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ヘリオスの末裔  作者: まきの・えり


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       7

 私は、ゆっくりと学校に行く準備をしていた。早くできないことはないのに、友達のように、急ぎながら、ゆっくりと準備をした。お兄様の姿は見えなかった。もう行ってしまったのだろうか。

 教室に着くと、ざわざわしていた。

「スランプ大統領が……」

「高石首相が……」という声で騒めいているのだ。

 皆の脳裏に若くて背が高いスランプ大統領の姿が、若くて着物姿の高石首相が映っている。

 フレームの効果だ。驚くほどのことではない。

「朱音、昨日はありがとう」と啓子が言った。髪の毛が、髪の毛が、黒く輝いている……

「朱音」と真由と里中君が、顔を並べている……二匹のミーアキャットみたいに、顔がそっくりになっている……

「ありがとう」

 小橋君は、廊下でお兄様と話しているようだ。背が……お兄様と並んでいる。

 嘘だわ、と私は思う。そんなことはない。そんなはずはない。

 そんなことがある訳がない。

 何なの? なぜなの? どうしてなの? どういうことなの?

 彼らは、フレームに入っている……

 あの写真の入ったフレームを思い出す。

 何で写真をフレームに入れるんだろうとは思ったが、深く考えることはなかった。写真を永久保存するためだと思っていた。

 幸せを永久保存するように。

「山下さん、どうしたの?」と藤原加奈が私を心配そうに、覗き込んでいる。

「ううん。何でもない」と私は言った。

「大丈夫?」

 私は藤原加奈を、両手で撫でまわしたい気持ちだった。

 フレームに入っていない、藤原加奈。

 今は、まだ人間の藤原加奈。

「うん」

「起立」という声がして、私は立ち上がった。

「礼」という声がして、私は頭を下げた。

「着席」という声で、私は席に着いた。

 この意味のわからない一連の動作が、今日は安心に思えた。

 昨日と同じ動作が、安心……なのだろうか。

「今日は、皆さんにお伝えしたいことがあります」と教師が言った。

 担任の大石先生。まだ人間だ。

「ニュースを見た人は知っていると思うけど、二本はアマリカとの同盟を強化し、中東戦争に人衛隊を派遣することになりました。これは、人民党の暴挙であり、二本人として、絶対に認めることはできません……」

 高石先生の熱弁は、しばらく続き、皆は聞いているふりをして、ひそひそ話をしていた。先生の隣にいる、美しい女性に関心を奪われていたのだ。

「ま、政治の話はこれぐらいにして、転校生を紹介します。時枝祥子さん」

 フレームが、フレームがある……

「時枝祥子です」と女性が言うと、周囲が明るく輝いた。

 皆は、ぼうっとしていた。どう反応していいのか、わからないのだろう。

「まだ何もわかりませんが、どうぞよろしくお願いします」

「時枝さんは、小さい頃から病気がちで、小学校も休みがちだったそうだ。皆、仲良くしてくれ」

 小橋君と里中君、啓子と真由が拍手を始め、それがクラス全体に広がった。

「皆さん、暖かい拍手をありがとうございます」

 時枝祥子は、私の方にチラリと視線を走らせた。ゲ…… 

「席は、山下の後ろが開いてるな。山下、よろしくな」

「は、はい」ゲ。

 席に着くまで、時枝祥子の意識は、私に向かっていた。何で?

「山下さん、よろしくね」

「は、はい。こちらこそ」

 先生が教室から出て行くと、皆が時枝祥子の周りに集まって来た。

「時枝さんて、どこに住んでるの?」と小橋君が尋ねた。

「あの、山下村に」

 え~~~~~。山下村に~~~~!!! どこに~~~~?

 ふと、ミーアキャットの姿が脳裏に浮かんだ。

 まさか、まさか……ミーアキャットなの~~??

「ああ、山下さんちの温泉旅館にいるんだ」と里中君が言った。

「あそこ、いいよね」

「ええ、本当に、いいところです。お陰で、すっかり元気になれましたし」

「私も、また行きたい」と真由が言った。

「どういうこと?」

「どういうこと?」

「山下さんちの温泉旅館て?」

 皆が口々に話し、そして、私の方を見た。

「ずるい」と藤原加奈が言った。

「私も行きたい、山下さんち」

 その後、「私も」「俺も」「俺も」「私も」が永遠に続くかと思われた。

「じゃあ、俺が山下先輩に聞いて見る」と小橋君が言った。

「同じ野球部だし」

 きゃあああ、という歓声は、「静かに!」という倫理の杉本先生の声にさえぎられた。

「起立」という声がして、皆は慌てて席に戻った。





 


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