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闇夜の忍、無垢なる体を狙う

「……ふぅ……癒やされる……」


 一日の軍務が終わり、夜になった。リナムは久しぶりに、ゆったりと入浴していた。


(勢力が回復してきたとは言え……戦況は予断を許さない。ちょっと前までは普通にお風呂に入っていたのに……それがまるで嘘のよう)


『浮かない顔じゃん。特製の入浴剤でも入れてやろうか?』


「これはシュラ様。どうもありがとうございます。…………ええっ!?」


『やっと気付いたか! うちもご相伴にあずからせてもらうぜ!』


 ロキの特権で用意されたリナム専用の貸切風呂に、しれっとシュラが混ざっていた。

違和感を一切感じさせなかったのは、シュラの実力によるものか、はたまたリナムが疲れすぎて気が付けなかっただけか。


 とにかく、リナムがその存在を認識した時には既に、魔女は背後で寛いでいた。特別広い湯船でもない筈なのに、すぐ後ろに居る存在に気付けないという事もあるものだ。


「いつの間に……あれ? シュラ様が居るという事は、もしかして靖破様も……!?」


「呼んだかね。俺は脱衣所(ココ)に居るぞ」


「ひゃあっ!? あ……そ、そこでしたか。……よかった……」


『靖破ーー、覗いたらチ○○(ピーー)握り潰すからな』


「ちんっ……!? シュラ様っ! 女性がそんな直接的な言葉! 端ないですよ!」


『そうか? おーい靖破ー。どう思う?お前のチ○○(ピーー)って端ないのか?』


「知らん。興味ない。だが一つだけ言うなら、リナムの教育に悪いから喋るな」


 脱衣場との間にある、引戸の影にもたれ掛かっている靖破。彼は自分の局部がどうかなんて、まったく興味なかった。


『まぁいいや。取り敢えずリナム、背中向けろ。うちが流してやる』


「……ありがとうございます。ですが、ちょっと心配です。何時もみたいな力で、ゴシゴシしないでくださいね? 私、ちょっと肌弱いので……」


『……靖破ーー、うちの女子力が疑われてるぜ。どうするよ?』


「今更だな。それといちいち俺に確認するな。されたところでどうにも出来ん」


 面倒くさくなった靖破の返事は、とてもいい加減だった。

女の風呂は長いと聞くし、靖破としては早く済ましてほしいところだ。




「ぬはあぁぁ〜、気持ちが良いな〜。酷使した脳が蕩けてしまう」


「ハハハ、祝覧殿。本当におっさんみたいだな」


「今だけはおっさんでも構わん。ぬはあぁぁ〜〜天井のシミが、群雄割拠を描く地図のようだ。ロキ殿、國獲り合戦まっしぐらだぞ」


「普通そんな風に思わんだろ……。休む気があるのか?」


「英気を養うとはこういう事だ。これがわからんとは、若いな」


「とりあえず気持ち良けりゃいいんだよ。……ふぅぅ〜〜!」


 方や共同の大浴場では、実のところ女性陣より長風呂な漢達が駄弁っていた。

彼等は風呂から上がった後も、体ほぐし体操や夜風仁王立ち、筋肉自慢大会といった予定があり、やはり女性陣より長かった。


 女風呂に戻る。シュラはリナムの要望通り、繊細な肌を傷付けないように優しく洗い流していた。慣れた手付きから感じるに、事前に言わなくてもこうしてくれたであろう。


「あ、あの……シュラ様。もうそろそろ充分で……ひゃあっ!?」


 だが暫くして、その手付きにも厭らしい動きが混ざるようになった。

粘着質に色んなところを擦ったり揉んだり挿れたりしながら、「うん……うん……ぅへへ」と言っているあたり確信犯だ。


「…………魔女よ、まだかかるのか?」


『おっと、わりぃわりぃ。あまりに芸術点が高いもんだからよー。魔女としての血が騒いじまった。リナム、終わったぞ』


「ぁ……はぁ……はぃ。終わりましたかぁ……」


『……いけね。のぼせちまったな、こりゃ。靖破、上がるからどっかいけ』


 恥心・快感・熱気により、リナムの思考回路は昇天(ショート)。恍惚色に染まった彼女をぼやぁ〜とさせ、途中からなされるがままの状態を生んでいた。


 シュラはリナムを軽々と抱え、靖破の退いた脱衣場へ足早に戻った。


 一方漢湯では、筋肉自慢大会が開かれていた。


「いよっ! キレてますよー隊長! 足の筋肉に虎が宿ってる!」


「知恵と武勇の融合体! 計算されし筋肉! 祝覧将軍ーー!!」


「「フウウゥゥーーン!!」」ビシィッ!!


 広い大浴場ならではの、熱気ムンムン! 筋肉モリモリッ! な大会。

彼等は常に己を磨き続け、新たな団員を随時募集中だ。募集ポスターはロキと祝覧のマッチョポーズで異論無し。國外まで大好評まっしぐらだろう。




 漢湯の喧騒も遂には終わり、皆が寝静まった深夜。

シュラの「おもちゃ兼色んなツボ押しマッサージ」を受けたリナムは、有り得ないぐらい質の良い熟睡をしていた。


「………………」


 限りなく静かな動作で、人知れず窓が開く。換気程度の外気が室内へ流入するに合わせて、闇に紛れて忍び込む者がいた。

当然ながら靖破でもシュラでもない。黒衣に身を包んだ低身長の曲者だった。


 曲者は無防備なリナムの傍らに立ち、音も立てずに毛布を退かすと、袖に仕込んである刃を抜いて風を切るように振った。

次の瞬間、リナムの寝巻に縦の切れ目が入り、切られた衣服が刃の発する圧に押されて数センチずつ左右に開く。「芸術点が高い」と言われたリナムの裸体が露になった。


 曲者は舐めるようにリナムの裸体を眺め、彼女の乳房にそっと手を伸ばす。


「ぅ……ぅ……んぅ…………!」


 ゆっくりと撫でて張り具合を確認した曲者の指が、中心にある淡い桜色の蕾を刺激した事で、僅かに感じたリナムが眉根を寄せた。


 彼女の体が合格ラインにある事を把握した曲者は一度手を引き、今度は懐から小さな瓶のケースを取り出す。

中には得体の知れない虫が一匹。曲者はリナムの体の近くで蓋を開け、素早く裏返し、瓶の口をリナムのへその上に覆いかぶせた。


「ぅ……ぅんっ……! あぅ! うあぁんっ……!」


 虫は鋭い口でリナムのへそを抉り、生存本能に駆り立てられた猿の如き勢いで、健気な少女の体内へ侵入していく。

身悶えするリナムの体はビクン! ビクン! と痙攣を始め、強引に植え付けられた刺激的快感が、淡い桜色の蕾を膨らませる。衣服も更に乱れ、万人が欲情をそそる裸体が遠慮なく開帳された。


 そして侵されている当の本人は、凄まじい激痛に襲われている筈だが、苦しむような感じているような唸り声を発するだけで、全く目を覚まさなかった。曲者にとっては余計な作業が減って願ったりだろう。


「………………?」


 しかし、ここで異変が起こる。本来なら人間の体内に丸々侵入する筈の虫が、何故か半分ほど入ったところで急停止して、そのままゆっくりと出てきたのだ。


 曲者が暫くの間見ていても、虫は興味を無くしたようにウネウネと丸まり、危機を脱したリナムが荒い吐息を吐くだけ。


「………………!」


 このまま引き下がる訳にもいかない曲者が、どうするか黙考していると、突然リナムの体が眩い閃光を放ち曲者の目を暗ませた。ここで漸く、曲者は嵌められた事に気付く。


『アチャァァック!!』「っ……!?」


 天井裏から急転直下の一撃!! シュラの華麗な踵落としで、曲者の利き手が塵も残らず抹消された。ついでに言うとベットも半壊した。リナムの姿を模した幻影も消えている。


「…………! …………!?」


 壁を背に後退ろうとした曲者だが、その背後には既に、剣を抜いた靖破が構えていた。


『なぁーんか変な気配が混ざってんなぁー、と思ってたんだよ。さて黒子野郎。うちのリナムに何しようとしたか、全部吐いてもらおうか』


「今すぐ殺ってはいかんのか?」


『待て。殺るのは散々いたぶって口を割らせてからだ』


 シュラの生み出した幻影とは言え、リナムを辱めたこの曲者に、靖破は静かなる怒りを抱いていた。それこそ、首筋に突きつけた剣を迷いなく振ろうとする程に。


『魔女の拷問なめんなよ。正直に言った方が楽に死ねるぜ。……ついでに言うと、お前の後ろの奴も一切容赦ねぇからな。両手両足切り落とされて人豚になりたくなけりゃ、さっさと喋っちまいな』


 前門の魔女に、後門の猛虎とでも言うだろうか。リナムの寝所に忍び込んだ輩の末路としては、納得できる死地だろう。


 曲者も観念したのか、残された左手を上げようとする。


『そうそう、まずは手を上げてだな――!? ……ちっ、つまんねぇー死に方しやがった』


 降参の為に上げようとした手が、あろうことか自らの胸に向けられた。仕込み刀を抜き出すと同時に、である。


「……おい、魔女よ。こいつは女だぞ」


 倒れ伏した曲者を靖破が両断すると、黒衣の切れ間から体つきや無表情の顔が見て取れた。この曲者は、女だったのだ。


『……だろうな。可哀想な奴だ』


「知っていたのか。それは凄いな」


『途中から気付いただけだよ。手と爪の形や所作が、どう見ても女だったからな』


「……で、こいつは何がしたかったのだ? この虫をリナムの体に入れようとしていたが……これは寄生虫か? ……どうした、魔女よ」


『…………ありえねーんだよな。彼奴等は、うちと虎沖(コチュウ)が全滅させた筈なのに……』


(虎沖……剣合国(ケンゴウコク)二十七将軍の一人『第十四鎮鉄牙将・虎沖』の事か。だが、大虎創設者と、それによって封印された魔女が、いったい何を全滅させた)


「おい、魔女よ。何か答え――」


『だぁーもぉー! 黙ってろぃ! 珍しく考えてたのに全部吹っ飛んだわ! だいたい靖破お前! いつもうちの事を「魔女よ魔女よ魔女よ魔女よ」って呼びやがって! そんなに “よ” つけて呼ぶのが好きか! 十回連続で言ってみろ!』


「魔女魔女魔女魔女魔女魔女魔女魔女魔女魔女」


『“よ” って付けろよ! んで、うちの名は!?』


「魔女よ」


『ちぃぃがぁうぅわぁぁーー!!』


 シュラの怒号が城内に響く。せっかく漢湯の喧騒が終わって静かになったと思った矢先の騒ぎだ。眠れる常識人達には迷惑この上なかった。


 結局、この襲撃はロキの部屋で寝ていたリナムには知らされず、後日改めて、ロキと祝覧にだけ知らされた。




「……時に魔女よ。お前がリナムの幻影を閃光に変える頃合いだが、苦しみ悶える様を最後まで愉しんでなかったか?」


『なんのことかうちにはさっぱりだなー』


「目を逸らす上に棒読みまでしておきながら、あくまでも白を切るか。変態魔女め」


『自分の魔法がどれだけ敵を惑わせられるか、興味あるだろ?』


「……一理あるように聞こえるが、普段のお前なら拳が先に出る事を考えると、やはりわざと虐めただろう。風呂でもそうだ。あまり弄んでやるな」


『ブゥゥーーっだ。風呂での洗いっこぐらい許せよ。実体を詳しく知ってないと、精巧な幻影はつくれねぇんだぞ。甘美な声も聴いて録音(コピー)しておかないと、無反応なリナム見ても面白くな……あっ』


「……やれやれ。やはり愉しんでいた訳か。変態魔女め」


 靖破はシュラがただの魔女ではない事を改めて理解。それも良からぬ方向で理解した。


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