になんでもかんでも連れてくるなよ。
この前は、なんか犬っぽいやつだった。その前は、鳥だとか、言ってたけど、
どう見てもただの鳥じゃありませんでしたから!
さらに、その前には妙に懐かない猫だとか、とにかく、よくもまぁ、いろいろと持って帰ってくるわ。
…なんか、腹たってきた。もういい、寝よ。
トントン。
「柊。明日、十一時には買い物に行くからね~」
……なんか、ものすごく勝手なこと言ってるし。
「ちゃんと、起きるのよ~」
…いかねぇよ。
「サクラちゃん、…可愛いから何があるか分からないなぁ~」
……………。
「お兄ちゃんでしょ?守ってあげないと、ね?」
「それじゃあ、よろしくね~」
………、何も言ってないぞ。俺は。
…べ、別にあいつのことなんか気にならねぇよ。
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翌日。
十一時三十八分。
とあるデパート。
買い物にきた、俺。
…もちろん、一人ですとも。
あいつのことなんか、気にならないし。
いきなり、妹とか言われてもわけわかんないし。
……なんか、周りの人に不審な目で見られてるし。
え?そんなに変ですか?おかしいですか?そうですよね。
だって、男が一人、いわゆるランジェリーショップの方を向いているんですからね。
いやいや、べつに一緒に買い物に来てるわけじゃないし。
あれ?それだと俺なんか変態じゃない?男一人で女性の下着店を凝視って…。
あ、やべ俺、なんか泣きそ。素直についていけばよかった。
~~回想~~
午前十一時。俺、ベッドの中。
トントン。
「じゃあ、行ってくるわよ~」
…勝手に行けばいいさ。
「ちゃんと後から来なさいよ~」……行かないっての。
…行かないよ。
―――十分後。
バタバタ、がちゃん。
「ふぅ~、いい天気だな。さて、本を買いに行くかぁ。…言っとくけど、別に尾行するわけじゃねぇし。心配でもないし。…たまたま、だし?」
――で、今に至る。
つか、あの子は…あんな顔もするんだなぁ。
少し申し訳なさそうな顔。ほんの少しだけどぎこちない笑顔。困っている顔。
……やっぱり、しゃべりさえしなければ可愛いな。服装は昨日と同じだな。
外見だけは、確かに、…可愛いな。
とか思ったりしたが、俺への態度が最悪だから…ね?
俺が怪しい動きをしている間に、母さんとあの女の子(いまだに妹とは認めていない)は昼ごはんを食べるためにファーストフード店が立ち並ぶ所に来た。
よかったぁ。朝も俺は食ってないからな。早く飯にしよう~。
二人は某ハンバーガー店に入って行った。
…同じ店はまずいな。よし、向かいの店の方にしよう、と思ったが
こっちの店は高ぇぇぇ!なんだ、この値段は…。
え?オムライスが2500円って、たかすぎだろ!
カレー3000円って、どんだけ、おいしんだよ!
…無理だ。しかし、他の店も…無理だ。だって、あきらかに並んでるもん(涙)。
し、仕方ない。ここは、危険を承知で同じ店に行くしかない。
お、男にはやらねばならないときがあるのだよ!いざ!
「いっぱい、買ったわねぇ~。ねぇ、サクラちゃん?」
と、…千春が満面の笑顔で話しかけてくる。
わたしは、ためいきをつきながら、一言もらした。
「…疲れた」
「それにしても、…柊は何してるのかしら?」
「?…家にいるんじゃないの」
と言うと、千春が驚いた顔をして
「え?サクラちゃん気づいてなかったの?」
「?」
「…ずっ~と、ついてきてたわよ♪」
「………変態」
全然、気付かなかった。…きっと、わたしは…鈍っているんだ…。
そんな考えを打ち消すように、千春がこう言った。
「あの子、素直じゃないからねぇ~」
と言って、にこにこ笑いながら、わたしの後ろの方に視線を向けている。
それよりもずっと聞きたいことがわたしにはあった。
「……どうして、…どうして…わ、わたしに優しくするの?」
すると、千春はきょとんとした顔でこう言った。
「家族だからよ」
それは…とても暖かい笑顔だった。
「で、でもこないだのニュースであってたように、
…あ、あいつらはもう他人を巻き込むことになんとも思ってない…。だ…から」
「関係ないわ」
――わたしの前から力強い声が聞こえた。
――その声はその瞳は、…有無を言わさないものだった。
もしかしたら、
わたしは、この人たちに
――――を求めてもいいのかもしれない。
そう思った。