第10話 禁断の愛
※アヴァナプタ視点です。
【連合軍 ガンシップ】
暗いガンシップの中。窓からは月明かりが青白い光となって射し込んでくる。深夜2時くらいか? 扉と壁の向こう側にある運転席にはバトル=コマンダー2体とコマンダー・アレイシアがいる。“危ないか”?
私はガンシップの床に敷布団を敷いて寝転がるプロパネの唇に自身の唇を合わせる。
「……なにをしている?」
「黙って」
「周りにはバトル=アルファが」
「シャットダウン済みだ」
ガンシップ左右にある、運転席から機体後部の出入口まで伸びるベンチのような長い椅子にはそれぞれ15体ずつのバトル=アルファが座っている。合計で30体のバトル=アルファは全てシャットダウンしてある。
「……アヴァナプタ、やめろ」
「黙って」
私は彼の手を取り、そっと自身の服の中へと動かしていく。彼の手をすでに下着のない私の胸に触れさせる。
「……ティワードも我らの主――ホフェット様も許して下さらないぞ」
「でも、誰も見ていない」
「クローンに見つかる」
「見つかったら殺せばいい」
「なにを言って、――」
私は半ば強引に彼の服を脱がせていく。連合政府? 「バトル・ライン」? 知ったことか。私は命令を遂行するだけのバトル=アルファじゃない。感情のある人間なんだ!
プロパネの筋肉質な腕に抱かれ、私は彼のたくましい身体に身を任せる。月明かりに照らされた、2つの影が蠢く。荒い息と水音がガンシップ内に響き渡る。
*
私の生まれた故郷――南方大陸は国際政府によって統治された中央大陸とは異なり、複数の国々が覇権を巡って争いを続けていた。
南方大陸南東部の深いジャングルに覆われた地にはサキュバス族の王国――「サキュバス王国」。南方大陸西部の鉄鋼資源がとれる荒地には「ダーサ王国」。南方大陸北東部には閉鎖的な「サクラダ王国」。そして、南方大陸中央部には、国際政府の傀儡を受ける「アポカリプス王国」――。
国際政府は中央大陸だけじゃ飽き足らず、南方大陸の覇権さえも狙っていた。そのために、「アポカリプス王国」に命じて、西の「ダーサ王国」に侵略戦争をさせていた。そのせいで、ダーサ王国の領地は衰退していた。
「いやぁッ! ひぃッ!」
私は硬い土の道端で複数の男性――アポカリプス軍の兵士たちに犯される女性の姿を見ながら駆け足でその場を立ち去る。止めに入ったら自分も犯される。
アポカリプス王国の兵士たちは、占領した地域の住民に強盗や強姦を行っていた。戦いで傷ついた地域。その傷を抉るように、彼らはひどいことをし続ける。
「どけどけッ!」
土に汚れた大きな車が凄い速度で走り去って行く。乗っているのはアポカリプス王国の兵士たちだ。あの車は国際政府から購入した物だろう。
車から吐き出された煙に何度も咳をしながら私は歩く。目的地なんてない。親はダーサ王国に徴兵され、戦いで死んだ。私は1人ぼっちだった。14年間、その日その日を辛うじて過ごしてきた。
でも、ある日、それは遂に終わりを迎える――。
「もっと腰を振れ!」
後ろの男が裸の私に鞭を振り下ろす。背中に鋭い痛みが走る。私は“ダーサ王国”の兵士に犯されていた。軍人たちは、自分の国の人間にも容赦はなかった。そんなことはみんな知っている。ダーサ王国もアポカリプス王国も変わりはない。
道をゆく人々は誰も助けてくれなかった。今までの私と同じように、俯いて去って行く。止めれば、命を失うからだ。
「痛い痛い痛い……!」
快楽など生まれるハズもなく、私は痛みに堪えながら腰を動かす。涙と血だけが流れ出る。男は寝転がって息を荒げていた。
その時、数人の別の兵士が現れた。銃声。鞭を振るっていた男が地面に倒れる。私は男から引き離さる。彼も撃ち殺された。
「ぐッ……!」
背中と股から血を流す私の身体を誰かが抱き留める。同じ年齢の少年だった。彼こそがプロパネだった。
[軍曹。カイザス地区を制圧しました]
「……よし、ホフェット将軍に伝えろ」
[イエッサー]
迷彩色の機械兵士はその場を去って行く。この時、私はようやく彼以外、人間の兵士はおらず、全て機械の兵士なのだと知った。私はこの機械兵士の名称を後にバトル=アルファと知る。
反国際政府を掲げる武装組織「バトル・ライン」。そこに所属するプロパネ。私は彼に手当され、行く先もない私はそのままバトル・ラインに入った。
「アポカリプス王国を制圧しました」
バトル・ラインに入ってから3年後、私は中将となった。バトル・ラインは将校の人数が少なく、殉職も多かったため、一気に組織上層部の地位を得た。
プロパネと一緒にほぼ毎日を戦場で過ごし、多くの敵を葬ってきた。何人もの人間を暗殺し、戦闘では多くの人々を殺してきた。
「そうか、これでアポカリプス王国も制圧されたな」
プロパネが言った。ダーサ王国を滅ぼし、アポカリプス王国を滅ぼし、南方大陸の覇権は事実上、バトル・ラインのものとなった。覇権獲得の後、私とプロパネは将軍となった。ホフェットは将軍からバトル・ライン総帥を自称した。
でも、まだ終わりじゃない。長きに渡って続いた戦乱の原因は国際政府にある。国際政府は最初、ダーサ王国と手を結び、アポカリプス王国を侵略した。だが、ダーサ王国が言うことを聞かなくなると、今度はアポカリプス王国に与し、ダーサ王国を侵略した。
国際政府は戦乱末期、遂にアポカリプス王国への支援と称し、軍を派遣した。私たちは彼らを打ち破り、政府将軍を殺し、勝利を掴んだ。でも、国際政府は滅んでいない。いつか再び軍を送り込んでくるだろう――。
「利害は一致だ。共に国際政府を倒そうではないか」
連合政府のティワード政府代表はそう言った。私たちバトル・ラインは国際政府打倒のため、連合政府に加わり、国際政府と戦うこととなった。
黒色をした何十万というバトル=アルファ軍団を率いて戦う事となった。私とプロパネはその組織の七将軍となった。
でも、いくら中央大陸で連合政府の支配領域を増やし、国際政府を弱らせても、私は幸せには慣れなかった。むしろ、バトル・ライン時代の方が幸せだった。私はプロパネと引き離されて、心は寂しくなるばかりだった。
*
私の意識はたくましい彼の腕の中で次第に消えていく。この腕の中で眠るのは何ヶ月ぶりだろう? 彼さえいてくれるのなら、私は連合政府の地位なんていらない。バトル・ラインをクビになっても構わない。心からそう思った。
「……愛してる」
お互いがお互いを強く抱きしめ合う中、私の口からポツリとホンネが零れた。彼がいなくなるのなら、私は死んでもいい――。
※「サキュバス王国」と「サクラダ王国」は南方大陸の覇権奪取を狙っておらず、バトル・ラインもアポカリプス・国際政府との戦いで疲弊しきっていたので、彼らとは不可侵条約を結びました。なので、「サキュバス王国」と「サクラダ王国」は今も残っています。
※「サキュバス王国」については、『黒い夢と赤い夢Ⅰ ――魔女狩り――』をご覧ください。




