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「朱音~」と啓子が言った。
「え?!」と私は身構える。いったい、何?
「お腹空いてたから、ご飯食べちゃった~。温泉~、温泉のこと、忘れてた~」
「あ、私もだ」と真由も言った。
「俺も」「俺も」と里中君と小橋君も言う。
「腹いっぱい過ぎて、温泉は無理だな」と里中君。
「俺も無理っぽい」と小橋君。
そうなのか、と私は思う。温泉に入りたいということだったんだ。
「足湯ならいける」と私の口が勝手に喋った。
「着替えの心配も無いし」と口が喋る。
「足湯って、あの足だけ浸かるやつ~?」と啓子の目がキラキラしている。
「足湯だって~」と真由は里中君に言う。
「足湯か~。悪くねえな」と里中君。
タイミング良く、「足湯にご案内しますね」とお母さまが登場する。
皆が大きな部屋から出る直前に後ろを振り返ったら、部屋には何も残っていなかった……
部屋から数歩歩いたところに、足湯の場所があった。
いつから? と思ったけれど、「わあ、足湯だ」「足湯だ」と皆が靴下を脱いでいるので、私も靴下を脱いだ。
「気持ちいい~」と啓子と真由の声がハモる。足をバチャバチャやっている。
「俺達は、ちょっとメンドいぞ」と里中君が、制服のズボンをまくり上げる。小橋君もそれにならう。
私達は円形になって、足湯に浸かる格好になった。
「はい、こっちを向いて、コーヒー」とお兄さまがスマホのカメラを構える。
「コーヒー!」と五人でハモッた。カシャ。
「山下先輩も」小橋君。
「山下さまも」と啓子。
「あ、私が」と言おうとしたら、お母さまとミーアキャット軍団が登場し、お兄さまが五人の後ろで、中腰になり、ミーアキャットの集団も一緒に、スマホに納まった。
「コーヒー!!」
カシャ、カシャ、カシャ。
お兄さまは、スマホをお母さまに渡し、「可愛い~」「連れて帰りたい~」とミーアキャットを撫でまわしている四人を置いて、素早く車を玄関に着ける。
お母さまは、いつの間にか、写真を現像し、一枚ずつフレームで包んだものを四人に渡す。私にも、同じ物が渡される。
お兄さまは、駅まで全員を送っていくつもりだ。
「朱音~、またね~」
「山下さん、ありがとう」
「お世話になりました」
「さようなら~」
車が出て行くと、とたんに周囲が静まり返った。
ジャングルに戻ったんだ、と私は思い、フレームに入った写真を見た。
皆、笑っている。ミーアキャットまで笑っているように見える。
お兄さまも、私も、笑っていた。




