第4話 人質交換
【商業都市ポートシティ 最高司令室】
大きな立体映像投影台から映し出される立体映像。そこに映っているのはパトラーだった。彼女は手錠をかけられ、仰向けに寝かせられていた。そして、そのすぐ横にはコマンダー・アレイシアの姿。
[私は連合軍のコマンダー・アレイシア。この女を返して欲しければ、我が軍のアヴァナプタ将軍と交換だ]
そう言うとキャプテン・フィルドはパトラーの服を捲し上げ、露出したお腹にスタンガンを押し付ける。悲鳴が上がる。パトラーはその場で悶える。
しばらくスタンガンを押し当てていたが、やがて離す。そして、彼女はナイフを取り出し、ぐったりとしたパトラーの首に押し当てる。
[今すぐ返事をよこせ。さもないとこの女をここで処刑する]
「ピューリタン将軍、あの女、本気でパトラー少将を……」
「……分かってる」
パトラーとアヴァナプタじゃその重要度は違い過ぎる。後者の方が遥かに上だ。それに、アヴァナプタを解放するという事はティーン中将や数人の兵士の死を無駄にすることになる。
私はパトラーを助けたい。パトラーと私は親友だった。でも、パトラーを助けるということはアヴァナプタを解放するということだ。
[ピュー、リタン…… アヴァ、ナプタを…解放しちゃダメ……]
[黙っていろ、パトラー。もっと痛い目に合いたいか?]
コマンダー・アレイシアは首に押し当てていたナイフをパトラーの服の中へと潜り込ませる。何をする気だ……?
[あと1分以内に返答を出せ。さもないと、この女の右胸を切り落とす]
[ひッ、や、やだ……!]
「…………!」
なんてヤツだ! 私は拳を握りながら立体映像のコマンダー・アレイシアを睨みつける。パトラーは震え、涙目になっていた。一方、コマンダー・アレイシアは自身に満ちた顔をしていた。取引が絶対に成功すると思っているような顔だった。
「わ、分かった……。パトラーとアヴァナプタを、交換しよう」
国際政府執行部や元老院議会は絶対に許さない。私もパトラーとアヴァナプタじゃ、アヴァナプタの方が重要人物だと思う。でも、理論とかそんなもので判断できなかった。友達のパトラーを失いたくなかった! 傷つけたくなかったんだ……!
[いい判断だ、ピューリタン。では人質の交換は本日の17時としよう]
「場所はどうする?」
[ポート平原の中心。先に行って待っている]
「分かった。約束を破るなよ」
[ああ、もちろん]
そう言うと、キャプテン・フィルドとパトラーの立体映像は消える。立体映像が消えると、警備軍将校の1人が近づいてくる。
「本気でパトラー少将とアヴァナプタを交換するのですか?」
「もちろん本気だ」
「しかし……」
私はその将校を睨みつけると、黙らせる。理性はパトラーを切り捨ててアヴァナプタを護送しろと言っている。でも、感情はその逆を叫んでいた。
どちらを取っても後悔するだろう。でも、パトラーを見捨てるぐらいなら、アヴァナプタなんか放り出した方がマシだ! 友達1人救えないで強大な連合軍から世界を救えるかッ!!
*
【ポート州 ポート平原】
空がオレンジ色に染まる頃、私たちは連合軍のコマンダー・アレイシアが待つポート平原に到着した。アヴァナプタも一緒だ。
私とクロノスと数人の兵士はアヴァナプタを連れて政府軍の小型飛空艇から降りる。外では1隻のガンシップを背に、護衛用ロボットで銀色をした鋼の鎧を纏った人間型ロボット、バトル=パラディン4体とコマンダー・アレイシアがパトラーを連れて待っていた。
「私は国際政府特殊軍の将軍ピューリタン。敵将アヴァナプタを連れて来た。直ちにパトラーを返して頂きたい」
「よかろう。アヴァナプタ将軍をこっちに向かって歩かせよ」
私はアヴァナプタの手錠を外し、合図する。彼女は勝ち誇ったような表情で私たちを見ると、コマンダー・アレイシアの方へと歩いて行く。
それを見たコマンダー・アレイシアも、気を失ったパトラーを抱き抱えたバトル=パラディンに合図する。
バトル=パラディンはアヴナァプタがコマンダー・アレイシアの横を通り過ぎると、パトラーをこっちに向かって放り投げる。彼女は私の足元に倒れ込む。
「パトラー!」
「うっ、ぐぅ……」
私はパトラーを抱き抱えると、急いで飛空艇の方へと戻ろうとした。だが、コマンダー・アレイシアが後ろから声をかけてくる。
「お前の判断は正しかっただろうな」
「なに?」
「その女は今はまだ小さいが、いずれは政府特殊軍の将軍にはなるだろう。……いや、それ以上の人間になる」
私はパトラーを味方の兵士に引き渡し、コマンダー・アレイシアの言葉に耳を傾ける。彼女は真っ直ぐと私を見ていた。
「連合政府は愚かだ。未来のパトラーはアヴァナプタは勿論、ティワード代表を超える人間になるかもな。私はそう見ている。……アヴァナプタを見捨ててでも殺すべき人間だ。敵にすれば恐ろしすぎる」
そう言うと、コマンダー・アレイシアは白いマントを風になびかせながら、連合軍の黒いガンシップへと消えていった。彼女が搭乗すると、ガンシップはすぐに飛び立ち、東に向かってあっという間に消えていった。
コマンダー・アレイシアの言ったことが気になっていた。本当にあのパトラーが……? 私の頭で彼女の言葉が何度も駆け巡っていた――。