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黒い夢と白い夢Ⅱ ――動乱の人心――  作者: 葉都菜・創作クラブ
第1章 友情の真価 ――ポート平原――
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第2話 立派なタテマエと

※後半はパトラー視点です。

 【連合政府首都ティトシティ 最高司令室】


 薄暗いわたしの部屋。不気味な青色の光を放つ大きな机型をした立体映像投影台に、男の立体映像が映し出されていた。黒いフードを被り、黒いサングラスをした男。連合政府の黒幕パトフォー閣下だ。


[連合政府リーダーの1人、アヴァナプタが捕えられたそうだな]

「はい、閣下」


 わたしはその大きな立体映像の前にひざまずきながら言う。世界を統治してきた国際政府に反乱を起こしたのが我ら連合政府。リーダーは全員でわたしを含めて17名いる(その内、4名はすでに連合政府を去ったのだが)。


[彼女が連合政府内の情報を喋れば、我々は危うくなる]

「分かっております。すでに救出作戦は考えております」

[……そうか。失敗したときは分かっているな?]

「はっ……。責任を取ってわたしの命を閣下に差し出しましょう」


 パトフォー閣下の立体映像は消えると、入れ替わるようにして別の立体映像が表示される。今度は1人の若い女性が映し出される。黒い装甲服に白いマントを纏った女性。連合軍少将のコマンダー・アレイシアだ。


「コマンダー・アレイシア、お前は直ちにポートシティに向かえ。捕えられたアヴァナプタ将軍を助け出すのだ」

[はい、ティワード政府代表]

「万が一、救出が難しいのであれば――」


 わたしは少し迷う。アヴァナプタは連合軍リーダーの1人かつ、5人しかいない将軍の1人だ。貴重な人材なのだが……。


「――殺せ」

[……イエッサー]


 我らの内部情報がバレるよりマシだ――。



◆◇◆



 【商業都市ポートシティ ポート保安師団本部】


 アヴァナプタを捕えた私たちはポートシティの警備軍本部要塞まで戻ってきた。すでに政府首都グリードシティに連絡を入れ、護送の艦隊の派遣を求めた。

 大型飛空艇3隻と中型飛空艇15隻からなる大規模艦隊だ。艦隊の規模が大きい為、準備に時間がかかるらしい。

 ここまで艦隊の規模が大きいのは実は以前、連合軍七将軍の1人であるケイレイトを捕えた時、奪い返された事があるからだ。今度はそれを避けたかった。


「あー、パトラー少将」

「ん? なに?」


 私にポートシティ警備軍に所属する将校の男性が近寄ってくる。


「連合政府リーダーの1人、コメットが来ておりますが……」

「……えっ!!?」


 私は驚いてつい大きな声を上げてしまう。コメットは連合政府リーダーの1人だ。連合政府に加盟する9組織の1つ――軍事企業「ビリオン」の総帥でもある。それがなぜここに……?


「連合政府から離脱して、国際政府に加わりたいと言っておりまして……」

「わ、分かった。すぐに行くよ」


 私は彼にそう言うと、急いで部屋から出てコメットの待つ部屋へと急ぐ。もし、ビリオンが連合軍から離脱すれば、彼らに大きな衝撃を与えられるハズ。これは何としてでもコメットをこちらサイドに引き込まないと……!



 【ポート保安師団本部 応接室】


 応接室では1人の女性が私を待っていた。ビリオンのリーダー――コメットだ。ピンク色の髪の毛にオレンジ色の瞳をしたまだ若い女性。今は亡き父親の跡を継いでビリオンのリーダーとなったらしい。


「初めまして、ビリオンの総帥コメットです。本日は国際政府に加わりたいと思いまして、参りました」


 コメットは静かな声で言う。


「私は国際政府特殊軍の少将パトラーです。さっそくですけど、私たちに加わりたいというのは本当ですか?」

「はい、パトラー少将。私たちの製造したバトル=アルファやその他の軍用兵器が何の罪もない人々を殺していくのを見ていられないのです」

「…………」


 私は慎重に彼女の話を聞いていた。もしかしたら偽って降参してきたのかも知れない。もし、そうだったら大変な事になる。でも、本当ならこれほど嬉しいことはめったにない。「ビリオン」が連合政府を離脱すれば、連合政府の力は大きく失われる。


「しかし、連合軍主要兵器のバトル=アルファ製造に関わったビリオンが降伏とは信じられないですけど……。降伏理由は本当ですか?」

「ええ、もちろん……」

「もう『ラグナロク大戦』が勃発して2年以上になりますけど……。そもそも、連合政府から離脱するチャンスはこれまで何度もあったのではないですか?」

「…………」


 コメットは黙り込んでしまう。やっぱりウソの降伏だろうか? 私がそう考え出した時、彼女はぎゅっと拳を握る。そして、いきなり私に飛びついてきた!


「ちょ、ちょっと!」

「助けて下さい!」

「は、はッ!?」


 コメットは私を押し倒し、抱き付きながら叫ぶように言う。その身体の震えはますます大きくなっている。


「私はまだ死にたくないんです! お願いですから助けて下さいっ!」

「お、落ち着いて……!」

「私は殺された連合政府リーダー・ララーベルのようにはなりたくないッ! 死にたくないッ! 助けて!!」

「…………!」


 そう、か……。私はなぜ彼女がいきなり降伏を言って来たのかようやく理解した。市民が死ぬのを見ていられない、というのはタテマエ。ホンネは自己保身だ。

 ララーベルは約半月前、無数の護衛ロボットを付けていたのにも関わらず、無残に殺された。連合政府リーダーの1人が惨殺された。このことはすでに世界中が知っていた。

 コメットは次は自分かも知れないという恐怖からここにやってきたんだと思う。連合軍の主要兵器は全てロボット。その開発と製造を担っている組織なのだから次は自分が狙われると考えたんだろう。


「……分かりました」


 こんなヤツの降伏を認めるのも何だか複雑な感じがするけど、放っぽり出すワケにもいかないので、私はそう言った。話す前とは違って、もういい気分はしなかった。

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