第7話 武器選び
郷山講師の説明が終わると、教室の仕切りが開き、奥の実技スペースが姿を見せた。
その中央に――ずらりと並ぶ “武器”。
しかし、孝一は思わず首を傾げる。
(……え、これが武器?
もっとこう……剣とか槍とか、そういうファンタジー的な……?)
並べられた武器は、長さも形もバラバラだが――
どれも、木の棒に金属のパーツをくっつけただけのように見える。
・1メートルほどの木の棒の先端に金属カップを取り付けたもの
・中距離用らしき、バットくらいの太さで先端だけ金属を巻いたもの
・農具のクワを短くしたような、軽量の叩き道具
刃物は一つもない。
「あの、講師……質問いいですか?」
30代くらいの受講生が手を挙げた。
「剣的な物とか、槍みたいなのって……ないんですか?」
武器の前で立っていた郷山が、ため息をつきながら首を横に振る。
「……その質問、何度目かわからん。
どの研修でも必ず聞かれるが、Fランクに刃物は渡さない。これは原則だ。」
郷山は武器棚の前に立ち、淡々と説明を続けた。
「例外的に、包丁程度のナイフや、山で使うナタくらいはある。
だが――俺はお勧めしない」
受講生たちがざわつく。
郷山は一本の太めの棒を持ち上げ、軽く左右に振って見せた。
「まず、刃物を振り回した経験があるやつなんて、ほとんどいない。
そんな素人が重たい金属の塊……たとえば、金属製のサーベルなんかを持ったらどうなるか?」
再び棒を軽く振り、「これでも重いぞ」とでも言いたげに肩をすくめた。
「数回振るだけで腕が上がらなくなる。
重心は先にあるから疲労も早い。結果、武器がただの荷物になる。それに、刃物を扱った事が無い者になんて事故を起こす事しか思い浮かばん」
受講生は納得の表情を浮かべた。
続けて、郷山は木製の長棒を掲げた。
「それに比べて――この木の棒は違う。
先端に硬い金属を巻いてあるが、重量は軽い。
適度にリーチがあり、適度な重さもありモンスターとの距離も保てる。
“殴るだけ” なら素人でもなんとかなる武器だ。それに、ダンジョン外にいるハグレは素人でも当たりさえすれば十分倒せる」
孝一の中で、リアルな実感が生まれてくる。
(なるほど……確かに、疲れた状態で剣を振るうなんて無理だわ……
ブラック企業時代、ペットボトルすら重かった時期あったもんな……)
郷山は場全体に向けて、短く告げた。
「武器は命の延長だ。
だからこそ、今の自分でも扱えるものを選べ。
――では、各自“手に馴染むもの”を選べ」
受講生たちが一斉に武器棚の方へ歩き出す。
孝一も、その流れに混ざりながら――
自分はどれを持つべきなのか、少しだけワクワクしながら武器棚へ向かった。




