第8話 もう帰りたい
各々、手頃な武器を選び終わると、講師に呼ばれて実技訓練場へと移動した。
案内されたのは、まるで動物園みたいな場所だ。中央に、鉄骨と分厚い網で組まれた“巨大な檻”が置かれている。
「全員、この前に集合ー」
覗き込んだ孝一は、一瞬で後悔した。
中には——口元をしっかりと革ベルトで縛られた、ホーンラビットと呼ばれるモンスターがいた。
ラビットと聞いて想像する愛らしさはカケラもない。
真っ赤な目でこちらを睨みつけ、「キシャァァァ!!」と金属を引っ掻いたような声で威嚇してくる。
——いや怖いよ!?
——ぜんっぜんウサギじゃないよ!?
——帰っていい?
孝一は早くも逃げ腰になる。
周りを見ると、他の受講生もほぼ同じ反応で、後ずさりしている者もいた。
そんな中、ただ一人だけ平然としている人物がいる。
農家出身のオッサンだ。
——やっぱりこの世界の農家、強すぎない?
さっき「ハグレ退治してた」とか普通に言ってたけど、普通の農作業の範囲じゃないよそれ。
アズサの様子を見ると、彼女はむしろ怒っていた。
「アタシの車の恨み〜〜……!まだローンも残ってたのにぃ……!」
どうやら以前、ハグレに車を壊されたらしい。復讐の炎で目がギラついている。
一方で、残りの受講生は孝一と同様、完全に腰が引けていた。
講師が全員を見回しながら言う。
「防具は着けてもらうが、無理はしないように。攻撃はタックル程度しかできないよう口を塞いで、爪も切ってあるが、それでも怪我することはある。
そして——これは事前の申込書にも書いてあったが、このホーンラビットを倒せない限り、Fランクにもなれない。覚悟しておくように」
——え、聞いてない聞いてない聞いてない!!
孝一の心が一気に青ざめる。
倒せなかったらFランクにもなれない=冒険者になれない=無職。
——なに考えてたんだよ、この世界の俺!?
——なんでこんな危険な試験に申し込んだの!?
講師が続ける。
「ハグレは人数分以上に用意してある。自分の順番が来るまで、焦らず待機してくれ」
孝一は、待機どころか“帰宅”したい気持ちでいっぱいだった。




