城内壊戦
「ロキ隊長が助け出されるまでの辛抱だ! 皆! 北鑑兵を撥ね返せェェ!!」
「「「オオオォォォッ!!!」」」
キクズナ率いる大虎兵三千は、殆どがルーベルズ家の兵士であった。
彼等はロキの救出を靖破等に任せ、押し寄せる于雲夏軍を相手に頑強な抵抗を示す。
「これ以上敵を増やす訳にはいかん! 無手の者まで討つのは気が引けるが、大虎兵は見境なく討ち果たせ!!」
「「「お任せオォォッ!!」」」
対する于雲夏は、臨戦態勢の整っている八千の北鑑兵を動員し、剛の気概を以て武力鎮圧を図った。
「副長! 敵の数が更に増えた模様! 奥から凄い速さで来ます!」
「長期戦になればなるほど此方が不利か。……少し下って戦線を縮める! 陣形を改めて手の空く者を作り、捕虜の解放を急がせろ! もたもたすれば救える仲間も救えなくなるぞ!!」
数と装備の質で攻めたてる于雲夏に対して、随時対応策を繰り出すキクズナ。
ロキ同様、彼も若くして指揮能力に長けた良将である。こと歩兵戦に関して言えば、ロキ以上に経験と才能があるかもしれない。
「鋭い……迷いが一切ないな。騎馬隊を出せ! 敵陣に楔を打ち込んで連携を乱すのだ!」
「騎馬が来る! 迎撃の兵は小路まで後退し、馬脚を止めて敵を討て! 人馬の死体で道を遮って物理的に止めろ!」
「搦手の数を増やせ! 敵の背後に道を作るのだ!」
「物見櫓から報告がきた。……中央予備兵百! 後ろに回って現場を死守しろ!」
「櫓の敵が邪魔だ。銃兵を向かわして撃ち合わせろ!」
「櫓に攻撃が集中しているか……。こちらも銃兵を増やせ! 奪った盾も持ってこい!」
于雲夏とキクズナの指示が激しく飛び交い、両軍の兵士達は具に応える。
今まで一対多数の勝負をしてきた靖破にとって、久方ぶりの戦らしい戦であった。
「靖破様。兄様はこの建物の最上階にいます。キクズナ達が奮戦しているうちに、一気に駆け上がりましょう」
「あぁ、そうだな。流石はルーベルズ家の兵士だ。不利な状況でもよく戦っている」
『……この中ももう、結構な数の奴らが殺りあってるな。ところで靖破。お前の得物砕けたけど、どう戦うんだ?』
「適当な剣を見つけてきた。この場凌ぎならこれで充分だ」
『ふぅーん。……つっても、屋内じゃうちの拳の方が良いだろ。うちが先陣を切ってやる。靖破はリナム抱えて付いて来い』
「わかった。だが、加減は間違えるなよ。暴れ過ぎて建物を壊しては洒落にならんからな。……リナム。君は暫くの間、俺に抱かれていろ」
「!? 靖破様いま何と仰――ああぁっ!!?」
靖破の直球な言葉を前に、年頃なリナムはあらぬ妄想をして大赤面した。
しかし当の靖破は、少女の純情なんのそので、小脇にリナムを抱き抱える。
「…………嫌だったかね?」
「ぁ、いや……ではなくてですね! その、あの……ありがとうございます!」
「ふむ……返り血が服に付いてしまったか。少しの辛抱だ。我慢してくれ」
「我慢なんてとんでもないです……その……あ、あの……靖破様」
『おーいお前らー。うちを置いて乳繰り合うな。うちも混ぜろ』
「ち、乳!? 申し訳ありませんっ! すぐに離れま――きゃっ!?」
「危ないから離れるな。少しだけ我慢してくれ」
「は……はぃぃ……!!」
不器用ながら真面目に対応してくれる靖破の逞しい胸筋と、何より顔が近い。そして自分で言っておきながら遊び相手のリナムを取られた事で拗ねるシュラの胸にも挟まれて、純情少女リナムは目をグルグルさせた。
確か自分は兄を助けに来た筈だと、使命を再認識するのに十秒ほどかかったという。
『よっし! んじゃまぁ……派手に行くぞーー!! ワチャアァァーー!!』
拳を鳴らせたシュラは、乱戦目掛けて元気に突撃した。
彼女は大虎兵の頭上を軽快に飛び越えて強引に割り込むや、北鑑兵を次々と殴り飛ばして瞬く間に道を作っていく。
粗野にして乱暴なやり方だが、器用な事に味方への巻き込みは殆ど無かった。
自ら先陣を受け持っただけあって、この手の戦い方に自信があったようだ。靖破が無頓着に刃を振るうより、確実かつ迅速である。
「にわかに心配したが、この分なら魔女に任せて問題あ――」
『だぁぁーもぉぉーー!! チマチマ倒すのめんどくせぇ! お前ら! 敵と味方に別れて一列に並びやがれ!!』
北鑑兵・大虎兵「「「えええぇぇぇぇーーー!!?」」」
「……前言撤回だ。嫌な予感がする」
『んなら靖破! 歯ァ食いしばって飛べ! 下からお前を蹴り上げて一気に登る!』
「…………やれやれ、気が短いにも程があるぞ。……リナム。舌を噛まないようにしていたまえ。おそらく魔女は容赦しまい」
『跳べぇぇぇぇーーー!!』
秒も待てずにシュラが迫る。靖破がジャンプする事前提で蹴り上げようとしている為、状況の読めない第三者が見れば仲間割れにも見えなくない。
「きゃあぁぁっ!?」
『わーはっはっは! いいぞ靖破号! そのまま突き破れぇ!!』
魔力を纏って身体防御力を高めた靖破なら、天井を突き破りながら階層を移動することなど朝飯前だ。宿主に紐付くシュラも、それに引き寄せられる形で急上昇する。「大虎流人間ロケット」とは、正にこれを言うだろう。
最上階 特別牢
「…………チッ、倒しても倒してもキリがない。俺の双剣があれば、もっと楽なんだが」
一方、最上階に囚われている筈のロキは、警備兵から奪った鈍ら刀一本を武器に、次々と現れる北鑑兵を返り討ちにしていた。
彼は騒動が起きると同時に、自力で拘束を破壊しており、本領発揮できない状況でありながら、猛虎たる様を示していた。
それは正に、リナムがバラガスを捕虜にしようとした時、靖破が懸念した通りの結果である。魔人にとって鎖の拘束など意味をなさないのだ。
「奴は手負いだ! 数の力で押し潰せ!」
「「「オオォォォ」」」
それでも北鑑兵は、物量によって押し勝とうと迫り来る。
ロキにとっても、貧しい装備でこの状況を切り抜けるのは苦しかった。
『わーはっはっはっはぁ!!』「きゃあぁぁーー!?」
「「「ォォ!! ……ォォ? おわぁぁぁっ!!?」」」
そんな時だった。下の階よりシュラの笑い声とリナムの悲鳴が届き、その一秒後には人間ロケットと化した靖破が床を突き破って現れ、北鑑兵を四散させる。
『いけねぇぇぇっ!! 加減間違えた! 戻れ戻れ!!』
ほんの一瞬だけロキの階層に現れた三人は、勢いが弱まる事なく天井から噴出。屋根を突き抜けて夜空に舞い上がった。
人間とは言えロケットなので、そのまま大気圏に突入しても意味的には間違いないが。
「…………なんだったんだ……今の? 心なしかリナムの声が聞こえたような気が……」
「兄様ぁぁぁぁっ!!?」
「ホントにリナムか!? お前いつの間にそんな熱血系に――うおっ!?」
やはりリナムの悲鳴が先に届き、その次に本人達が降り立つ。床を半壊させながら。
因みにどうやって下降したかだが、簡単な事である。急上昇する体に逆らって、建物の方へシュラが飛び蹴りをしたのだ。浮力とか反動とか、この格闘魔女には関係ない。
「……あっ! 兄様! 兄様ぁっ……!!」
「リナム!? 無茶な事を……だいたいお前、どうやってここに?」
「兄様! 兄様っ! 兄様ぁ……! 良かった! 本当に生きていた! よかった……!!」
「……心配をかけたな。すまなかった。俺なら大事ない」
抱きついたまま泣きじゃくるリナムの頭を、ロキは優しく撫でた。
なんとも美しい兄妹愛に、シュラはもとより靖破までもが、その涙の意味を理解した。
後はただ、この兄妹の邪魔をする虫ケラどもを排除するのみ。
『おぅおぅ! 感動の再開だ! 野次馬は引っ込んでな!』
「如何にも。外野は黙もらおうか」
わかっているよな? 空気読めよてめぇ等とばかりに、靖破とシュラの威圧が秒を追って大きくなる。
北鑑兵は圧倒的不利を本能で感じ取り、自ずから後退っていった。




