第7話 サファティの怨み
※前半はディズトロイ視点です。
※中盤はパトラー視点です。
※後半はサファティ視点です。
15分ぐらい経ってようやくガートナーは何個かの黒いケースを持って戻ってきた。この時、サファティの背中は血まみれだった。
「遅かったな。やっと戻って来たか。サファティも待ちくたびれたんじゃねぇか?」
俺はケースの中身を確認しながら気を失ったサファティをチラリと見る。トラウマになって将軍の職を辞めちゃうかもな。
「よぉし、確かに受け取ったぜ。バトル=パラディンはここに残れ」
「まだ何かする気かね?」
「いや、別に。俺らの逃走を妨害した瞬間、そいつらが爆発するだけさ。俺らが逃走するまでここから動くなよ」
俺らはケースを持つと、バトル=パラディンを残し、部屋を出て行く。これだけで10億の“揺らぐことのない価値”を手に入れるとは楽なもんだ。
誰もいない廊下を歩き、やがて小さなヘリポートに出る。そこには1機のガンシップがあった。逃走用に用意したヤツだな。
俺らはそれに乗ると、一気に暗い夜空へと飛び出す。その時、無線機に通信が入った。俺は通信を繋げる。薄いパネルにマグフェルトの姿が映し出される。
「何か用か?」
[成功は今回だけだぞ、盗賊集団。わたしはお前たちを絶対に許さぬ]
「あー、そうかい、そうかい。わざわざご苦労なこって」
俺は一方的に通信を切る。
戦争とは便利なものだ。戦争で大儲けするのは企業だけじゃない。俺らの様な無法者にも稼ぎのチャンスが回って来るものよ。
俺らは10億のカネと共に真っ直ぐと星々が煌めく夜空へと飛び去って行った。今夜はいい稼ぎだったぜ……。
◆◇◆
私の身体が床に倒れる――。
「ホント、お前の言う事を聞いたが為に、最悪な目にあったッ!」
サファティに殴られた頬が激しく痛む。私は涙目になりながら、そこを抑える。その間にも怒り狂うサファティは私の胸倉を掴んで無理やり立たせる。
「お前の言うことさえ聞かなきゃ、私があんな目に合うこともなかったんだ!」
怒りで息を荒げる彼女は、私の頬をもう一度殴る。その勢いで私は背を壁にぶつけ、床に倒れる。見上げれば、サファティの怒りに燃えた瞳が私を捉えていた。
「ご、ごめんなさいッ……! まさか、少数の、――」
「うるさい! 黙れバカラー! お前なんか元から信頼していなかったが、今後二度と信用しないッ! この詐欺師! 失敗魔! 首切って死ね!!」
彼女は土下座する私の顔を強く蹴る。私はその場に倒れる。だが、サファティはそんな私を何度も蹴り、殴り、踏みつける。
痛かった。すごく痛かった。でも、それ以上に私のせいでサファティが酷い目に合わされたのはショックだった。謝っても許されるハズない。それでも、私はひたすら謝るしかなかった。
同じ部屋にいるサファティの部下たちはこの状況を止めようともせず、冷たい視線で私を見ているだけだった。
「…………ッ!」
サファティは突然、苦しそうな表情を浮かべて、足元をフラつかせる。私は口から血を流し、涙に頬を濡らしながらそれを見ていた。
「サファティ将軍、あまり激しく動きますと、傷口が開きますので……」
「クッ……!」
サファティはしばらく私を睨めつけていたが、やがて部下に連れられて部屋から出ようとする。他の将校たちもそれに続いて出て行こうとする。だけど、出る前にサファティは冷たい目を向けて言った。
「二度と私の前に出て来るな」
そう冷たく言い放つと彼女は部屋から出て行った。広い部屋に残ったのはうずくまる私1人だけだった。
なんで私は“こう”なんだろう? いつも失敗ばかりしてみんなに迷惑をかける。すぐ誰かの足を引っ張っちゃう。バカラーと呼ばれても仕方がないのかも知れない。
私はアヴァナプタを逃がしちゃう原因を作り、サファティをあんな目に合わせる原因をも作った。私さえ、余計なことをしなきゃ……。
「く、ぅ…あぁっ……!」
後悔の念だけが残り、涙が零れる。謝っても、謝っても許してはくれない。それでも、謝りたい。ティーン中将にも、サファティにも……!
◆◇◆
【レーフェンス城 とある部屋】
全く、なんであの女が少将の地位に就けたのかが分からない。私はベッドに腰掛けながらそう思った。考えれば考えるほどイライラしてくる。
「サファティ将軍、大丈夫ですか?」
「……ああ」
「それにしても、あんなバカがなんで政府内外から人気あると思います?」
「知るワケないだろ!」
「す、すいません」
それは私の方が知りたかった。アイツはなぜか政府内外から人気がある。下々の愚民から人望を得ている。不思議な程に。私にはそれが分からない。
特に私のように名家というワケでもなければ、時代を代表するような英雄でもない。ただ単に優しいお人よしだ。それだけなのに、なんで……!
「……グレゴリウス=ファンタジア叔父上はどこに?」
「今は幻想都市ファンタジアシティにいらっしゃるハズですが……」
ファンタジアシティか。都合がいいな。クリスタルの都にして“我が本拠地”。
「私の名を呼んでみろ、ダイム=ファンタジア准将」
「は、はい?」
「いいから」
「……ファンタジア当主――“サファティ=ファンタジア”将軍」
私は手を握り締めながら、薄らと笑みを浮かべる。私たちファンタジア一族。1800年前、国際政府という巨大な統治機構を創設したファンタジア帝族の末裔だった。
長い間、国際政府代表はファンタジア一族の人間が就任してきた。代表を選任する議会も、ファンタジア一族と支持する者たちが多数派を形成してきた。
だが、いつからか非ファンタジア一族に議会の多数派を奪われ、政府代表の地位も奪い取られた。私たちには屈辱の時代だった。
そして、今もマグフェルトという非ファンタジアの男が、政府代表をより強化した地位――政府総統を担っている。
国際政府を取り戻し、世界に号令をかけるのは、私たちの悲願だった。だが、議会で多数派を握り、政府代表の地位を取り戻すことは、もはや不可能に近い。下々にいる愚民の支持を得られない。
「あの、サファティ将軍……」
「……このような時代だ。勝てば世界を奪取できる。“沈みつつある泥船”に乗り続ける意味はない」
「えっ……?」
私は動揺しているダイムに笑みを浮かべながら言った。
「――ファンタジアの名を持つ新たな統治機構を、始めるのもいいかも知れない」




