第47話 人工の魔女
※コマンダー・アレイシア視点です。
【アレイシア城 コマンダー・アレイシア自室 リビング】
私はコメットの死体を処理し、部屋に戻ってきた。ビリオンは完全に崩壊。連合政府主要加盟組織がまた1つ滅んだ。
これで、連合軍はますます力を失った。ビリオン・ポート本部の戦いは開戦以来、ダントツで被害が大きかったらしい。
だが、政府軍もこの3ヶ月で並ならぬ被害を被っている。折しもファンタジア州では元特殊軍将軍サファティが勝手に王を立てて独立。サファティを失ったことは大きなことじゃないが、ファンタジア州とサファティ軍を失った事は政府もかなりの痛手だ。
「しばらくは戦争どころじゃないな」
たぶん、3ヶ月は動けない。政府軍は特に動けないだろう。連合軍が攻めればさすがに動くだろうが、積極的侵攻はないと思うな。ファンタジア王国の成立で世界は混乱している。人心が大きく乱れている時には下手に動けない。
「暇、にはならないか……」
この一連の事件で連合政府も方針を変えるだろう。中央大陸内でロボットの軍を動かせない。ならどうするか。簡単だ。私たちクローン軍の出番となる。私を九騎の1人として中将に任命したのは調練を終えたクローン軍のまとめる為だ。
「…………」
私は地図に目を移す。中央大陸では下手に動けない。ならば、どうするか? クローン軍を有効に使える場所は――シリオード大陸。あの極寒の世界。雪山と雪原に覆われた極寒の大陸。ロボットの軍は使えない。
ぐっと拳を握る。苛酷な環境に私たちが向かわされる。今度はビリオン・ポート本部や情報拠点コア・シップの比じゃないほどの姉妹が死ぬ。
コメットが死んでも、私たちの姉妹は虐げられ、無残に死んでいく。人工の生命は“人工の魔女”と呼ばれ、その存在はいつも軽く見られてしまう。
「パトラー……」
しばらくパトラーとも会えなくなるな……。私はそれにため息をつき、椅子から立ち上がる。ドアを開けて月明かりが差し込む寝室へと入る。もう7月、か……。
私は白いブーツと靴下を脱ぎ、レザースーツをも脱ごうとした。だが、その時、部屋の奥に誰かいることに気がついた。
「…………!? だ、誰だ、お前ッ!?」
よく見れば、ベランダに通じる窓が開いていた。そこから風が入り、白く薄いカーテンが何度もめくれる。その側に誰かいた。
その黒い影はゆっくりと歩いてくる。銀色の鎧に白い大きなマントを纏っている。な、なんだ、コイツ……!?
「コマンダー・アレイシア、だな?」
鎧で覆われた顔から聞こえるのは女の声。私はその声にどこか違和感を抱きながらも剣を手に取る。剣の実力なら政府特殊軍将軍にも引けを取らない……つもりだ。
「お前、誰の部屋にいるのか分かっているのか!? 私は連合政府九騎の――」
そこまで言った瞬間、急に腹部に強い打撃を受け、私の身体は壁に叩き付けられ、床に倒れ込む。剣が手から離れる。バカな、まだ手が届く距離にいるワケじゃないのに……!
「痛いッ……」
腹を抑えてうずくまっている内に鎧の女はすぐ側までやって来る。ああ、クソ。コイツも剣士か。剣を腰に剣が装備されている……!
「九騎だと? クローンにしてはずいぶん偉くなったものだな」
「…………?」
この声……? そうだ、私たちと同じ声だ――! コイツ、クローンか! クナと同じ高度魔法を使うクローン……! さしずめ、脱走クローンだろう。
「ク、クローンか……。よく騒ぎを起こさずにここまで来れたものだな。スゴイじゃないか」
「セキュリティ不十分。楽なもんだ。番犬でも置くんだな」
「フフ、そうし――」
鎧を纏ったクローンは、いきなり私の首を掴んで持ち上げる。背中を壁に押し付けられる。く、苦しい……! なんて力だ!
「は、なせッ! クローン、同士で、殺し、合い――」
「私をクローンだと思っているのか?」
「が、はッ――」
手を離される。私は座り込んで荒い息を激しく咳き込む。それよりも、コイツ、今なんて言った……?
「お、お前はクローンじゃないのか……?」
「…………」
その鎧の女は頭を覆っていた鎧を脱ぐ。やや長めをした赤茶色の髪。同色の瞳。しっかりと整った顔。白い肌。私とほとんど変わらない。それでもクローンじゃないのか?
「認めろ、お前も私と同じFクローンだ」
「違うな。私は――オリジナルだ」
――えッ……。
「ま、まさか、私たちの……」
「そうさ。パトラーの師――フィルド=ネスト」
……終わった。コイツ、私を殺しに来たんだ。3ヶ月前、連合政府リーダーの1人・ララーベルを殺した張本人。次は私を……!
「た、頼む……。見逃してくれ……」
私は震えながら声を絞り出す。実力の差は戦わずともハッキリとしている。勝てる見込みなどない。斬撃で一瞬で首を斬られて終わるだろう。
「…………」
「まだ、死にたくないっ。まだ、死ぬときじゃないんだ……」
まだ連合政府を倒していない。パトラーともことを成せていない。クローンたちを解放してやることも出来ていない。私にはやり残したことが無数にあった。
だが、どこか心はあきらめもついていた。ララーベルだけじゃない。コイツは連合軍の幹部や将兵を殺しまくっている。以前は泣いて命乞いした非戦闘員の女性も殺したらしい。
今更、連合軍中将の私がどんなに命乞いしてもオリジナルは私を殺すだろう。彼女は狂った殺戮騎なのだから。
「……別にお前を殺す気はない」
「…………!?」
「だが、1つだけ言うことがある」
彼女は私の腕を取って無理やりベッドに寝転がらせる。彼女は立ったまま、冷たい瞳を私に向けながら言った。
「パトラーに近づくな」
「なっ……! なんで!?」
「お前がパトラーに近づけば、彼女が危うくなる」
「彼女の安全か? 今更、この世界に安全なんてあるか! 私は彼女と共に、もう一度世界を再生させたいんだ!」
パトラーに近づくなと言われた私は怒りにも似た感情を抱く。ぎゅっと拳を握りしめていた。それは承諾しかねる。命が危うくても。
「……今から3ヶ月、マグフェルトことパトフォーは、パトラーや元老院議員を使って人心を安定させるだろう」
「なに……?」
「彼としても不本意じゃないだろう。これ以上パトラーが人望を集めると計画が壊れかねない」
「なら、なぜ彼女を……」
「一気に人望を集めることになるだろうが、そうでもしないと第2、第3の独立国家が各地で乱立しかねないからだ。それほどにまで世界は動揺している」
……なるほど。それも十分考えられるな。だから、国際政府に所属するパトラーを使って国際政府そのものの支持と人望、そして人心の安定を……。
「マグフェルトも連合政府も3ヶ月、パトラーの動きを監視する。そんな時にお前がパトラーに近づけば……。分かるな?」
「クッ……!」
オリジナルの言ってることは正しい。何も間違ってはいない。私とパトラーの関係が明るみに出れば、私もパトラーも殺されるだろう。敵と内通した罪で……。
「……幸い、――」
「…………?」
「――幸い、今から3ヶ月は私は中央大陸での任務に当たりそうだ。その心配はしなくていい」
「…………。……そうか」
そう言うとオリジナルはマントを翻して、窓へと向かう。私はその背に声をかける。
「パトラーには会わないのか? それと、私とお前とパトラーと……彼女の仲間たちで手を組めば、連合政府を、国際政府を、そしてパトフォーを今すぐ倒せると思うんだが」
「……3ヶ月、パトラーに近づくなよ。近づけば、――分かってるな?」
私の言葉に応えず、彼女は窓から素早く出て行った。今まで一度も彼女には会ってないのだろうか? なぜ? 会えない理由でもあるのか……?




