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黒い夢と白い夢Ⅱ ――動乱の人心――  作者: 葉都菜・創作クラブ
第9章 動揺の人心 ――ポート本部――
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第44話 動乱の人心

※パトラー視点です。

 私はサブマシンガンで一気にバトル=アルファ4体を撃ち倒すと、デュランダルを握り、アサルトソードを握ったバトル=メシェディに向かって走る。

 バトル=メシェディは護衛用のロボット。サブマシンガン程度の銃火器じゃなかなか倒せない。デュランダルで斬る方が早い。グズグズしてると、またコメットは増援を呼ぶだろう。


[攻撃セヨ! 破壊セヨ!]

[攻撃セヨ! 破壊セヨ!]


 2体のバトル=メシェディはアサルトソードで、私と激しく打ち合う。何度も金属音が鳴り響く。

 だが、戦いはそんなに長くは続かなかった。あっという間に、片方のバトル=メシェディのアサルトソードを弾くと、一気に斬り壊した。もう片方の護衛ロボットも、アサルトソードを叩き落され、呆気なく首を斬って壊した。


「クッ……!」


 自社が誇るロボット軍団をことごとく破壊され、動揺するコメット。彼女は黄金色のグリップに龍の模様が描かれた剣を握り締める。


「もう召喚しないのか? ロボット切れか?」

「う、うるさい! 私の味方はまだいる!」


 そう言うと、ロボットの女王様は左腕につけた小型の無線機に口を近づける。そうか、アレで召喚しているんだな。

 私はそれを目がけてサブマシンガンで発砲する。小さな銃弾はその無線機を撃ち砕いた。これでもう増援を呼べないハズだ。


「なっ……!」

「ロボットはもう呼べないか?」

「な、なに、を……」


 その声は震えていた。さっきまでと違い、コメットは明らかに動揺していた。やはりアレがないとロボットを呼び出せないんだな。


「……一度、自分で戦ってみて」


 私はサブマシンガンを後ろに投げ捨て、デュランダルを引き抜く。特に深い意味や狙いはないけど、一度だけ彼女自身を戦わせたかった。


「私は剣で戦うから。……さぁ」

「クッ、私を見下すのも大概にしなさい!」


 激怒したコメットは白色の美しい刃をした剣を突き出し突っ込んでくる。突き刺す気らしい。私はその剣を寸前で避ける。彼女はバランスを崩し、私の目の前で倒れ込む。


「クッ……」

「…………」

「た、たまたま失敗しただけだ!」


 コメットはますます怒りを露わにし、すぐに剣を取って立ち上がる。大きく剣を振り被る。やろうと思えばこの隙を突いて刺す事も出来た。

 彼女は私に剣を振り下ろす。寸前で素早く受け止める。大きな金属音が鳴り響いた。私は間を置かずにその剣を弾き飛ばす。剣は宙を舞い、遠くに転がった。


「い、痛いッ……! なに、これっ……!」


 コメットはその場に膝を着いて剣を握っていた右腕を左手で抑えていた。その身体はぶるぶると震える。たぶん、衝撃と反動だろう。この様子を見ると恐らく一度も戦ったことがないし、訓練を受けたこともなさそうだ。


「お前は自分で戦ったことがないんだな」

「クッ……!」

「だから他の人がどれだけ大変な思いをして戦ってるか、分からないんだ」


 私はデュランダルを鞘に収める。


「……人間なんて、信用ならないわ。私の父は部下を大切にしていた。なのに、総帥の地位を狙った部下は父を殺した。人間なんて、どんなに信じ、大切にしても、簡単に裏切るのよ! どうせ、プロヴィテンスやアヴァナプタだって私を信じていなかった! 連合政府リーダーの1人というから私に従ってただけ!」


 コメットはゆっくりと立ち上がる。そのオレンジ色の瞳には、なにか黒いモノと狂気的なモノを感じた。


「友情? 信頼? 恋愛? ははッ、そんなもの簡単に壊れるのよ! どんなに信じて大切にしても部下が人間なら叛意を抱く! 平和は消え、生命は無残に散る!」

「…………」

「私には親友なんて呼べる人間はいない。混沌の世界を生きていくのに、そんなものは必要ない」


 コメットは不気味な表情を浮かべながら言う。


「何もかも、心があるからいけないの。忠実に奴隷のごとく働く心無きロボットなら、そんな問題は起きないわ! 揺れ動く人の心。それさえなければ、何も問題は起こらない」


 その時、最高司令室の扉が開く。私は素早く振り返る。入って来たのは政府軍の兵士とジェルクス将軍、ホーガム将軍、バシメア将軍、クリスト将軍だった。

 私が一瞬、振り返ったのは大きな間違いだった。コメットは隠し持っていたリボルバーを取り出す。黄金色をした豪華なリボルバーだった。


「人間なんて、みんな死ねばいいのよ!」

「…………」

「……くっ、人間なんてっ、愚かな生き物なんだ!」


 コメットの身体は震えていた。リボルバーの銃口を首に押し当て、自殺を試みようとしているらしい。だが、引き金を引けないでいた。死ぬのは怖いらしい。


「みんな、死んでしまえ、死んでしまえ、死んでしまえっ!」

「……ロボットは壊しても直せる。そこのバトル=ニーケだって修理すればまた動く。でも、人間はそれができない。死んだら、二度と動かない。本当に、いいのか?」

「な、なに、を! 私が死を怖がっているとでも!」

「そんなことは言っていない。死んだら、二度と動けなくなる。それだけ」


 私は涙目になっているコメットに向かって言う。

 ……このラグナロク大戦でどれだけの命が失われただろうか。何百万人もの命が失われ、かつての世界は消え去った。機械の軍団が世界中で暴れまわり、無数の命が消えた。


「人が、嫌いか……?」

「もちろん……!」

「嫌いなものは全部排除しなきゃいけないのか? お前の作ったロボットが、たくさんの人を殺している。お前が父親を失った悲しみ、それ以上の悲しみが何千もの子供を襲っている。なんとも、思わないのか?」


 この戦争で何千もの子供が親と家を失った。私はそんな子供を無数に見てきた。……連合政府は、親も帰るところもない子供を実験台にしていた。


「……お前の悲しみは分かる。でも、それと同じか、それ以上の悲劇をお前は量産して、世界中にまき散らしているんだ!」

「人間が私になにをした! 人間なんて、貪欲な生き物だ! 自分の欲望のために平気で人を――」

「――人間は愚かな生き物だ。機械じゃない。だから、間違いを犯す!」


 私は拳を握りめながら言った。間違いを犯しても、元の正しい道に戻れる。それが人間じゃないのか……!?


「機械は示された道しか進めない。それが間違っていようと、進み続ける」

「…………」

「コメット、自分の黒い夢のために、無数の人間を殺したな。機械は間違いだろうがなんだろうが、突き進み続ける。でも、心のある人間なら、止まることが出来る。お前は、人間だ」

「な、なにを……!」

「元の道に、戻るんだ。まだ、間に合う」


 コメットはリボルバーを落とし、両手両ひざを床につけて、がっくりと倒れる。


「人間なんて、みんな死ねばいいのよ……。ティワードもパトフォーもいつか殺してやるつもりだった。アイツら、私を利用している。私の心を弄んで! それに私が気が付かないとでも!?」

「……2人に煽られたんだな」

「人を殺したいのは、私の意思よ」

「最初は違ったハズだ。父親を殺されて、全ての人間を殺そうと、本気で思ったのか?」


 ティワードとパトフォー。大方、コメットの怒りと憎しみを増幅させ、彼女の黒い夢を膨らませたのだろう。彼女は、利用されている。揺れ動く心の隙に付け込まれたんだ。


「……裏切らない機械による心の破壊。人間を根絶やしにして、悲劇も何もかも消し去る。心を有する人間が滅び去れば、すべてが解決する。パトフォーがそう言ったのよ」


 ……そう言ってコメットを引き込んだのか。もちろん、それまでにも言葉巧みに彼女を少しずつ蝕んだのだろうが。


「貪欲な心ばかり有する人間なんて、滅び去ればいいと思っている」

「それを抑えて生きていくのが人間だ」


 私はそっとコメットの目の前に立つ。


「貪欲な心を抑えれない人間がいる。ソイツを倒すために、一緒に戦ってほしい」

「…………!?」

「共に苦しみを乗り越えよう。――お前を煽り、道を誤らせたパトフォーを、共に倒さないか?」

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