第16話 叛意のクローン
※コマンダー・アレイシア視点です。
【アレイシア支部 最高司令室】
明るい陽射しが差し込むアレイシア最高司令室。私は戦術ロボットのバトル=アレスから被害報告を受けたところだった。
軍艦3隻が酷く損傷。バトル=アルファや武器・弾薬もかなり失われてしまった。もはやレーフェンスシティ攻撃は不可能だろう。
援軍を呼びたいのだが、他の将官たちも自身の軍勢を分けてくれるほど余裕のあるヤツはおらず、結局侵攻作戦は中止となった。
「……私をどうするつもり?」
私の側に立たされっぱなしのパトラーが口を開く。昨夜、気絶させて捕えた貴重な人材だ。気絶させた後、キャンセル・シールド張って命を助けた。
「大丈夫。お前を捕まえた事は報告してないからな」
「…………?」
私は不思議そうな表情をするパトラーの頭を撫でる。優しそうな、キレイな顔をしたヤツだな。抱き締めたくなる衝動を抑え、私は彼女の手を引いて最高司令室を出る。
陽射しが射し込む廊下を歩きながら、私はパトラーの手を握りながら言う。
「単刀直入に言うが、私の仲間にならないか?」
「……降伏しろと?」
「違う。連合政府の仲間じゃない。“私の”仲間にならないか?」
「……言ってる意味が分かんないよ」
そう、まさに。私の仲間になるということは連合政府に降伏し、加わるということだ。でも、私はそういう意味で言ってるんじゃない。……ワケ分かんないか。
「お前を、私の弟子にしたいんだ」
「……答えは言わなくても分かるよね?」
私とパトラーは階段を降りて行く。昨日の戦闘の跡が残っている。まだ少しだけ煙が残っているみたいだ。パトラーのお陰でアレイシア支部の一部が焼けたからな。
「私は21歳。ちょうどオリジナルのフィルドがお前を弟子にした年齢だ。私も弟子が欲しい」
「私があなたの弟子に?」
「そう……。私はフィルドのクローン――Fクローンだ。私のことをフィルドと思って弟子になって欲しいんだ。悪いようにはしない」
「テトラル本部で私をあんな目に合わせておきながら、そんなこと言うんだ?」
「アレは演出だ。ああすれば必ず上手くいくと思ってた。本気でお前の胸を切り落とすワケじゃない」
私は階段を降りると、狭い廊下を通ってトイレに入る。誰もいない事を確認すると、1つの個室にパトラーと共に入る。
「もし、連合政府がイヤなら、グランド・リーダーのティワードや、七将軍の1人であるアヴァナプタを殺してもいい」
「なっ……!?」
私はパトラーを便座に座らせ、耳元で小さな声で言った。パトラーの反応は当然の反応だろう。驚いた表情で私を見てくる。でも、私は本気だった。真っ直ぐと彼女を見つめる。
「国際政府・連合政府の双方を滅ぼして、私とお前だけの政府を新たに創らないか?」
「本気で言ってるの……?」
「もちろん。世界は一度、解体・再編されるべきなんだ。マグフェルトの独裁や政治腐敗の激しい国際政府と、利害や思惑が複雑に絡まり合った連合政府。どちらも市民を幸せにできない」
これは偽りのない言葉だった。私は本気でどちらが世界を取っても市民を幸せにすることは出来ないと思っていた。
国際政府はマグフェルトの独裁が進み過ぎた。アレは戦後も権力を持ち続ける。大方、戦争を利用して権力を増大させたのだろう。戦後は彼の帝国が新秩序となって世界を支配する。もしかしたら、マグフェルトの計画の内かもな。
連合政府は利権と思惑が絡み過ぎた。彼らの戦後世界は財閥連合を中心としたビリオンなどの大企業によって支配される。企業リーダーと幹部による貴族軍団が編制され、世界は貴族による統治を迎えるだろう。
「私は戦後の新世界は、お前に統治して貰いたい。お前なら出来る。……人を幸せにすることも、不幸にする事も」
「……国際政府だって出来る、ハズ……」
「マグフェルトに? 無理だな。“そういう流れ”になってる。お前なら薄々感じ取れてないか?」
パトラーは黙り込む。やはり、ある程度は気づいているんだな。まぁ、政府元老院内でも危機感を募らせる者もいるようだし、気がつくのはワケないか。もっとも、頭の悪い大多数の市民は気づいていないようだが。
「もし、お前が市民の幸福を優先する世界を創りたいのなら、私はそれに全力を尽くそう。自己の栄耀栄華を求める世界ならまたそれもよし」
「……あなたは連合政府の人間じゃないの?」
「連合政府少将の肩書きを持つだけ。心はそこにない」
連合政府に忠誠なんて誓った覚えはない。クラスタという女性軍人が連合軍の実権を握っていた頃はさておき、今はもう何もない。あるのは叛意だけだ。
クナやフィルストは連合政府をどう見ているのかは知らないが、叛意を抱いてることはないだろう。たぶん。
「あ、そうだ。こういうのはナシにしてくれ」
「…………?」
「私と一緒に国際政府もしくは連合政府に従う。これはナシな」
「なんで? 国際政府もダメ?」
「私は死んでも両政府には付きたくない。それに……」
私は一呼吸おいてから言う。
「両政府のどちらかが世界を取った時、お前はすでに殺されているか、殺されていなくてもすぐに処刑されるからだ」
「…………!?」
私はそう言うとパトラーの身体をぎゅっと抱き締める。少しだけ震えていた。怖がらせたかな? でも、間違いなくそうなる。国際政府は暴政を打ち砕く希望となるパトラーを生かすワケないだろう。
「れ、連合政府の罠……?」
「……信用がないな。でも、オリジナルよりもずっとずっと大切にしてやる。私の弟子としてお前を鍛える。その後は、私はお前の部下として、忠誠を果たす」
立たせると、私はまた彼女を抱き締める。これが“好き”というヤツだろうか。なんで彼女をこんなに想うのか分からない。オリジナルもそうだったのだろうか――?
【連合政府の変革とクラスタの側近たち】
連合政府が国際政府を滅ぼすのは時間の問題――。そう呼ばれたのは、今は昔。EF2011年の2月。連合政府は国際政府に対して分離・独立を唱え、事実上の反乱を勃発させた。そこから1年間、連合政府勢力は拡大を続けた。その先頭に立っていたのはクラスタという女性軍人だった。クラスタはコマンダー・シリカ、コマンダー・アレイシア、コマンダー・ライカの3人と共に、連合政府の軍勢を率い、一時は政府首都グリードシティを窺った。
だが、連合政府本部はクラスタの活躍と共に彼女の影響力が増大し続けるのを嫌い、策を用いて彼女を失脚させた。クラスタ失脚後、国際政府はようやく本格的な反撃に打って出た。パトラーがラグナロク大戦に参戦したのは、クラスタの失脚直後である。
クラスタのかつての側近(シリカ、アレイシア、ライカ)たちもバラバラとなった。シリカは投獄・拷問され、アレイシアは地方に左遷された。ライカは連合政府本部に日々媚びを売り、辛うじて連合政府中枢にいる。以上から、クラスタの影響力は完全に排除されたといえよう。
なお、クラスタは死んではおらず、今はパトラーによって保護されている。




