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黒い夢と白い夢Ⅱ ――動乱の人心――  作者: 葉都菜・創作クラブ
第2章 信頼の価値 ――平原都市レーフェンスシティ――
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第5話 パトラーの提案

 信頼とはなんだろうか?


 人間なんて信用ならない生き物。


 裏切りは蜂のごとく起こり、世界は動乱のさ中にある。


 私はもう誰も信じない。



 ……いや、『あの子』だけは別だ。


 私の唯一の弟子にして唯一の仲間――パトラー。


 彼女に裏切られるぐらいなら、死んだ方がマシだろう。







































 【平原都市レーフェンスシティ】


「全兵、整列!」


 何千という兵士。白い装甲服に身を包んだレーフェンス警備軍の兵士。彼らはアサルトライフル片手に銃口を空に向け、直立して私たちを迎える。こりゃスゴイな。

 だが、当然と言えば当然か。なんといっても、この飛空艇に乗っているのは世界最高権力者である男だ。


「国際政府マグフェルト総統に敬礼ッ!」


 マグフェルト総統は私と4人の黄金の鎧を着た親衛騎士を伴って大型飛空艇から、兵士たちが隊列を成した広場に降りる。

 広場に降りて行くと、左右に分かれた隊列の先頭に1人の男性が跪いていた。レーフェンス州の長官ガートナーだ。


「マグフェルト総統閣下、お待ちしておりました。レーフェンスの地をお預かりしておりまするガートナーに御座います」

「うむ、余は政府総統マグフェルトだ。早々に本部要塞内へと向かおう。話はそれからと致そう」

「はい、マグフェルト閣下」


 マグフェルト総統とガートナーはレーフェンス城内へと向かう。私と親衛騎士たちも一緒だった。そして、その後ろからは大勢の政府親衛兵が着いて来ていた。



 【レーフェンス保安師団本部要塞 最高司令室】


 あっという間に夜になった。私は窓から外をぼんやりと眺めていた。レーフェンスってコスーム大陸の南西部に位置しているからずいぶん温かい。グリードシティはまだ寒いんだよな。


「サファティ将軍、失礼します」


 1人の女性将校が部屋に入ってくる。黄色い髪の毛にエメラルドグリーンの瞳をした女性――パトラー=オイジュス少将だ。この前、任務失敗してアヴァナプタを逃がしちゃった間抜けな軍人。彼女の友だちピューリタンはその責任を取らされ、政府首都で謹慎中だ。


「なんか用か?」

「先ほど、レーフェンスシティ南部警備隊から連絡があったのですが、妙な身なりをした集団が市内に入ったそうです」

「へぇ」

「万が一のことも考えて軍を市内とその周辺地域に配備して警戒を強めた方が宜しいかと思います。連合軍のスパイであったのなら……」


 ふん、間抜け軍人がなに言ってることやら。政府特殊軍将軍の地位にあるこの私に、“国際政府創設メンバー”である「ファンタジア一族」当主である意見するなんて100年早い。


「周辺地域にも軍勢を?」

「はい。連合軍の艦隊が攻めてきてもすぐに察知することが出来ます。今のようにレーフェンス城だけを固めていると、接近されるまで気がつくことが出来ません」


 何言ってんだコイツは。例え、レーフェンスシティが攻撃されたところで我が軍は大軍。マグフェルトを逃がす時間は十分ある。

 私たちの任務はマグフェルトの護衛。それだけが果たされればレーフェンスの1つや2つ、どうなろうと知ったことじゃない。

 ……まぁ、もっとも、一番に守られなきゃならない命は、この私の命なんだがな。私は世界最大の名門――ファンタジア一族の当主なんだからな。最悪、マグフェルトが死んでも、私が助かれば、国際政府は大丈夫だ。総統の地位は私が継いでやる。


「必要ない」

「しかしサファティ将軍、万が一のこともあります。妙な集団がシステムをハッキングしていたら、警備網も役に立ちません。それに今、攻め込まれたらレーフェンスの人々が……」


 チッ、うるさいヤツだ。本当なら、ファンタジア一族の力を使って、明日にでも少将の地位を解任してやりたいが、彼女の父親は国際政府執行部の1人だ。国際政府執行部が非ファンタジア系で事実上独占されている今、さすがに難しいだろう。


「分かった分かった。勝手にしろ」


 これ以上、この女を見ているのもイライラするから、軽く言ってやった。どうせ、もう会議は終わってる。明日の朝には撤収だ。秘密裏に動いているんだから連合軍もやっては来ないだろう。最新の情報でも連合軍の動きに異常はない。


「ありがとうございます、サファティ将軍」


 パトラーは私に一礼して部屋から去って行く。あんなヤツ、この特別親衛隊にいらなかったんだけどな。まぁ、それも明日には解散だ。


「サファティ将軍」

「ダイム=ファンタジア准将か。どした?」

「レーフェンスシティとその周辺地域の防衛は万全です。また動きも秘密裏でした故、連合軍も気がついてはいないでしょう」

「だろうな」

「なのに新たに警備兵を増加するのは蛇足です。それに、これ以上人員を割いてはレーフェンス城内の警備が手薄になります。レーフェンスにいる愚民にとってはよいかも知れませんが、サファティ将軍の身が危うくなります」

「……まぁ、確かにそうだが、どうせ何もないさ」

「将軍、あなたの命は非ファンタジアの命とは異なります。今、この戦乱を終わらせ、国際政府をファンタジア一族の手に取り戻すためには、あなたの力が必要です。どうか、もう一度、お考え直しを!」

「君は心配しすぎだ。今日はもう休め。私もそろそろ休ませて貰う」

「わ、分かりました……」


 私は白いマントを翻して最高司令室から出て行く。“バカラー少将”はホント、どうしようもない奴だな。

 あの女は失敗ばかりだ。この前も連合政府リーダーの1人・ララーベルを追い詰めておきながら取り逃がしている(まぁ、ララーベルはその直後に殺されたがな)。失敗ばかりするあの女の言うこと、誰が信じることやら。


 私は窓から外を見る。無数のガンシップが飛んでいく。早くも甘党は命令を下したみたいだな。どうせ、なんにも起きないだろうに。私もそろそろ休もう。

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