第32話 脆い絆と固い絆
※前半はプロヴィテンス視点です。
※後半はバシメア視点です。
【ポート州 ポート本部 最高司令室】
ビリオン・ポート本部要塞の最深部にある大きな鋼色の扉が左右に開く。我らは広い部屋の奥に向かって歩く。
部屋の床は銀色。壁は灰色で天井は黒。まるでどこぞの国の王座を模して造られた奥行きがややある部屋。その部屋の左右には、整列したそれぞれ30体のバトル=パラディン。合計で60体もいる。
奥には鋼色の玉座。そこに君臨するのはビリオンの支配者にして若き連合政府リーダーの1人、コメット。我らは彼女の前で跪く。
「コメット閣下、申し訳ありません。全戦線で我が軍は敗北しました」
ここに来たのは俺とフリゲート、アクセラ、ギャラクシア、コスモネット、グレート、ログリム、リーグの九騎8人。そして、キャプテン・フィルド(ゴリアテが死んだから昇進決定だな)。
「ふぅん。お前たちはホント、役に立たないね」
「…………!」
なんだとコイツ。お前は実際に指揮を執ったことがないから戦いの難しさを知らんのだ。お前も一度戦場に立ちやがれ。
「お言葉ですが、我々は懸命に戦いました。しかし、バトル=アルファやバトル=ベータばかりでは勝てません」
「……口答え? それとも、言い訳? プロヴィテンス中将」
コメットの冷たいオレンジ色の瞳が俺を捉える。
「いえ、そんな」
「もういい。黙って。次の命令を下す」
コメットは無表情で命令を下していく。クソッ、政府特殊軍のサファティと比べてどっちの方が愚者かな! コイツの神経はどうかしている。まるで、人に対しての礼儀がなってない。
「プロヴィテンス、フリゲート。あなたたちはレーフェンス州へ」
またポート州南のレーフェンス州か。あそこの戦況もかなり泥沼化しているな。正直、兵力をもう少し分けて貰えないとキツイ。
「ギャラクシア、コスモネット。あなた達はフランツー州へ。グレート、ログリムはサフェルト州。アクセラ、リーグはグランド州。行け!」
コメットの話が終わると、俺らは部屋を出て行く。白色の光で明るい廊下には無数のロボットが歩いていた。バトル=アルファやバトル=コマンダー。バトル=アレスやバトル=アテナも無数に歩いている。
「コメットのヤツ、相変わらずの態度だな」
「お嬢様だからな、何でも自分の思い通りになると思い込んでやがる」
「今すぐ叩き出したいところだ」
「大体、何百万というロボットを製造しているのだから、その兵力を少しばかり分けやがれ」
「無駄無駄。全部ティトシティのティワード政府代表に送っているからな」
「クソッ、誰がこの大陸西方をカバーしていると思っているんだ!」
俺も諸将も不満だらけだった。ま、そりゃそうだろうな。あの態度を続けられたら不満だって溜まる。少なくとも俺らは精一杯やってるつもりだ。なのに、未だかつてお褒めの言葉を貰ったことはない。
クリストとバシメアは刎頸の友と呼ばれているが、アイツとは誰もそうなることはないだろうな。信頼はまず態度からだ、クソ女!
◆◇◆
【グランドシティ グランド防衛師団本部要塞】
グランド防衛師団本部の最高司令室にクリストが入ってくる。やや豪華な装飾が施された蒼い鎧に白いマントを纏ったまだ若い男だ。
「よう、バシメア。来てやったゼ。報酬はいくら貰えるんだ?」
クリストは笑みを浮かべながら言う。相変わらずの性格だ。こんなヤツだが、国際政府特殊軍の将軍。その身体能力は俺とさほど変わらない。
「報酬?」
「俺はゴリアテを討ち取ってユーを助けた。だから貸し一、だろ?」
「はッ、バカ言え。以前、ブレイン郡で俺はお前を救った。これで帳消しだ」
「……ああ、思い出したゼ」
俺とクリストはそんなたわいない会話をしながら最高司令室から出て行く。廊下には明るい陽射しが差し込んでいた。その空には白色の飛空艇。黒い連合軍の飛空艇はない。コイツが来てくれなかったら、今頃黒い飛空艇が何隻も浮かんでいたんだろうな。
「なぁ、今回の同時多発攻撃はどう思う?」
「んん……。コメットが本気でコスーム南東部の主要地域を制圧しようとしたんだろうな。俺はそう思うゼ」
まぁ、そんなところだろうな。これは一目瞭然。主要都市や要衝を抑え、あとはゆっくりと周辺地域を制圧するつもりだったんだろう。ただ、1つだけ疑問があった。
「今回は九騎ばっかだったな。本気で制圧したいのならアヴァナプタやプロパネのような七将軍を使えばいいだろうに。そう思わぬか?」
「……今回の首謀者コメットは、自分と同等の人間を嫌っている節があるからな」
人間嫌いのコメット。アヴァナプタら七将軍と彼女は同等の立場だ。なるほど、下の人間は使いやすいもんな。
しばらく廊下を歩いていたが、やがて俺とクリストは個室に入る。ベッドと机、タンスなどの小さな小物がいくつかあるだけの質素な部屋だ。
「……なぁ、“パトフォー”って知ってるか?」
「戦争の黒幕。もちろん知ってるゼ」
俺は個室にいるにも関わらず、声を潜める。ちょっと危ない情報だからな。ファンタジア一族の現当主サファティの彼氏が誰なのかを探るぐらい危ないからな。
「やはりパトフォーはティワードの親分だそうだ」
「そいつが親玉か。ってことはいくら機械兵を倒しても、戦果が上がるだけで戦争は終わらねぇと」
「そうなるな。いつか、俺らも討死しかねん」
「……オケー。パトフォーのことは密かに探ろう」
「気をつけろ、友よ。ヤバくなったら俺を呼べ。それと――」
俺はクリストの耳元でぼそっと言った。
「――サファティの彼氏が誰なのかも探っとけ」
「……オケー」
【ファンタジア当主の恋】
強大な力を持つファンタジア一族。彼らをまとめるのがサファティ=ファンタジアである。彼女には密かに想う恋人が存在する。
サファティは彼の心からの愛情を欲している。故に強大なファンタジアの権力を用いて己のものにしようとは考えないのである。
※サファティの恋人の話はもう出てきません。




