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歩いても、駅から10分もかからないのに、お兄様の車は、大雨の中、「わあ、すごーい!」とか「きゃー、綺麗~」という声を呼び起こすような場所を通って、皆が居眠りを始めるまで走り回っていた。
「さあ、到着しました」とお兄様が言って、一瞬の間に皆を起こして、荷物を持たせ、村の入り口に立たせた。
『歓迎 山下村温泉郷』という見たことのない大きなポーチができている。おまけに、ピカピカと光っている。
「うわ、可愛い!」と真由がしゃがみこんだ。ミーアキャットの行列だ。
「何匹いるんだ、1、2、3……」と里中君が数え始める。
「温泉がある~」と啓子が両手を胸元で握りしめて感激している。
古臭い建物には、『山下村温泉』と書かれている。
「いらっしゃいませ~」と同じ模様の入った着物を着た女性が三人出て来た。
「こちらに、どうぞ」と言っているのは、男性三人バージョンだ。
「朱音んちって、温泉旅館だったんだ」と啓子。
「う、うん」と私の歯切れは、やはり悪い。今の今まで知らなかったし。
それとなく探したが、ジャングルは影も形もない。遠くはお湯の煙で見えなくなっている。
学校からやっと帰ってきたと思ったら、まだ学校だったという感じだ。
「お帰りなさい」とお兄様そっくりのフレームの女性が登場する。私達の母親なのだろう。
「朱音のお友達ね。いらっしゃい。おなかがすいたでしょう?」
皆は、なぜか、えへへと笑う。おなかがすいていたらしい。
「今日は、広間の方に、ご飯を用意しましたからね」
上に上がって、広間の方に案内される。
「広い~」と私まで、皆と声を合わせてしまった。
広い部屋の入り口付近に、脚付きの大きなお膳が五つ……五つ……
「私達は、後でいただきますから」とお兄様とお母様らしきフレームは退場。
「山下先輩と一緒に食べたかったな……」と小橋君がつぶやいた。
「私も……けど、緊張して食べられなかったかも……」と啓子。
うわ、生魚の刺し身が大皿に。アサリのお吸い物。炊き込みご飯。焼いた魚に煮た野菜もある。
私がどうしようかとドギマギしていると、「こんなに食べられない」と真由が里中君のお膳に、刺し身以外を載せた。そういう手があったか、と思った瞬間、私のお膳の上から少しずつ食べ物が消え始めた。
食べているふりをしないと、と慌てて、ご飯と箸を手にする。
その間に、啓子は小橋君のお膳に、刺し身半分を載せた。
本当に食べたって、別にどうということもないのに、お兄様が気を利かしてくれたようだ。
「朱音って、見かけによらず、大食いだったのね」と啓子に言われてしまう。
「おなかがすいてたの……」と恥ずかしそうに言った。
「いいじゃん、いいじゃん。食べたいだけ食べたら」と真由の分も食べている里中君。
「あのさ、山下さん」と小橋君。
「お兄さん、野球部とか興味あるのかな?」
「さあ……」と言うしかない。お兄様のことはわからない。
「サッカーの方が好きとかは無いよね」
「さあ……」
「小橋い、朱音が困ってるじゃないの。あんた、ちょっとしつこいよ」と啓子が言ってくれた。
「いいじゃない、山下さまが何をやったって。山下さまは、山下さまよ」と啓子はぽうっとした顔をする。
その顔のまま、啓子は小橋君をにらむ。
「わかった、わかった」と小橋君が笑いながら言った。
なぜか、皆で爆笑した。真由なんか泣くほど笑っていた。私も笑っている。
私も、笑っている。
幸せ、ということばが浮かんだが、笑いの中に消えてしまった。




