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強者相対! 得物砕く居合の一太刀

「敵襲ゥー! 敵襲ゥー! 敵襲ゥゥーー!! 捕虜収容所に二人の魔人が現れたぞーー!!」


 櫓の上にいる北鑑兵が、ガンガン! ガンガン! と警鐘を打ち鳴らす。

敵軍の占領下にあって静寂を極めた眞城には、その音が城内の隅々まで響き渡った。


 当然、本城の一室で休んでいた于雲夏と、藤原経清には伝わり、まだ起きていた二人は即座に得物を手にとる。


「ぬぅ……さては李嶷軍を壊滅させたという “大虎の牙” か。経清殿が出立する前に向こうから現れるとは、寧ろ都合が良い」


「于雲夏殿! 敵の侵入だとか! 私に出撃をお命じ下され!」


「経清殿、よくぞ言ってくれた。だが儂も出るぞ。敵は二人組のようだ。貴女だけでは危険が過ぎる」


「かたじけない。衛兵の準備もできておりますれば、今すぐ出撃しましょう!」


 執務室に勢いよく入ってきた経清と、于雲夏直属の精鋭兵。

彼等は即座に本城を出るや、捕虜収容所に向かって馬を走らせた。


 その頃、靖破とシュラは、睡眠を邪魔されてヤクザチックに豹変した北鑑兵を粗方蹴散らし、城内の各所から駆けつける新手の警備兵を相手にしていた。


「ふむ……図らずしも敵の注目は俺達に集まっているようだな。これならリナムの方は問題ないだろう。魔女よ、このまま暴れるぞ」


『よっし! どんと来やがれ雑魚どもが! この蒼髪の魔女様がとことん可愛がってやる!』


 倒壊した兵舎は既に死屍累々の有様につき、瓦礫と肉塊が重なって山を成していた。

勇むシュラと靖破は、ここにさらなる屍山血河を築くつもりである。


「大虎の牙! 覚悟っ!!」


「!!――ふんっ……!」


 何時も通りにひたすら報復する靖破の頭上から、不意に威勢が轟いた。

久方ぶりに肌で感じる覇気。下手をすれば李嶷やバラガス、バルチャーよりも強さを持ち合わせている者の気配だ。


 次の瞬間には靖破の方天戟と業物の太刀が激突し、魔力がぶつかる事で生じる銀色の火花が派手に舞い、辺り一面を衝撃波が吹き飛ばす。


『へぇ……敵にも中々と殺る奴がいるじゃねぇか』


 風に揺られる蒼髪を抑えながら、平然と立つシュラは不敵に笑う。片や普通の人間である北鑑兵達は、体勢を崩した者から次々と飛ばされた。


「……驚く。その若さで貴様はもう、大国の主将に匹敵する強さを身につけている。何者だ? 北鑑の女魔人に、太刀を扱う者など聞いた試しがないぞ」


 大国北鑑ともなれば、女の魔人将軍が二人いる。軍総司令官のフルバスディと、南方軍所属のマリュウだ。


 しかし経清は流れ者ゆえに、靖破はその存在を知らなかった。

両者は互いに距離を取り、改めて対峙する。


「私は奥州藤原氏が一門、藤原経清! 貴殿は “大虎の牙” 靖破とお見受け致す。いざ、尋常に勝負願おう!」


「奥州藤原氏…………ジオ・ゼアイ・アールアの世界統一戦争に尽力した、藤原秀郷の末裔か。……なるほど。時の覇者に造反した輩を討つ専門家として、大虎を見過ごせぬという訳か。抜け目のない一族だ」


「……色々と勘違いしている様だが、私が北鑑に力を貸すのは、あくまでも個人的な恩義に報いる為。一族の命令ではない」


「ならば一門を語らんことだな。今の名乗りでは、さも藤原氏が北鑑に味方しているように聞こえるぞ」


「……それは以後気をつけよう。だが! 貴殿に次はなく、今ここで討てば前言撤回も同じ。禍々しき白髪鬼は、この経清が討つ!」


「……望むところだ……! 行くぞっ……!」


 話し合いなど、もとより無用。方天戟を構え直した靖破は、骨のある武人との勝負に血の気が乗った。その顔に、邪なる笑みを浮かべて。


『……んじゃ、うちはあんたらの相手をしてやるか。来い来い!』


 妖艶な微笑とともに人差し指で手招きするシュラは、一足遅れて到着した于雲夏直下の精鋭部隊を挑発する。

ここに両軍を代表する者同士が相対した。


 地力で勝る靖破に対して、人並み外れた反射神経からくる俊敏な動きと巧みな剣術で、実力の不足分を補う経清。

数と連携を以て、型破りな戦闘力を誇るシュラを抑える于雲夏隊。


 どちらの戦いも戦場の華であったが、それでもやはり、靖破と経清の魔人同士の一騎討ちは一際目を見張るものがあった。

経清の太刀からは地を裂く斬撃が繰り出され、靖破の方天戟からは蒼き真空刃が放たれる。それが壮絶にぶつかる度に、魔力爆発を引き起こして銀色の火花を散らすのだ。


(昔はともあれ、今は調停者気取りの藤原に、骨のある武人はもういないと思っていたが……これ程の剛の者がいたか。女でなければ、一族において重きを成す人物になっただろう。惜しいな)


(大虎の重鎮靖家。それの次期当主という男が壮年の風貌だったのは意外だが、格式に相応しい武勇は納得だ。今はまだ、私に興味をもって遊んでいるという感じだろう。……長期戦ともなれば、私が不利に陥る事は間違いない。ならばっ!)


 互いに中距離の間合いを得意としている両者だが、短期戦こそ勝利の鍵と見た経清が思い切って仕掛ける事を決めた。

業物の太刀を鞘に収めるや、深く腰を屈めて全身に魔力を纏い、より強い威圧感を放つ。

この間わずか二秒なれど、洗練された迷いのない所作からは一縷の隙も見られず、寧ろ一秒すら感じられない程に鋭い構えだった。


「抜刀術奥義……武松地走り!!」


 魔力で身体能力を上昇させた経清は、一瞬で間合いを詰めた。

靖破の懐深くまで入り込み、零距離から抜刀して目前の空間を大地ごと抉り飛ばす。


 さすがの靖破もこれには焦り、寸前のところで防御に成功するが、相手を空間ごと炸裂させる威力の奥義である。魔力を込めて強化している方天戟でさえ耐えきれずに湾曲し、靖破自身は大きく弾き飛ばされて二つの建物を貫通した後に、三つ目の建物の壁に叩きつけせられて停止した。


『ちょっ――おぉーーぃ!?』


 そうなるとかなりの距離を飛ばされた靖破に追随する形で、宿主に紐付くシュラも強制移動を余儀なくされる。


(……手応え――)


ゴチン!!「はぎゃァァ!!?」『ぃたぁっ!?』


 于雲夏隊と戦闘中であろうがなかろうが、高速低空移動の途中に格好つけた経清の後頭部があろうがなかろうが、関係なく一直線だ。


 二人の戦乙女はけっこう派手な音を立てて頭をぶつけていた。


『……あぁーもぉー、いってぇなぁ……! やい靖破! 女だからって油断してんじゃねぇよ! うちまで巻き添えくらったじゃねぇか!! この木偶坊!!』


「……普通にすまん。久方ぶりの強者に、少々浮かれていた」


「ぴぎゃぁぁぁ……!? 頭が……割れて……割れて……ないよな!? 私っ! どうなんだ私っ!」


「経清殿! 大事ないか!?」


「于雲夏殿ぉぉ……! 私の頭……あ、穴とか空いてませんよね!? すごい痛かったです!?」


「穴はないが……そりゃ痛かろう。大きな音だったからな」


 頭を抱えるだけで脳震盪の一つも起きてないところが、なんというかまぁ凄いな……と、于雲夏は思った。


『……靖破。おめぇ、その武器で殺れんの?』


「無理だな。リナムに頼んで、また適当なものを拵えてもらうしかない」


 湾曲した方天戟にもう一度力を込めたところ、いとも容易く折れた。


「……契約前ですらそうだったが、強者との戦いに耐えられる得物とは、中々存在せんな。名が知れているであろう業物が相手となれば、特に」


『刀は詳しくねぇけど……あの女の太刀がやべぇって事は肌で感じる。完全に得物負けしたな。……で、どうすんだ? 一緒に殺るか?』


「あぁ……蒼髪の魔女が真の力、見せてやるしかないようだぞ」


『おいおい、得物に化けるだけで真の実力とか言うんじゃねぇよ。うちがそれしかできねぇ無能みたいじゃねぇか』


堪える事なく、普通に身を起こした靖破。ニヒルに笑うシュラと拳を合わせ、互いに魔力を放出した。


「『魔力結合!』」


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