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ヘリオスの末裔  作者: まきの・えり


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「お兄様、私、学校に行きたくないわ」と私は言った。行く理由がないし。

「お兄様と言うのは、よせと言っているだろう」

「だって、他にどう呼べばいいの」と言うと、お兄様は黙った。

『お前達というのは、やたら人間の真似をしたがる』とお兄様は、口に出さずにつぶやいた。

「お前達って?」

「フン」と言っただけで、お兄様は口をつぐんだ。

 私には、お兄様の考えは読めない。なぜだろう。


「ねえ、何の話? 何の話?」と里中君と小橋君が寄って来た。

「こっちの話よ、ねえ、朱音」と安田啓子が言った。

「う、うん」と私の歯切れは悪い。

「聞いて、聞いて」と山中真由は里中君に答える。真由は、里中君が好きだそうだ。

「朱音の育った村ってのが、電車で二駅ぐらいのとこにあるらしいんだけど、その村って、毎日晴れてるんだって」

「へえ、ハワイみたいじゃん。ハワイにもスコールて雨が降るらしいけど」と小橋君。

「ぜーんぜん、降らないんだってさ」

「私の知らない時に…」と私は、ぼそぼそと口の中でつぶやく。降っているかもしれない……

 男子は苦手だ、と私は思う。得体がしれないし。かと言って、女子が苦手でない訳ではないが。


 中学に入学した時、私は、途方にくれていた。一人でいる時より、一人ぼっちな気がした。

「山下さん」とその時話しかけてきたのが、同じクラスの安田啓子と山中真由だった。

「安田、山下、山中って、出席番号順なのよね」

「はい」と私。言っている意味がわからなかった。

 私の村?には、幼稚園や小学校がある。というか、子供がごたまぜの学校みたいなものがある。

 そこで、ことばを話す練習をしたり、身体をフレームに固定する練習をする。

 知識とかいうものは、あまり重要ではないらしい。

 私達は、全体で一つの意識があり、それが個々に分かれて行くだけだから、必要な物は全体の意識から引き出せばいい。

 でも、出席番号順という知識は、どこにも無かった。後で、あいうえお順に似たもので、中学校では、それを出席番号順と呼ぶことがわかり、全体の意識に収納された。

 お母さん、お父さん、お兄さん、お姉さん、妹、弟というのも、理解不能だったが、家族という概念が理解できると、完全にという訳ではないが、ほぼ理解することができた。

 こういうことを村の学校で教えておくべきだと思ったので、不完全な形だが、全体の意識に入れた。

 また、誰が誰を好きで、誰が誰を嫌い、というのも、不可解なことだったが、意識に入れておいた。

 一番不可解なことは、誰の知識量が一番多いかを競い合うというシステムだった。

 知識は共有するもので、競い合うようなものではないのに、あえて競い合ったり、競い合わせたりする意味がわからなかった。

 そのうち、「朱音すごーい!」とか、「山下、やったな」と言われるようになった。

 テストは満点しかとれないし、体育も言われたことは、完璧にできる。

 お兄様は、私よりも一年も早く同じ中学校に行っていたくせに、そういう後輩にとって必要なことは、全体の意識に入れていなかったようだ。必要だなどとは思わなかったのだろうか。

 同じ山下という名字で、同じ村出身なので、私達の知らない間に、「兄」と「妹」ということになってしまった。違うと言っても、どう訂正すればいいのかわからないので、「お兄様」と呼んでいるという訳だが、お兄様は迷惑そうだ。じゃあ、何とかしてくださいよ。

 女子達が、「キャー、山下さま~!!」と騒ぐので、「お兄さん」と呼ぶわけにもいかず、「お兄様」とお呼びしている。

 お兄様のフレームは、高さ180センチで、細型、顔は、昔の俳優をいじってすませた模様。

 私がどう見ても、キャーと驚く要素はみつからない。

 自分のフレームは、できるだけ目立たぬよう、目立たぬように作成した、中肉中背と言われるフレームだ。顔はどうでもよかったが、そうもいかず、昔の目立たない俳優を少しいじった。

 髪は、なぜか長くしたかった。いくらでも美しくできるので、美しい黒髪に。

「朱音の髪は、キレイよね~。長いのに、先も傷んでないし」と安田啓子が言った時、何か作成ミスが見つかったのか、と身構えたが、ただ褒めて羨んでいるだけだった。

「ほんとよね~」と山中真由も言い、他のクラスメートも寄ってきて、皆で私の髪を順番に触った。

 こういう場合、どういう反応をするべきかが分からず、私は、なされるがままだった。

 お兄様の髪も美しいはずだが、短いからか、男子だからか、お兄様が、私のような事態になることは、ないように思えた。


「朱音の村に行ってみようかっていう話」と山中真由が里中君に言った。

「えええ、いいの? 俺達も行っていい?」と里中文也。

「俺も入ってる訳?」と小橋俊。迷惑そうな感じだ。

 顔と名前は初日に全員覚えた。全員と言っても、女子18人、男子17人だけだ。もう一人、名前があるだけで、学校に来ていない子もいるらしい。

 クラスメートが村に来るなんて、内心まずいことになったような気がする。

『お兄様、どうしましょう?』と相談する。

『想定内だ。四人ぐらい何とかなる』と言われて、ホッとする。

『電話を入れておけ。何の連絡もなく、来客準備ができていたらおかしい』

『はい』

 私は、長方形の電話を取り出した。何と面倒くさいことだろう。

「もしもし、あ、私、朱音です。クラスの友達が遊びに来てもいいかな? 女の子が二人、男の子が二人。あ、ほんと?」と電話を切った。電話に出たのは、誰?

「いいって」と私は、無理に笑顔を作りながら、私を見つめている四人に言った。

「うおお、やったー!!」と小橋俊。あれ、迷惑そうじゃなかったっけ?

 里中君は、右手でこぶしを握っている。啓子と真由は抱き合っていた。

 私は、また、途方に暮れる。どういう風に振る舞えばいいのか…

 他の四人は、あっという間に、帰る準備を終えていた。



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