出会い
「お前の妹だ」
…意味不明。親父はいつも意味不明なことを唐突に言う。
目の前の大きな麦藁帽子をかぶっているのがそういうのか?
麦藁帽子でまったく顔が見えないが…
だが、髪の色は見える。
どう見ても日本人の色ではない。つか、外人でもこの色はみたことがない。
鮮やかなまでのピンク。桜色、それ以外に表現できる言語を持ち合わせてはいない。
窓から差す太陽の光できらきらと煌めいている。
それがふわふわと、窓から入ってくる風で波打っている。
とても幻想的で綺麗だ。
身長も俺の顎くらいまでしかどう見てもない。
目の前の麦藁帽子が一歩前に出る。
自己紹介をするのだろうと思いこちらも身構える。
何を身構えるのか、自分でも理解できないが…
彼女が帽子を取る。彼女の綺麗な髪がなびく。
……目の前の光景から目が離せない。
…可愛い。いや、それよりも…綺麗だ。この一言に尽きるだろう。
はっきり言って、ヤバイ。
さきに断っておくが、俺は…ロリコンではない…と思う。
白く透き通るような肌に、くりくりした目、整った顔立ち。
幼いように見えるが、しかし、どことなく品があるように見え、大人びた雰囲気がある。
その透き通るような意志の強そうな蒼い瞳と視線がぶつかった瞬間。
その綺麗に整っていた顔が、どこからどう見ても、
不機嫌ですという顔に変化した。そして、この一言。
「…これ?」
うん。予想通りの可愛い声。
しかし、あきらかな落胆の声質と疑惑の視線が含まれている。
そして、…どう考えてもバカにしているとしか思えないセリフ。
目の前では、呆れているような少女。
「で、親父。何?この子?」
そこで、さっきからコーヒーを飲みながら、
ニヤニヤとこちらを眺めていた親父が
「だから、妹」
とニヤニヤしながら言い放つ。
……すごくいらつく顔だ。
「意味が分から」
俺が言い終わらないうちに、美少女が勢いよく顔をあげて、
「いや」
と一言。親父に向かって言い、そのあと俺を指差して、
「これ。―――は嫌い」
途中で俯いてしまい聞き取れなかった。
「まぁまぁ、落ち着いて。これは君が思っているのとは違うよ?…たぶん」
親父はフォローしているのか、してないのか…。
とにかく、俺の評価はこの子にとって低いらしい。
顔は可愛いのに…もったいない。
それに、なんだ?この態度は?
「とりあえず、自己紹介をしたら?」
と、キッチンから姿の見えない母さんの声が聞こえてきた。
「そうだな。ほら、姫ちゃん、あいさつ」
と、親父が少女を促すと不満そうな顔をしながらも
「――サクラ」
それはまるで、自分に言い聞かせるように、
自分を確かめるように…どこか悲しそうに。
――そう名乗った。
…真っ直ぐな空のような海のような蒼い瞳に惹きこまれる。
何も言わずに、呆けていた俺に
綺麗な、儚いという表現があうような小さな手を差し出してきた。
それは、もう不満そうな顔を隠しもせずに。
「よ、よろしく。おれは柊真」
と言いながら手を差し出している途中で
「い、いくつなの?」
と聞くと、
「…16」
と、答えられ…手が止まる。
は?今なんて?16?ん?同い年?
それで、妹?16?
と思い、もう一度目を少女に走らせ…
目が彼女と合わさると…
「じろじろ見るな」
……なんで?なぜ?このような扱い?
「死ね」
…顔が笑っておらっしゃられないのですが。あれ?
「な、ん…」
なんで、俺パンチ喰らってんの?と思った瞬間、激痛。
そして、親父の笑い声が聞こえながら、俺の意識はフェードアウト。
………とんだ、ゴールデンウィークの始まりだ…。