第21話 パトラーの夢
※パトラー視点です。
私は後ろを振り返る。そこにいたのは紫色の服を着たピエロ、マディアンだ。なんでこのピエロはここに!? どうやって入ったんだ!?
「村は封鎖したのに……!?」
「ん~、ボクを甘く見ちゃイヤんよ。空間あればボクはどこにでも行けちゃうんだからね~」
「クッ……!」
でも、敵はマディアンだけだった。海賊は誰もいない。変なピエロ1体だけなら私にも勝機はある。おかしな道化師に政府特殊軍の少将が負けるか!
「来い、ピエロ」
「やだなぁ、ボクを甘く見てるでしょ~?」
「…………」
「じゃこうしよう。ボクは1回でもダメージを与えられたら即刻この村から出て行く。オケー?」
コイツ、私をナメてるのか? いくら私が木の槍しか持ってないからって油断しすぎ。ピエロは知らないだろうが、槍の使い方もフィルドさんに教わってる!
私は先端を突き出し、一気に飛びかかる。マディアンは相変わらずの表情で私を見ている。なぜか1歩も動かない。この調子だとお腹に刺さるぞ!?
「女の子は好きだよ~」
余裕をぶちかますマディアンのお腹に私の槍が刺さる……? いや、刺さる直前、彼の姿が消え、私はそのまま地面に滑り込むようにして倒れる。は!? なんでッ!?
その時、私はすぐ横に人影があるのに気がついた。すぐ側にいるのはマディアン。すかさず槍を振り回す。だが、槍がマディアンに当たると同時に彼の姿は消える。一瞬にして。
「ど、どうなってる……?」
気がつけばマディアンは私の目線の先にいた。私は彼に向かって槍を投げる。槍が彼に刺さると同時にその姿は消滅する。
彼の姿が消えたと同時に、私は後ろから誰かに抱き着かれる。抱き付いた男は、私の胸を服の上から激しく揉んでくる。
「なっ!? お前ッ!」
「柔らかいね」
「だ、黙れッ!」
私はかかとで彼の脛を蹴りつけようとする。だが、当たる瞬間、彼の実体は消える。それでも、体にはなんだか彼の感触が残っていた。
身体に抱き着き、胸を揉めたという事はアレは実体だ。決して幻術とかを使ってるワケじゃなさそう。あの能力は一体……?
「どうだった? 服の上からじゃ感じなかったかな?」
「ふざけるのも大概にしろ!」
どこかに姿を消したマディアンに向かって私は叫ぶようにして言う。アイツ、どこに行った……? 私は周囲を注意深く見るが、彼の姿はどこにもなかった。
「ふざけちゃダメかな? ま、ボクは真面目にやってもいいんだけどね」
その声が聞こえてきた瞬間、私は背中に強い衝撃を受け、前に吹き飛ばされる。後ろを振り返ればそこには怪しげなピエロ・マディアン……
彼は片手に銀色の棒に先端には黄色の星を付けたスティックを持っていた。まさか、さっきのは衝撃弾……?
「これは魔法発生装置を内蔵したマジックロッド。ボクの愛用の武器さ」
「クッ……!」
「君はボクを甘く見てたようだけど、意外なことが多かったね~」
あのピエロの能力や使用武器は全部予測外だった。瞬間移動もあのマジックロッドのせいだろうか? 空間魔法を使えるのかも知れない。
「どうする? ボクに降伏する? ボクは優しいから生で胸揉ませてくれたら――」
マディアンは軽い口調で言うが、彼の体は後ろから突然吹き飛ばされる。吹き飛ばされる直前、衝撃弾が爆発したような音がした。
私は衝撃弾が飛んできた方を見る。そこにいたのはスタンロッド型の魔法発生装置を持ったファイズだった! 私は魔法発生装置をファイズに持たせていた。
「イテテ……」
「パトラー少将、大丈夫ですか!?」
ファイズが私に駆け寄ってくる。その服は至る所が土で汚れていた。海賊との戦闘はどうなったんだ……!?
「あらら、ダメージを受けちゃったか~」
私は素早く声のする方向を見る。マディアンが立ち上がっていた。場所はさっき吹き飛ばされた場所と同じだ。
私は彼の動きを睨みつけるようにして監視しながらファイズから残りエネルギーが僅かしかない魔法発生装置を受け取る。
「うん、ブラボー! 見事だよ! 不意打ちだけどね。でも、約束は約束だ。ボクは立ち去るよ」
相変わらずの口調で言うマディアン。彼がそう言った瞬間、森の方から飛空艇が動き出す音が聞こえてきた。見れば、海賊たちの飛空艇が浮かび上がり、逃げるようにして北の方へと飛んで行く。
「ブラッディも敗れたか。じゃ、ボクもこれで失礼するね」
「ま、待て!」
「パトラーちゃんとはまたどこかで会うような気がするよ~」
そう言うと、彼の姿は一瞬にして消滅した。キレイに跡形も残さずに消えていった。あの能力、あのマジックロッドと関係があるのだろうか……?
「か、簡単に去って行きましたね……」
「うん……」
意外な展開に、私はしばらく誰もいない広場を呆然と眺めていた。彼は何者だったんだ……? 辺りは静まり返り、風だけが吹いていた。
「パトラー少将!」
急に後ろから声をかけられる。振り返れば、戦闘部隊の若い男性を先頭に、大勢の人々がこっちに走り寄って来ていた。
「やりましたよ! わたしたち、海賊共を追い払ったんです!」
「ありがとうございます! これも全てパトラー少将のおかげです!」
私の周りに集まってきた若者たちはみんな次々にお礼を言う。……そっか、よかった。これでこの村は私がいなくなっても、もう大丈夫だ。ふと見ると、村長が歩み寄って来ていた。
「……すまない。わしの頭が固すぎたようです。申し訳ありませぬ。パトラー少将のおかげでこの村は助かりました」
「いえ、お礼は私ではなく、村を守った勇者たちに言って上げてください。私はほんの少し手を貸しただけで、海賊は村人が追い払ったのです。これで今後もこの地は大丈夫だと思います」
「戦いを教えて下さったのはパトラー少将です。あなたがこの地にこなければ、今頃は明日の生活に悩んでいたでしょう。本当にありがとうございます」
その時、空から何機かの白いガンシップが降りてきた。私を迎えに来た政府軍のガンシップだ。私はこの戦いが始まる前、私の軍に報告を入れていた。ようやく来たか……。
「もう、行くのですか……?」
「ええ……。世界の幸せを奪おうとする強大な敵からみなさんをお守りしなくてはなりませんから」
「……どうか気をつけてください。あなたなら世界を幸せに出来るハズです」
「必ず、そうしてみせます!」
私は村長やファイズ、命を懸けて村を守った勇者たちに素早い動きで敬礼する。それを見た彼らも同じように敬礼を返す。
私は明日も戦うだろう。世界を脅かし、平和と幸せを壊す者たちと。この戦いがいつまで続くのかは分からない。分からないこともいっぱいある。それでも、今日見た笑顔が世界中で見られれるようになるのなら、それは苦じゃない。
私も頑張ろう。いつか、世界に平和と自由を取り戻すんだ。それが私の夢だ――!
※省略しましたが、パトラーが村人に貸した武器(=デュランダルとかサブマシンガンとか)は村を去る時に返してもらいました。




