第17話 連合政府の支配者
※パトラー視点です。
【アレイシア城 最上階 コマンダー・アレイシア自室】
夜になった。私とコマンダー・アレイシアはまたアレイシア支部――アレイシア城の最上階に戻ってきた。この階には最高司令室と司令官の自室がある。部屋は割と広く、キッチンからお風呂場、トイレまであるらしい。
「さ、食べろ」
机の上に、皿に盛りつけられたスパゲティが並べられる。赤茶色のミートソースが乗ったスパゲティ。その上にチーズが振りかけられていた。
コマンダー・アレイシアはフォークを使い、淡々と食べていく。私もフォークを使って軽く混ぜると、その先端にくるくると巻き付けて口に運んでいく。
「……私のこと、まだ報告してないの?」
「もちろん。ティワードにバレたら面倒なことになるからな」
……“あれ”は本気らしい。彼女の中に連合政府への忠誠心はカケラもないようだ。かといって国際政府に協力する気もないらしい。
私もマグフェルトの独裁化に恐れを抱いている。それどころか、戦争を引き起こした張本人でないかと疑っている。戦争を起こし、自分の権力を一気に高め、世界を支配しようとしているんじゃないかと……。
「連合政府はどうやって倒すの?」
「簡単だ。連合政府首都ティトシティに乗り込んでティワードを刺せばいい。そして、メイン・コンピューターを乗っ取り、各地に散らばる将軍と連合のリーダー共を部下のバトル=アルファらに殺害させる。もちろん、付き従う軍人も一緒だ」
コマンダー・アレイシアはスパゲティを口に運びながら軽く言う。軽く言ってるけど、言ってることはかなりすごい内容だ。
連合政府首都ティトシティに乗り込んで、ティワードを殺す。これだけでも大変だ。それが成功したらメイン・コンピューター乗っ取って、将軍や連合政府リーダーを守るバトル=アルファに司令を送る。殺せ、と。
「その後は?」
「旧連合軍を率いてお前と一緒に国際政府を滅ぼす。マグフェルトやファンタジア一族を倒し、新しい時代を始める」
「…………。……ごめん、ちょっと信じられない」
「……なら手始めにアヴァナプタやプロパネを殺そうか?」
「あなたをどこまで信じていいのか、分からない」
「全部信じて欲しい」
その目は本気だった。本気で連合政府も国際政府も滅ぼす気だ。でも、……
「……パ、パトフォーって人、知ってる……?」
パトフォーは連合政府の真の支配者だ。ティワードを裏で操る男にして、戦争を引き起こした張本人。私たちは“パトフォーの正体はマグフェルト”という予測を立てていた。二大勢力を自由自在に操り、自分の権力を強め、独裁帝国を創ろうとしているんじゃないか、と思っている。
もし彼女がパトフォーの命令で私にさぐりを入れてるのなら、それに気付いた私はここから生きて出ることはないだろう。さっきまでの話も、私を油断させるための策ということになる。その可能性は十分にある。
「パトフォー? 聞いたことがあるな。連合政府の真の支配者と噂があるな」
「わ、私は、そのっ――」
「…………」
コマンダー・アレイシアは急に立ち上がる。私も慌てて立つ。全身からイヤな汗が流れ出る。ドキドキしすぎて自分の心臓の音が聞こえてきそうな気がした。
彼女は私の手を取ると、半ば強引に引っ張り、歩き出す。扉を開け、真っ暗な寝室に入る。そして、電気もつけずに、ベッドに押し倒される。
「な、なにっ?」
「…………」
私をベッドに押し倒すと、彼女もまたベッドに乗り、私と彼女を覆い隠すようにして布団を引っ張り上げる。大きくて肌触りのいい布団を使って私たちの身体を完全に隠すと、彼女は私をまた抱き締める。
「落ち着け。私のこと、まだ疑ってるんだな」
「…………」
「ここなら誰にも聞かれない。安心してくれ」
コマンダー・アレイシアは私の耳元でそっと言った。私は覚悟を決めた。この人ならたぶん大丈夫だ。パトフォーの命令で動いているんじゃない。
「私は、パトフォーとマグフェルトが同一人物じゃないかって思ってる……」
「…………」
「彼が連合政府に命令して戦争を引き起こし、国際政府内で法を変えていって、自分の権力を高めてると思ってるんだ」
「…………!」
私を抱き締める彼女の腕の力が急に強くなる。
「それは、考えてなかったな」
「私も信じれないけど、そんな気がするんだ……」
「もしそうならティワードを刺して終わりになるな。メイン・コンピューターを乗っ取れないかも知れない。いや、乗っ取って将軍とリーダーを殺すだけで終わりそうだ。次は私たちが殺される」
「…………!」
そっか、パトフォーならそれが出来るかも知れない。上手くいっても、将軍・リーダーを殺すまで。次はパトフォーの命令を受けたバトル=アルファたちが私たちを……。
「ありがとう。よく教えてくれた」
コマンダー・アレイシアは少し困惑気味に言った。彼女のセリフを思い返せば、パトフォーのことは一度も言っていないかった。たぶん、想定外の人間だったんだろう。
「……明日、レーフェンスに戻れ」
「えっ?」
「計画を見直す。お前は政府軍に戻り、なるべく人望を集めとけ」
彼女は私を抱き締めながら小さな声で言った。その身体は懐かしい感じがした。2年半前に行方不明になってしまったフィルドさんとよく似ている気がした。
私がアレイシア支部に来たのはレーフェンス侵攻を止める為だった。でも、そこで得たものは遥かに大きなものだった。
世界は複雑すぎる。色々なものが絡まり過ぎて、誰が味方か、誰が敵かも分からなくなっている。でも、ただ1つハッキリしていることがある。それは、パトフォーの黒い夢は確実に進んでいるということだ。




