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第61話 ダンジョンからの脱出


 斑鳩イカルガは、少しだけ間を置いてから、こん棒を振り上げた。


「……じゃ、行きます」


 ゴンッ――鈍い音。

 ダンジョンコアにこん棒が叩きつけられた瞬間、

 轟音が空間全体を揺らした。

 ヒビが走り、次の瞬間――

 天井が、割れるように開き始めた。


「うわ……」

 斑鳩は思わず見上げる。


 ダンジョン崩壊にはいくつかパターンがある、と聞いたことがある。

 一気に壊れる場合もあれば、ゆっくりと圧縮されるように消えていく場合もある。

 一応、生きている人達は生きたまま放出されるのは共通してはいる。


 だが後者だと、ボス部屋以外では通路が狭まり、

 逃げる途中で敵と鉢合わせになる事もあるらしい。


 だが今回は――


「……上?」

 辻本が呟いた、その直後。


 ぐん、と身体が持ち上げられる感覚が来た。

 まるで巨大なエレベーターに乗せられたように、

 床ごと、空間ごと、ゆっくりと上昇していく。


「おぉ……お〜……」

「うおっ」


 周囲から、口々に声が上がる。


 斑鳩と辻本は、驚きはしたものの、比較的冷静だった。


 少し足元が不安定で、内臓がふわっと浮く感じがする程度だ。

 ――が。


「や、やめて……!」

 突然、瀧山講師が叫んだ。


「今、今動かれたら吐く!!」 「勿体ない!!」 「エロエロエロエロ……っ」


 意味不明なことを叫びながら、

 その場に突っ伏す。


 そして――

 盛大に吐いた。


「……っ!」


 上昇中という最悪の条件が重なり、

 床に広がったそれは、若干ふわりと舞い上がり――


「うわあぁ……」

 斑鳩は反射的に一歩引いた。上昇中で殆ど動けなく若干、掛かってしまっている。


 辻本は顔を引きつらせ、視線を逸らす。


 瀧山講師はというと、

 完全に床に伏したまま、うめき声を上げている。


「……最悪だ……」


 斑鳩は心の底からそう思った。


 ――ダンジョン崩壊。

 命が助かった代償としては、あまりにも酷い光景だった。




 ダンジョンから放り出されてから、しばらくの間。

 三人は、無言で後始末をしていた。


 瀧山講師が盛大に吐き散らかした“それ”を、

 布で拭き取り、水筒の水で流す。


 正直、地獄絵図だ。


 斑鳩イカルガは、水筒を握りしめながら心の底から思っていた。


 ……水筒があって、本当に良かった。


 なかったら、精神的にも物理的にも終わっていた。


 ある程度きれいになったところで、

 瀧山講師が大きく息を吐いた。


「ふぅ……本当に大変だったわねぇ」


 しみじみとした口調で、空を仰ぐ。


「とんでもない事に巻き込まれたけど、助かって良かった〜」


「……半分はそうですけど」

辻本が即座に突っ込む。

「貴方がそれを言う!?」


「まあまあまあ」

斑鳩は2人を、たしなめる。


瀧山講師は気にした様子もなく手を振る。 「結果オーライって事でしょ? 生きてる、生還した、偉い!」

 そして、急に真面目な顔になる。


「それよりさ、これからの事を話そう」


「この状況を、どうやって報告するか」


「そそ、いいこと言うじゃない」

辻本も頷く。

「前向きに話し合いましょ。これからの事を」


 ……その最中。

 ゴクッ。

 嫌な音がした。

 瀧山講師は、何事もなかったかのように酒瓶を口にしていた。


「……ちょっと!?」

辻本が声を荒げる。

「また飲んでる!? 安全な場所に着くまで、気を抜かないでよ!」


「気を抜かない為に飲んでるんじゃない〜」

瀧山講師は、あっけらかんと言う。


 そして、そのまま語り始めた。

「実はね、あんまり言いたくなかったんだけど

まだ完全に安全なエリアじゃないし、言っとくわ」


 二人の視線が集まる。


「私の固有スキルの事」


「……固有スキル?」

斑鳩が聞き返す。


「そ。知ってる人、ほとんどいないんだけどね」

瀧山講師は、酒瓶を軽く揺らした。

「スキル名――『飲酒』」


「…………」 「…………」


 沈黙が、流れる。


「アルコールが血中にある間だけ、能力が上がるの」

「筋力、反応、魔力制御、ぜーんぶ底上げ」

「だから危ない時には、酒が欠かせないわけ」


「……本当に?」

辻本が露骨に疑わしい目を向ける。

「怪しすぎない?」


「本当よ!」

瀧山講師は即答する。


「酒なんて味も分からないし」

「飲んだ後は頭痛いし」

「下手したら、動けないくらい気持ち悪くなるし〜」


「それ、デメリットしか聞こえないんだけど……」

 そのやり取りを見て、


 斑鳩は軽く頭を振った。

「……とにかく

ここは、ダンジョンがあった場所のすぐ近くです

ハグレや残存個体が出たら厄介だ」

 二人を見る。

「この辺りで、これからの方針を整理して  安全な場所まで移動しましょう」


「確かに……」

辻本が頷く。

「ここで揉めてる暇はないわね」

「戻るまでの間に話し合いましょうか」


「えぇ〜……」

瀧山講師が露骨に嫌そうな声を出す。

「歩くの?

 はぁぁ……もうちょっと飲んでいたかったな……」


「やっぱり!」

辻本が即座に叫ぶ。

「どう考えても、単なるアル中でしょ!!」


「失礼ねぇ、これは戦闘用よ?」


 そんな言い合いを背に、

 斑鳩は静かにため息をついた。

 ……どうやら帰り道も、

 幸先の思いやられる展開になりそうだった。




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