第33話 板挟み
※パトラー視点です(冒頭除く)。
パトラー、真実を得ることが幸せであるとは限らない。
私はお前にまつわる『ある真実』を知っている。
お前は今まで偽りの中で過ごしてきた。
それでも、私は偽りを発した者がひどい人間だとは思わない。
真実はあまりに残酷だ。
最後まで知らない方が幸せかも知れない――。
【サフェルト州 キャンラド島海岸】
サフェルト州から東にあるサフェルト海。そこにある島に私は白いガンシップから降りる。他にも何機ものガンシップが着陸し、兵士が降りて行く。
「パトラー少将、お疲れ様です。プレイザ議員とジェルクス将軍がお待ちかねです」
「了解」
私は海岸にあるキャンプ場に向かう。そこでは大勢の政府軍兵士が簡単な駐屯基地を作っていた。私たちの乗ってきた中型飛空艇はキャンラド島の西にある。海上に着水させていた。この島は小さな島であの飛空艇を着陸させる場所がなかった。
「パトラー少将、お待ちしておりました。政府特殊軍のジェルクスです」
緑が目立つ装甲服を着て、白のマントを纏った男性が私に近づいてくる。赤い瞳に口の両端に少しばかりの髭を生やした政府特殊軍のジェルクス将軍だ。
「お出迎え、ありがとうございます。特殊軍少将のパトラー=オイジュスに御座います」
私は一礼して名乗ると、彼と一緒に駐屯基地の奥にあるテントへと歩いて行く。テントを開けると、そこにはお父さんと黒髪に黒い瞳をした身長が高くかなり太った1人の男性がいた。元老院議員のプレイザだ。
彼らの周りには鋼の鎧を纏った政府特殊軍の親衛兵が4人いた。彼らは精鋭中の精鋭。主に元老院議員を守るのが任務だ。
「おうおう、ジェルクス将軍にパトラー少将。ご苦労であった。軍はどの程度率いておる?」
「はっ……。中型飛空艇4隻に兵力は1万6千。ただ、飛空艇は陸地じゃ狭いので、西1キロの地点に着水させております」
「さようか。まぁ、よかろう」
私たちがこの“腐敗した元老院議員プレイザ”と一緒にここに来たのは政治の問題で、だ。プレイザはここの領有権を主張するも、島民はそれを拒否。お互いの意見がぶつかり、小さな問題を引き起こしていた。
「全く、バカな島民共だ。このわたしはビリオン社の株を多く持っておる。あの会社をある程度なら動かせるのだ。わたしはこの産業も何もない地図に書き忘れそうなちっぽけな島に産業を――」
プレイザはぐちぐちと自分の主張をテントの中で始める。プレイザはあの軍事企業ビリオンの工場をこの島に誘致しようとしていた。
だが、ビリオンは連合政府加盟組織の1つ。その工場を島に造れば、そこで生産されるのはバトル=アルファ。島民も連合政府側として戦争に加担することになる。だから工場誘致を拒否しているのだ。
普通に考えて国際政府元老院議員のプレイザが、連合政府の工場誘致に尽力を尽くすのはおかしな話。だが、それをしているところを見ると、ビリオンのリーダー・コメットからカネを握らされたんだろう。
「いいか! 最悪、武力で島民を――!」
「議員、それは難しかと……」
「砲弾を撃たずとも、攻撃の構えをすればよい! それだけで威圧になる!」
コメットらビリオンのしたことは明らかな違法献金だ。それを受け取り、工場誘致に動くプレイザもまた違反者。普通は罪に問われる。
だが、彼は抜け目なく同じく腐敗した悪徳元老院議員にカネを回し、裁判沙汰になっていない。更に政府特殊軍将軍のサファティをも買収。カネを受け取った彼女も、任地のファンタジアシティからプレイザの行動を正しいという意見を投げている。
「わたしはあくまで島民のためを思ってやっているのだ!」
私がここにいるのはサファティをここに来させないためだ。彼女が参戦したらもうプレイザの行動を止める人間は誰もいなくなる。私も、ジェルクス将軍も、お父さんも彼を抑える為にここに来ていた。
サファティはレーフェンスシティでの一件が会って以来、私にどうしても会いたくないのか、首都に戻っていない。ずっとファンタジアシティに留まっていた。
「ふぅーっ、ここは暑いな。もうすぐ7月だったか? ふぅーっ」
プレイザは油汗を滲ませながら白いハンカチで汗を拭きとる。確かにここは暑い。あと半月もすれば7月だ。これからの戦いは暑さとの戦いにもなりそう。
「全く、軍の基地はしょぼいものだな! オイ、冷房をつけろ!」
「申し訳ありません。どうか、ガマンなさってください」
「チッ」
別に冷房をつけてもいいんだけど、早く帰って欲しいのでつけていないのは内緒の話。考えたのは私だけど、なかなか悪質だったかな。
その時、外が騒がしくなってきた。私たちも暑苦しいテントから出て、駐屯基地の防護柵近くにまでやってくる。
[ビリオンの工場誘致はんたーいっ!]
[悪徳議員は出て行けーっ!]
[自然を壊すな!]
[連合政府のコマは辞職しろっ!]
海岸に造った駐屯基地にプラカードを掲げた大勢の島民が集まって来ていた。彼らはスピーカーを使って私たち、――いや、プレイザに出て行けと叫んでいる。プラカードにも“工場いらない!”、“自然を壊すな”、“工場反対”などと書かれている。
[パトラー少将、あなたは連合政府と最も戦い続けているにも関わらず、工場誘致を認めるのですか!? 直ちにプレイザを逮捕し、正義を見せてください!]
私は島民から目を背ける。そう、言ってることは正しいんだけど……。
「パトラー! 連中に惑わされるな! 彼らの雇用を確保し、この島を活性化するにはビリオンの工場を誘致するしかないのだ!!」
[黙れ、悪徳議員! パトラー少将、この地にビリオンの工場が出来れば、わたしたちはあなたと敵対することになります! そうなるのはイヤです! あなたもわたしたちと戦いたくはないでしょう!?]
「うるさいぞ! パトラー少将、お前が政府特殊軍の軍人なら騒ぎを鎮圧して来い!」
[連合政府の犬は下がれ! パトラー少将、私たちはあなたを信じて、――]
「パトラー、わたしの命令が聞こえないのか!」
[パトラー少将、わたしたちに正義を!]
私はどうすることも出来ずに、ただただ俯いているしかなかった。その時、ジェルクス将軍が私の前に立つ。
「皆さん、ここはまだ話し合いの場ではありません。そちらで代表の方を選出し、後日ここで話し合いということにしてください!」
ジェルクス将軍がそう言っている間に、他の兵士たちは私を守るようにして奥にあるテントの方へと連れて行く。私にはどうすることも出来なかった。それが悲しかった。




