第19話 小さな村
※パトラー視点です。
雨が降りしきる中、しばらく歩いていると小さな村が見てきた。私はその村に向かって歩く。その村で通信機を借りて、本隊に連絡するつもりだった。
ところが、村に近づくと異様な光景が広がっていた。村のすぐ隣に灰色をした飛空艇がある。大きさは全長60メートルほど。全幅は15メートルほど。全高は20メートルほどかな? 細長いタイプの飛空艇だ。
「雨が降ってるぜ……」
「雨季ってのはイヤになるぜ」
村の出入り口で会話する数人の男を見ながらに私は村へと入って行く。あの男たちの服装はバラバラだが、汚れが目立つな。
村に入ると、ほとんどの人がいなかった。これぐらいの大きさなら人口は200人ほどはいそうだけどな……。
私は歩き続け、やがて村の中心の広場までやってきた。そこには村の村長と思われるそこそこ歳を取った男性と、彼の正面に5人の男性。服装は村の出入り口にいた男と似ている。
「いや、結構です……」
「ん~? ボクは好意で言ってるんだよ?」
「しかし、わたしらの村にそんなおカネは……」
「連合軍が攻めてきたら誰が守るの~? ふふふっ、みんな焼き尽くされちゃうよ~?」
「おカネが……」
「ん~、大丈夫さ。お財布が空になるかならないかの寸前まで出せばいいのさ」
道化師みたいな服装をした男性が1人。その顔には白くて怪しげな仮面。持ってるのは変な白い棒。先端には黄色の星まで付いてる。なんだアレは?
「例えば、後ろの海賊さんが今この村に攻めたら何もかも持ってかれちゃうよぉ~?」
「ええ、まぁ、そうですが、その……」
「ボクにかかれば、一瞬で彼らを片付けられるよ?」
そこまで言うとピエロは後ろの海賊たちの方を振り返る。
「海賊さん、海賊さん。君たちは何用でここにきたのかな?」
ピエロの言葉に赤いコートを纏ったいかにもリーダー風の海賊が進み出る。
「おお、俺らはここの住民共から食料とカネとその他諸々も頂きにきたのだ。いつ攻めようか考えておる」
「ん~、それは怖い怖い。住民からすればたまったモノじゃないね」
ピエロは軽い口調でそう言うと再び村長の方を向く。
「どーする~? この人たち、いつ攻めるか考えてるってさ~」
「は、はぁ……」
「ボクの話術にかかれば、この海賊を村から撤退させる事は簡単だよぉ~?」
「へっへっへ、俺もそう思うぜ。コイツの話を聞くと撤退したくなるんだ」
海賊のリーダーである若い男が言う。
「さぁ、どうする~?」
「し、しかし……」
「そろそろ攻め時かな?」
「まぁまぁ、そんなに慌てないで」
私はため息を付く。まぁ、そのまんまの状況だな。ピエロと海賊は仲間。海賊を使ってピエロが村長を脅し、カネを巻き上げようとしている。そんなところだな。
私は村長に近づき、剣を引き抜きながら言った。
「村長、無料の正規兵がここにいますよ」
「あ、あなたは?」
「政府軍人。お望みならピエロと海賊を村から放り出しましょうか?」
私はピエロと海賊たちを睨みつけながら言う。
「ん~? 女の子が正規兵?」
「服装はそれっぽいが、ホントがどうか怪しいな。ま、本物でも“なんちゃって軍人”かもな」
「そうだよね~。どうせ、名前だけーの政府軍人だろうね~」
明らかにバカにしたような口調で言って来るピエロと海賊リーダー。彼らの後ろに控える海賊たちもニヤニヤしながら私と村長を見ていた。
「村長さん、村長さん」
「は、はい」
「ボクを雇うか、おにゃにょ子を雇うか、明日までに決めてね」
「わ、分かりました……」
「コイツを雇わねぇ時は俺らの出番になるぜ? よぉ~く覚えときな」
ピエロと海賊たちはそう言うと、スピーダー・バイクに乗り、村から去って行った。残されたのは私と村長だけとなった。
「村長、さっきのはなんです?」
「ああ、彼らはブラッディ海賊団です……。船長はブラッディ。ピエロの方はマディアン。傭兵らしいです」
私と村長は広場の近くにあった家へと入る。家の中では1人の緑の髪の毛に赤い瞳をした少年が待っていた。年齢は14~15歳ほどかな?
「おじいちゃん、海賊はどうなったの?」
「ああ、今日は立ち去ったが、明日も来るらしい」
ふむ、連日来ているのか。ずいぶんと迷惑な連中だな。
私は村長に案内され、部屋の奥まで入れると、椅子に座る。部屋自体はそんなに大きくなく、あるものも質素だ。娯楽になりそうなものも少ない。
「私はパトラー=オイジュス。政府特殊軍の少将です」
「と、特殊軍の少将だったのですか! いや、服装から高位の政府軍人とは思っていましたが、いやはや……」
村長は驚いたような表情で言う。私ほど若いと確かになかなか信じて貰えない。私は20歳。同い年で少将というのはあまりいない。
「この村には警備軍はないのですか?」
「警備軍は比較的近いマーバスの郡都にあるのですが、ここにはめったに来ないです。いつ連合軍が攻めて来るか分からないので、郡都や重要な地に集められています」
……なるほど。それも仕方ないかも知れない。そうでもしないと連合軍の大軍を防げないのだろう。でも、その弊害がこういった所で……。
「で、明日はどうするんですか?」
「……マディアンを雇うつもりです」
「えっ? マディアンを? 私じゃなくて?」
村長の意外な言葉に私は驚く。なんで? まさか、マディアンと海賊連合の見え透いた策に気付かないなんてことはないだろうし……。私がそう思っていると、村長は言葉を返す。
「あなた様を雇いたいのは山々なのですが、相手はそこそこの数です。あなたを雇って死なれては……」
「…………!」
なるほど、確かにその通りだ。あの海賊の数は少しキツイ。私が1人で戦っても、逆に殺されるのがオチだろう。
「それよりも、――」
「…………?」
「――あなたは早く軍に戻り、この大戦を終わらせてください。そうすれば、またこの村にも警備軍が戻り、以前のような暮らしができるようになるでしょう」
「そ、そうですか……。分かり、…ました」
私は自分の無力さを噛み締めながら言葉を絞り出す。村長の言っていることは、全くその通りだった。――私はこの村を見捨て、ラグナロク大戦を終わらせなきゃいけない……。




