第9話 ホーンラビットと対峙する受講生達
名前を呼ばれた最初の一人目が前へ出る。
——静まり返る訓練場。
手に持った棒は震え、足は床に根が生えたように動かない。
「じゃあ、山田、入れ」
講師・郷山が檻の扉を開けるが、受講生はピクリとも動かない。
「……どうした? 入らんのか?」
「……む、無理です。こんなの相手にするなんて……自分には絶対無理です……!」
郷山はため息を一つつく。
「そうか。無理強いはせん。では次」
あっさり切り替えられ、次の名前が呼ばれる。
二人目は震えつつも、なんとか檻の中へ入ることができた。
しかし——
戦闘が始まって数秒で、状況は最悪の方向に転がった。
攻撃を振るうが、ビビりすぎて全部空振り。
逆にホーンラビットは素早く間合いを詰め——
「キシャァァァ!!」
ドンッ!
受講生はあっという間に転がされ、次の瞬間にはホーンラビットに馬乗りにされていた。
中型犬程度のサイズとはいえ、暴れる怪物に押さえつけられ、顔面のすぐ上で縛られた口が「ガジガジガジガジ!!」と噛む真似を始める。
受講生の悲鳴が檻中に響き渡る。
——これもう完全にトラウマ案件じゃねぇか!
孝一は心の中で絶叫した。
見ている受講生たちも顔面蒼白。
アズサでさえ「うわ……無理……」と引いている。
危険と判断した講師は無言で檻に入り、ホーンラビットの首根っこを片手で掴んだ。
そして、雑に受講生を外へ放り出し、再び静寂が戻る。
その後も数名が挑戦したが——
●檻に入る前に棄権
●入っても泥仕合の末に押し倒されて終わり
という結果ばかり。
受講生の空気はどんどん重くなり、孝一の心拍数も上がりっぱなしだ。
そんな中——
ついに、講師が一人の名前を呼んだ。
「次……佐藤。入れ」
農家のオッサンがニッと笑った。
「おっしゃぁ、任せときな!」
檻へ向かう背中が頼もしすぎて、受講生の中に小さなどよめきが起こった。




