第1話 アヴァたん捕獲作戦
※パトラー視点です(冒頭除く)。
友情はいざというとき、自身が危うくなったときに証明されるだろう。
その友が自分を助けてくれるかどうかは、そのときにならないと分からない。
『私』はその昔、師であった男に裏切られた。
師は私を捨て、世界の安定を選んだ。
師は私を捨て、世界の繁栄を選んだ。
師は私を捨て、世界の平和を選んだ。
世界は架空の楽園を謳歌した。
世界は偽りの統治を享受した。
世界は歪みの是正を放置した。
そして、世界は歪みから現れた闇に血染められていった。
架空の楽園は『ラグナロク大戦』という戦乱の時代を迎え、終わりを告げた。
戦乱は私の弟子に悲惨な経験を与えようとしていた――。
【ポート州 ポート平原】
厚い雲に空は覆われ、どしゃ降りの雨が降り注ぐ今日この頃、私たちを乗せた小型飛空艇は広大な草原が広がるポート平原の隅っこに着陸した。すぐ近くには青々と茂る森が見える。
この前まで肌寒い日が続いていたのに、気がつけば春になっていた。4月に入ると、雨も多くなり、雷の日もあった。
「パトラー少将、ポートシティ警備軍のティーン中将がお待ちかねです」
「うん、了解!」
私は装甲服を着た部下のクロノスに声をかけられる。私は最近、少将の地位に昇格した。約半月ほど前、「国際政府」に対して反乱を起こした「連合政府」のリーダーの1人を追い詰めるのに成功したからだ。
私とクロノスは更に森の中へと入って行く。春になってさっそく茂り出した若葉が雨を防いでくれている。そんなに雨に当たらなくて済みそうだ。
「どうも、パトラー少将! ポート防衛師団のティーン中将です」
しばらく森の中へと入って行くと、坊主頭の大柄な男性を先頭にポートシティ警備軍の兵士たちが私を出迎える。ティーンはもう何十年もポートシティ警備軍に所属しているベテランの軍人だ。まだ20歳になったばかりの私とは大違い。
私たちは挨拶もそこそこにさっそく作戦会議を始める。今回は連合政府リーダーの1人かつ連合軍七将軍の1人でもあるアヴァナプタという女性軍人を捕える予定だ。
「連合軍は我らポート防衛師団を味方と信じ込んでいるから必ず成功する!」
作戦立案かつ責任者のティーン中将は自信満々に言う。茶色をした純粋な瞳は真っ直ぐ私を見ていた。かなり自信があるらしい。
「作戦の変更なしっ! ではでは、解散としよう! 連合の軍勢が来るまで、各自きゅーけいっ!」
作戦会議らしいことは結局ほとんどやらずに終わった。ティーン中将はその場で持参していた弁当を開け、食事を始めようとする。
「あー、ティーン中将、まずいです。連合軍の軍艦です」
クロノスが電子双眼鏡で空を見ながら言う。私も素早く同じものを目に当て、空を見る。厚い灰色の雲の中から1隻の黒い飛空艇が姿を現した。確かに連合軍の軍艦だ。
「なんだ、もう現れたのか! 休憩終わりっ! “アヴァたん捕獲作戦”を始めるぞ!」
ティーン中将は弁当箱に蓋をしてバッグの中に放り込むと、早くも動き出す(どうでもいいけど、リュックを背負ったら山男だな……)。
私たちは森の中から平原の方に姿を現す。平原では既に軍艦が着陸し、中から1メートルほど浮かんで進む戦車や人間型戦闘ロボット――バトル=アルファが出てきていた。
そして、その指揮を執るのはアヴァナプタ。蒼いボディスーツと同色の強化プラスチック製である装甲服に身を包み、手には槍を持っている。彼女が連合軍七将軍の1人で、今回のターゲット。
「ようよう、アヴァナプタ将軍!」
「…………! ティーンか。ポートシティの様子はどうなっている?」
「警備軍は全軍武装解除! 更に政府特殊軍の将軍を拘束中よ。名前は確かピューリタン」
「分かっている。今回はソイツの確認と処刑に来た」
アヴァナプタは口元を隠す青色のスカーフをつけたまま話す。黒髪に黒色の瞳をした彼女をおびき寄せる囮は政府特殊軍の将軍ピューリタンだった。ピューリタンが本物かどうか確認した後、処刑するつもりらしい。
私は連合軍の味方と思われているポート防衛師団の動きを見る。アチコチ素早く走り回っている。普通に見れば怪しいが、連合軍の兵士は全員、知能の低い機械の兵士。誰も気に留めない。
「ピューリタンの処刑が終われば、ポート防衛師団は晴れて私たちの仲間だ。よかったな」
「いやぁ、ホントに光栄な事です! ガハハハハハ」
ティーン中将は大口を開けて盛大に笑う。その後はしばらく雑談だった。ティーン中将が次々と話題を出し、アヴァナプタはそれに応える。もちろん、時間稼ぎの一環。
私はチラリと周りを見る。ポート防衛師団の兵士達が一斉に集まり出していた。彼らはアヴァナプタに気がつかれないよう、ゆっくりと、大きく2人を囲んでいく。それが出来たところで、ティーン中将は言った。
「なぁ、連合政府内で裏切りにあったケイレイト将軍はどうなったんだ?」
「ん? 今療養中だが……? だいぶよくなったと聞いたが……」
「うむうむ、そうかそうか。安心しなされ」
「は……?」
ティーン中将は素早くアヴァナプタから離れる。そこでようやくアヴァナプタは周りを見私、自分が置かれている状況を理解した。
「…………!? あんたたち、謀ったな……!」
アヴナァプタは懐から2本の扇子を取り出す。それを両手に広げると、戦闘体勢に入る。聞いた話じゃアレは鉄製で鋭い刃になっているらしい。
「ガハハハ! 作戦はほぼ成功! 愉快愉快!」
「だ、黙れ!」
明らかに動揺しているアヴァナプタは青いマントを脱ぎ捨て、右腕に付けた通信機で部下に連絡を取ろうとする。だが、何度呼びかけても、彼女の部下は応じない。次第に語気を荒くしながら叫ぶように喋り出す。
「まぁまぁ、お主の部下はアレだ。シャットダウンしたった!」
「は、はぁ!?」
実はさっきの時間稼ぎはこの為だった。彼女の部下は1人残らず機械の兵士。全てをシャットダウンするための時間だった。
アヴァナプタは怒りの声と共にティーンに飛びかかる。ティーン中将は素早く頑丈なライフルで彼女の鉄扇を防ぎ、片方の鉄扇は避ける。
「かかれ!」
私の合図と共に10人の兵士がアヴァナプタを目指して走り出す。アヴァナプタは強化プラスチックの白い装甲服をも斬り裂く鉄扇を使って、瞬く間に4人の兵士を斬り殺す。赤い鮮血が、蒼い鉄扇に付く。
ティーン中将が隙を突いて、ライフルの先っぽでアヴァナプタの鉄扇を1本弾き飛ばす。それは中を舞い、遠くに落ちる。
だが、アヴナァプタも負けていなかった。片方の鉄扇を弾かれても怯まずに、折りたたんだ鉄扇を彼の大きなお腹に突き刺した!
「ああ!」
「ティーン中将!」
「俺は生きとるわボケッ!」
お腹に小型の槍と化した鉄扇を突き刺されながらもティーン中将は踏み留まる。アヴァナプタは冷酷にも彼のお腹の中で鉄扇を素早く広げ、大きく斬り裂く。
さすがのティーン中将も苦痛に顔を歪めるが、それだけで終わらなかった。彼は懐からスタンロッドを取り出し、それで彼女を殴った!
激しい電撃を喰らった彼女はフラフラとティーン中将から距離を取る。その途端、ティーン中将は若草の生える地面に倒れ込む。
「クッ……!」
私はすぐにでもティーン中将の元に駆け寄りたかったが、彼が作ったチャンスを無駄には出来ない。魔法発生装置と呼ばれる特殊な装置を内蔵したスタンロッドを取り出し、未だに痺れの残る彼女目がけて小さな電撃弾を複数、飛ばす。黄色の電流を纏ったそれらは素早い動きで彼女を襲い、遂には気を失わせた。
「ティーン中将!」
私は彼に駆け寄り、声をかける。
「……おお、パト、ラー少将……。すまん、油断した……。相手が女性で、気を抜いとったわ……」
口とお腹からおびただしい量の流しながらティーン中将は言った。だが、それが最期の言葉だった。彼はそこで力尽き、命を失った。
ますます激しくなってきたどしゃ降りの中、“アヴァたん捕獲作戦”は終わった。だが、彼の命も同じく、終わりを迎えたのだった――。




